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17話目 弟との再会 右子side

果たして、ドアの番人はすぐに中へ入れてくれた。

異国の薬剤師設定がリアルで功を奏したのだろう。


座敷牢の部屋の中は、もう昼だというのに部屋は薄暗く、天窓からの光のみが細く室内へと落としていた。

敦人は、と見ると、彼はベッドの上、頭をこちらへ向けて逆向きで寝ころがっていた。


なんで逆に?


彼は寝息を立ててよく寝ている。

夢見が悪いのか眉間にシワが寄っている。


「敦人······」


私はまず久留米医師に持たせていた差し入れの入った大きな風呂敷を受け取り、どんっと床に下ろした。


その衝撃か、敦人が僅かに動いた。


「·····姉さん······」


いや、起きていない。寝言だろうか。

どの姉さん、を呼んでいるのだろうか。

彼に姉さんという人物は私を含めると3人いる。

私も久留米医師も顔を見合わせる。


「姉さん、行かないで。」


するとどうだろう、

俄然かわいい弟のように思えてくる。


久留米医師に釘を制される。


「姫のことじゃないでしょう。」

「も、もちろん。」


姉と言われると反射で反応してしまう。ベールで包帯顔をパタパタ扇いで熱くなった自分を冷ます。


「こんな状態でも、裏切られた姉を想っているのか、·····真正の姉狂いだな。」

久留米先生は遠慮なしに蔑みの顔を向けている。


「そ、そんなことより、敦人の診察を。」


「分かってますよ······体温が熱い。熱すぎる。これが、『超常の病』?」


久留米医師は体温計で敦人の熱を測っている。

「これはただの風邪ではないな······もしや、スペイン風邪·······ジフテリア······腸チフスか?」


私は真っ青になった。どれも聞いたことのある悪い流行り病だ。


「行かないで·······姉さん······」

「敦人。」


「目の周りの窶れから、嗜眠性脳炎って感じもあるけど、まだ何とも。」


「本当に具合い悪いの······?」

熱そうに息を上げている。

私は目が潤む。


伝説の宝刀なんかじゃなかった。


久留米医師はいつの間にか、布巾を顔に巻きつけてマスクにしている。伝染病を疑っているのだろう。

私は······ベールも包帯もしているから平気だろう。


「取り敢えず、差し入れだけ置いて姫はさっさと退出してください。ここに近づけてはいけなかった。」

悔いているのか、いつになく顔が険しい。


「姉さん·····渋谷に······行かないで······」

ん?渋谷、と言った?ずいぶん具体的だな。


「えーと、渋谷?この前の金原宮先生との買い物は銀座に行ったけど······」


「だからあ、彼の言う姉は姫のことじゃないですよね?」


はっ、そうだった。

久留米医師は呆れている。


それに、今世の渋谷はまだ何もないような森の中の地名だ。なぜ渋谷なのだろう?


でもそれよりも、敦人のこれって『超常の病』じゃないの?

確かに熱で苦しそうだけど、重病にしては顔色が良い方だと思うし、何か違和感がある。

久留米医師の静止を振り切って私は敦人に近づいた。

敦人の顔を覗き込んで、額に手をのばした。



この時、敦人の体温は最高温度を記録しただろう。

ゴオッッと音がして熱風まで感じる。


そこで、急に私から光が漏れて拡がっていくのを感じる。


「姫っっっ!!」


久留米医師から悲鳴のような声が出ている。彼がこんなに動揺するなんて。


私は慌てて、熱すぎる敦人のおでこから手を離して久留米医師の方へ手を伸ばす。

あっ、ちょっと火傷したかも?


言っておくが、私の光にラノベでよくあるような癒やしの力は無いので敦人の病を治すことは無いと思う。

期待しないでほしい。


そう医師に言おうと口を開きかけたが、


そのまま私は敦人から発せられた熱風に取り込まれていった。


その途中、私から発せられた光はますます強くなり目を瞑った。

·········自分が眩しいなんて、本当にめちゃくちゃだと思う。


熱風と光に包まれ、私はゆっくり意識を手放していった。


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