186話目 (前世の記憶) 今日は昇天日和だった 敦忠side
「あいたぁ〜!」
「敦忠ーー!!大丈夫ーーー!?」
姉さんが崖からひょこっと顔を出す。
何と、俺はまたこの崖から落ちていた。
「ロボットだから、痛くないけど
··········ぜんぜん飛べないぞ?」
俺は飛行訓練をするために例の崖の上に立ち、飛び立ったがすぐに真っ逆さまに落ちてしまった。
機械の身体は手足がバラバラに空中分解して地面に散乱してしまっている。
この身体に、本当にジェットエンジンなんてついてるの?
「お、おかしいわねーー?」
崖の上のメガネの姉さんは首を傾げる。
「姉さんって、別に科学者ではないもんな··········」
正直、姉さんの狙いが分からない。
俺をこんな風に改造してどうしたいんだ?
大体、電子工学の本やら機械学の本やら読んだだけでアンドロイド作ろうなんて無茶もいいところだ·········
崖の下に姉さんと幼女の稲荷神とで助けに来てくれたけれど、俺の機械の身体は重くて二人では到底持ち上げられない。
「師匠を呼んで来て!」
姉さんは稲荷神の幼女に言う。
『エー、今回は来てくれないかもしれないですよ?
この前は右月様が、崖から落っこちたって伝えたら飛んで動かれましたが。
この男には一言、燃やして土を被せておけと』
「あの時は、ただの人間だったもの!
それに結局運んでくれたし」
『同じですよ。まだ飛べないんじゃ神とは言えないのではないですか?
まあ、燃えるかは微妙そうな身体ですが·········』
チロリと俺に冷たい眼差しをむける幼女稲荷神。
『右月様が直に頼めば運んで下さると思います』
「本当!?分かったわ!私が呼んでくる!
敦忠をちゃんと見てあげててね!」
『ハイハイ········ごゆっくり〜』
ごゆっくり、だって?
幼女は細い目で笑いながら手をひらひらさせて姉さんを見送った。
もう姉さんに全然似てないな。
造りは姉さんの美しい顔でも、お稲荷さんのキツネそのものの表情だ。やっぱり内面は外面に出るようだ。
『さて·········』
キツネ顔の幼女稲荷神は、ぐるりんと首を回してこちらを向いた。
『あんた、いつ天上へ行くんですか?
宗主神が聞いてこいと煩くて』
こいつはあの白い男を宗主神と呼ぶらしい。
「いつって············まだ飛べないし················」
天上って神々が宗教戦争をしているって物騒な場所だよな?
『宗主神が天使の羽をつけてやるって言ってますよ。ハイテクとやらは無理なので諦めろとのことです』
「俺は地上を離れる気はない」
姉さんはここにいるんだから、俺も当然ここにいる。
『えっ······?あんた、神になりたくないんですか!?』
「別に。人間でいい」
寧ろなりたいやつっているのか?
こいつは元々稲荷神だったみたいだから人間なんてと見下げているのかもしれない。
幼女稲荷神は俺をすごい勢いで指さした。
『あーっあーーっっ!!
あんた!右月様に懸想してるでしょ!!!
ダメですよ!?
あの方に手を出してみなさい、直ちに宗主神に焼かれて土をかけられますよ!!!』
う、うるさい··········
「大体、二人は本当に夫婦なのか?
それにしては、よそよそしいような。
············お前ももちろん二人の子供じゃないんだろ?」
俺は今だに気になっていることを聞いてみた。
『それだ!だから私はお教えしたんです。
日本には夫婦の神々が沢山いて、仲睦まじく暮している場合があると。
日本神話のイザナキとイザナミは世界史上初めての夫婦の神です。離婚してるけど。
ちょうどそういった子供向けの絵本を宗主神がお持ちだったので、日本の神という立場から日本の神話を説明して差し上げたのです』
「え、········それで?奴は何だって?」
『二人の夫婦神としての関係を考えると仰っていました!』
何だそれ············
姉さんともっと仲良くなりたいってこと?
っていうか姉さんは神じゃあないぞ。
『とはいっても、神は自我が強いから同居で暮らすことはあまり無いんですけどね〜』
「···········もういいよ。早く工房へ戻りたいんだけど」
『待ちましょう。宗主神は右月様とお話するときだけ時間を何倍もゆっくりにして会話を楽しむことにしてるそうです。
時を戻して何度もリピートして鑑賞することもあるらしいですよ』
ほんと何それ·············
助けを呼びに行った時も、それやるの?
「怖·········神のストーカー怖い·········」
嘘か真か、神まで出てくるとはな。色々、俺も死ななかったりおかしな身体にされたりと、神業と言える事が起きたから信じないわけにはいかなかった。
こいつは、間違いなく今までの姉さんの誘拐の集大成、ラスボスだなと思う。
俺は諦めて自力で身体を起こした。
『あっ、あんた········!コンコン!』
稲荷神が驚愕の表情を向けてくる。
俺は自力で立っていた。
「あっ··········身体が戻ってる········!?」
ゴテゴテの機械の身体は消え失せて。
五体満足そうな人間の身体だった。
いやいや、背中が重いぞ?
「羽が生えてる··········!!」
俺の背中にはまるで天使のような立派な羽が生えていた。
羽は大きく伸ばして宙いっぱいに広がり、勝手に羽ばたき出す。
『これはもしかして宗主神が!?
おっおい········あんた!飛んじゃいますよ!?』
バッサ、バッサ、バッサ、バッサ !
俺の違和感ありまくりの羽は、羽ばたきをぐんぐん早めている。
「やっ止めろ·········!!」
バッサ、バッサ、バッサ、バッサ !
足が浮きかけた時、
俺は急いで体勢を崩し、羽を岩に打ちつけて、
羽を折った。
「ッッ痛··········!!!」
鈍痛が身体いっぱいに走る。
俺は地面に崩れ落ちた。
温かい血が、どくどくと羽の根元から流れ出ているのを感じる。
「あ、危ないところだった··········
危うく···········昇天してしまうところだった」
俺は痛みで身動きが取れない。
しかし、血まみれになりながらも安堵の為、微笑すらしていただろう。
『あんた·········そこまで··········!』
俺が出血で気を失いそうになって視界を細めていく間に視界の端に映ったのは、幼女稲荷神の背後に立つ、
宗主神と呼ばれる男の怒りに満ちた姿だった。
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