181話目 魔女は水晶の向こうで笑う 敦人side
俺と金原宮が驚愕の表情を浮かべていたら、
「あら、どうしたの?
よく考えたら私、敵の大将の顔も名前も知らないから、こうして護摩木に名前を記すことができなくて。
それよりは、名前も顔も知っている成人男を呪った方が確実だと思ったの」
と、水晶の向こうでしれっと言うアラディア。
そうだった。
敵でも味方でも成人男なら誰でも呪われ死ねと望むのが彼女だった。
よくよく考えてみれば、今まで味方っぽく感じていたけれど、アラディアは自慢気に知識を披露していただけでは?
俺たちはすっかり騙されたのだ。
あれ?じゃあ、麻亜沙に飲ませる為に渡していたペットボトルの薬、あれ、大丈夫だろうな··········?
やば··········
アレはもう妖精たちが持って行ってしまった。
俺は信頼した自分は正真正銘の馬鹿だったと、ようやく気づいたのだった。
「でも、やっぱり勝手が違うわね。力が全然出ない。本当ならもう呪い●せているはずなのに。これだと明日のお昼までかかってしまいそうよ」
「力が出ない?」
それはおかしい。悪しき力で満ち満ち溢れていると思うけれど。
「私はただの“記憶”だから、力がほとんど使えないのね。力は魂に付属するものだから········」
「? 学校では私に色々な魔術を披露して下さっていたではないですか?」
金原宮は、アラディアの言う『自分が“記憶”』とは何の話かと怪訝な顔をしている。
こいつは今だに、アラディアは右子がちょっとイメチェンしたぐらいにしか思っていないようだ。
「あれは救世主が近くにいたからよ。
無尽蔵に力を内包している救世主から無意識に力を貰っていたみたい。
燃料タンクみたいなものね。
私自身には力がないって、私もここに来て、救世主と離れて初めて気づいたんだけど」
アラディアに力が無いなんて全然気がつかなかった。
彼女は様々な呪術の薬学や知識が豊富なので、工夫して過ごしていたら特に不便もなくやれていたらしい。
「魂を持つのは現代の右子だけ。
“右子”にも神に匹敵する力があるのに、口惜しいわ」
「右子に力がある?
『病の力』のことか?」
「それだけじゃないわよ?
本人が気づいていないだけで強力な他の力も持っているもの」
他の力って!?
「早くこの身体に右子の魂が、欲しい··········
私は················待っているの」
待ってる?
「な、何を?」
「夢の世界で現代の右子が薬を飲むのを待っているの。
実は、妖精たちに渡したのは『永遠に眠り続ける睡眠薬』なの。
私、同期は怖いから現代の右子を眠らせることにしたの。
そして、魂ごと、この身体へ戻ってもらうわ。
現代の右子は、この身体の夢の中で永遠に眠ることになる·················」
クックックッ
アラディアはこれまでで一番、楽しそうに笑った。
「みっ、··············右子が危ない!!」
俺は頭が真っ白になる。
アラディアが妖精たちに渡した薬を右子が飲んでしまえば、惚れ薬の呪いが解呪されるわけではなく、永遠の深い眠りについてしまうという。
しかも、魂はアラディアのいる右子の身体に収納されるという。
自己主張の強いアラディアが右子の身体に居座れば、例え目が覚めることができても、本物の右子は本当に永遠に表には出てこれないだろう。
「右子様はここにいますけど············」
金原宮はアラディアを見て呑気に言うしで、俺の思考を邪魔する。
俺と金原宮と近衛騎士たちとで、焚き火を即座に消して、痕跡を消すために足で砂をかけまくった。
しかし、アラディアが占ったすぐ北西にいるという敵兵は、やはり焚き火のお陰なのだろう、実に正確にこの場へ来ることとなる。
「え?···········これ、何??」
30数名もの、火の玉たちがそこにはいた。
蛍よりは大きいそれらは
フワフワ浮かんでいる。
「············心霊現象だ!」
「いや、だから妖精よ?」
アラディアが言う通り、妖精たちだった。
そういえば先ほどの妖精たちも始めはこんな格好での登場だった。
あいつらの仲間かは不明だが、もう珍しくも何ともない。
その中の一際大きな火の玉が、更に大きくなり俺たちと変わらないぐらいの背丈の人の姿に変化した。
とても美しい男性の姿をしている。
「銀髪翠眼のイケメンか········」
さすがに妖精だ。人外の美しさとでもいうのか。
見れば、みんな成人サイズに変化していて、甲冑だの兜だのをそれぞれが装着しておまけに刀を携帯している。
ほとんどが負傷しており、あちこち包帯を巻き血を滲ませている。
「これは、まさか戦争に参加して··········!」
『私は妖精の王です』
「!!」
『近年の寒冷化気候と人間の都市開発による環境破壊の煽りをうけ我々は住みやすい環境を失い、新天地へと南下政策を押し進めてきました。
しかし、ここに来て、道を阻む種族が現れ、この森で衝突になったのです』
え?何か全然知らない話だな········
これって俺たちの戦争とは一ミリも関係してないのでは?··········人外の、妖精だし。
『ここで焚き火をしていたあなた方は敵兵士ではないと確信しまして出てきた次第です。どうか、お助け頂きたい』
「いや、でも·······」
一ミリも俺たちにできることなんて無いと思うけど。
「この森に私達が移住する権利を頂きたいのです」
妖精の王という奴は、
跪いて懇願する。
一心に見つめる視線の先には、
冷酷に妖精の王を見下ろす、
女王のような魔女のアラディアがいた。
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