180話目 燃えろよ燃えろ 敦人side
「これまで色々な人間を呪い●してきたけど··········」
アラディアがヤバい独白めいたことを言う。
「············今回は勝手が違うわね」
「?」
正直、李鳥宮が本当に彼女を戦士として連れて来たとは思っていない。あの時は本物の右子が中に入っている可能性があったし、そもそも帝女を戦場で危険に晒すなんてありえない暴挙だ。
今回の『帝女の戦場利用』は、アインから遠ざけ帝都を離れる為の方便だったはずだ。
つまり、李鳥宮が望まない事態が今この森では起きていた。
「事前に聞いていた、軍の大将である李鳥宮の計画では、北からの侵攻を山岳地帯の地形を活かして挟み撃ちにするという事だった。北の森は少し離れているので戦闘には巻き込まれないと思っていたが·······」
金原宮は悔しそうに言う。
「言っても仕方ない。敵の数はどのぐらいなんだ?」
「おそらくは数十名という話だ。通常の部隊では珍しい少人数だと思う。
もしかしたら秘密裏の部隊かもしれない。森を抜けて李鳥宮の本部隊の裏に踊り出るつもりか··········?」
金原宮に入ってきた情報はまだ不確かなようだ。
「だとしたら、少人数であっても精鋭が揃っていそうだ。どちらにしてもこちらが不利であることは変わらない。こちらはどうあがいても20数名ほどだ。ここは迎え撃つより、退避したほうが良さそうだ」
俺は今回に限っては、このメンバーでは逃げるが勝ちだと思わずにはいられない。俺や麻亜沙の他にも、研究所から金原宮が引き連れてきた学者など、兵士は半分にも満たないのだ。
俺は金原宮の判断を待つ。
この研究調査チームは、一応は軍隊に部隊として所属している。金原宮はここの部隊長だ。
俺たちが戦局を予想している間、アラディアはつまらなそうに口笛を微か〜に吹いて遊んでいたが、口を開く。
「待って、相手を見誤ってはいけないわ。
迷い········怖れ、後悔、憎しみ。
···········案外、敵の敗戦兵かもしれないわね」
「アラディア?」
「彼らの感情よ。かなり動揺している様子だわ」
「そんな事が分かるのか!?
やつらはどの辺りにいる!?」
「あら、ちょっと待って。何となく察知できるだけなの。詳細が知りたいなら·············
占いをしないと分からないわよ?」
占い?ここで?
アラディアは地面に草の生えない平らな場所を見つけると、カードを並べ始めた。
「おい········」
「この現代に流行しているタロットカードよ。並べるの手伝って」
「···············」
指示通りにカードを並べると。
アラディアは慎重にカードを捲っていく。
「敵部隊は30名ほど。ここからすぐ北西にいるわ。
あら? 大将クラスの人物が、そこに紛れ込んでいるわね」
「北西に!?すぐ近くなんだな!?」
「権野宮少年!今すぐ焚き火をしなさい!
··············危ないから、私から数十メートル離れた所でね」
「はあ!?焚き火!?火を起こすのか!?」
「ええ、···········私が呪い殺すわ」
戦場なのに、占いで呪い殺すの!?
「こんな場所で火を起こすなんて、こっちの居場所を知らせるようなもんだ! すぐ近くにいるんだろ?冗談じゃないよ!?」
「大将がいるのよ?ここで呪い殺さない手はないでしょう?」
大将!?
部隊長なんかよりずっと偉い···········この戦争に責任を持つような奴が、本当に?
敵の李鳥宮のような立ち位置の大将がこの森に逃げ込んだと言うのか?
た、確かにここで万が一にもそんな大物を呪い殺せれば、それに越したことはない。
でも焚き火はまずいだろう。
「私が呪い殺すには焚き火が必要だわ。
権野宮少年は『病の力』で火の力を使えるのよね?あなたがあちらに覚られない火加減をすればいいでしょう?」
えええー·······どんな火加減だよ?
·········料理じゃないんだぞ?
「しかし、この不利(じゃない?)な状況で、戦闘もせず大将クラスの大物を殺せたらかなりこちらに有利になるな··········」
金原宮が微かな希望に縋ろうとする。
「そ、そうだけど」
結局、俺は皆からちょっと離れた所で焚き火をすることになってしまう。
俺は背負っていた麻亜沙を下ろし、近衛騎士に託した。
アラディアは水晶を懐から出して俺が焚き火する様子を映し出し、遠隔操作を決め込んでいるようだ。
彼女は前世で火炙りになってからリアルの火が苦手なのだという。それなのに、人を呪い殺すのに火が必要とは因果応報だ。
火力を極限まで抑えて·········
「いいわよ!いい!もう少し!若干強く!」
アラディアが用意した呪文が書かれた木の札を近衛騎士がどんどん投げ入れてくる。
ボボッッ
もっとタイミングを見て入れて欲しい!
火力が強くなる!
俺は淡々と調節する。
金原宮が呪いの儀式が大変珍しいと、わざわざこっちに見に来てしまう。
部隊長はあっちで皆を守って欲しい。
「本当に、魔法でこんな呪術をするとは、初めて知った。
これは修験道にも通ずるような··········護摩との共通点を見つけられる独特の魔術のようだ」
金原宮はとても感心している。
確かに、魔女っぽくないよな?これ?
「はっ、これは········」
カランッ
木の札を手に取って眺めていた金原宮が札を落とした。
そこにつらつらと、
おどろおどろしい呪文と一緒に書き殴られていたのは、
··········『李鳥宮奏史』
紛うことなき、うちの大将の名だった。
これって、誰を呪い殺すんだっけ?
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