176話目 デートだったんだね 右子side
『フハハ!
僕は北から来た妖精達にイタズラでこのラクーンの姿にされてしまってから、すっかり心がねじ曲がってしまったのだ!
ウッ!? 止めろ! シッポを掴むのは!?』
ラクーンは、4人の近衛騎士達に囲まれ、しましまのシッポを掴まれて脅されていた。
「ああ!」
「あっっつ!」
私と敦人はもう一回やってみたけれど、手の触れたところが熱くて、やっぱり手を繋げない。
「ほら!バチバチするぞ! 絶対、これ電流じゃないか!」
「えええ!? で、でも私やってないもん!」
そもそも麻亜沙の身体で『病の力』使えるの!?
確かに手は電流が走ったみたいにビリビリしている。
「麻亜沙、『病の力』の訓練一切してないだろ? 制御出来てないんじゃないか!?
俺に触れられたくなくて、無意識に拒絶してるとか·········!」
「そ、そんな!?」
『フハハ! ケンカしてる♪』
ラクーンは嬉しそうだ。
さすが心がねじ曲がっていると自己申告するぐらいはある。
「これ、麻亜沙に一切触れられなくなってるんじゃ··········」
敦人は恐る恐る、私の頭をなぜなぜ撫ぜた。
「················髪の上からは大丈夫か·······?」
「·············」
それから頬を撫でる。
敦人の指は温かくてちょっと荒れていて、少しだけさっきの熱が残っていた。
それから、そのまま敦人の指は私の頬を下に伝っていき、
············私の顎をクイッと上げて、二人の目が合う。
「「············」」
私達はけっこう触れられる。
それが意外で、
私たちはお互いを探るように見つめ合っていた。
「ゴホンッ」
槙田くんの咳払いが聞こえ、近衛騎士達の視線を感じる。
私は我に返った。
今、おかしなムードだったかしら?
そうだ、他の場所は問題無く触れられるということは············
私たちは手を繋ぐの限定でできないのだ!
「そのぐらいなら、まあ、気にしなくてもいいか」
私はとりあえずホッとした。
だけど敦人は、ラクーンに詰め寄っている。
「···········手を繋げない!! 早く呪いを解け!」
敦人に、ガグガク揺らされるラクーン。
他は触れられたので、
私の拒絶という線の疑惑は晴れたみたいだ。
『グゥ·······ま、待て、僕が呪いをかけたわけじゃない。
北から来た妖精だって言ってるだろ!?』
「いや、お前に決まってる!
妖精なんてここにいない奴よりお前が数万倍も怪しい!」
確かにそうかもしれない。それにこのラクーンは何か知った風だ。
『··············ス、スプーンを!
僕のスプーンを湖に潜って取ってきてくれたら、妖精の呪いを解くとっておきのヒントを教えてやるよ!』
敦人は、上のシャツを脱いだ。
「えっ! ま、待って! 泳げるの!? 敦人!!」
バッチャーーン!
敦人は即座に湖に潜ってラクーンの銀のスプーンを取って来た。
今世は泳ぐなんてことはめったになく、学校の授業でもやらないので心配したけれど、前世の記憶で何とかなったようだ。
さすがは敦人だ。
敦人は水も滴っているが、
今は『病の力』で服を一瞬で乾かしている。
相当、火の力を自由自在に操れるようになったみたいだ。
『!? お前、妙な技を使うな!?
もしや·········お前こそが妖精なんじゃ···········』
ラクーンはしっぽをふりふり訝しみつつも、注意深く歩み寄り、恭しく両手を掲げて敦人から銀のスプーンを受け取った。
『ありがとう! 僕はこれで食べる事に困らない!
では! 助言を授ける!
妖精の呪いから脱する為にはな。
·············条件の抜け道を探すんだ。
迷路みたいなもんだよ。必ず抜け道はどこかにある。そこを糸口に、自分で呪いを解除するんだ!』
「············時間の無駄だったな」
敦人は、しっぽをつかんでラクーンをぶら下げて湖の上に掲げた。
「だ、だめ!」
私は咄嗟に庇った。
愛らしい動物の姿をしている限り、湖に落とすなんて視覚的に耐えられない。
それに、呪いを受けて動物の姿になってしまったなんて、とてもとても気の毒な身の上ではないか。
性格がねじ曲がってしまっても無理はない。
私は庇おうとして、このもふもふをつい抱っこしてしまった。
あっ、毛は思ったよりかたくてしっかりしてるけど、もふもふ〜!
「麻亜沙···········そんなやつ抱っこして、大丈夫か!?」
敦人はのけ反って私の行動を見守っている。
『やっやめろ! 俺は愛玩動物じゃない!
外来生物だ!!』
湖に落とされそうなのを庇ったのに、私は嫌がられてしまう。
「いいじゃない··········ネッ!」
私が満面の笑みで笑いかけると、ラクーンは赤くなって大人しくなった。
まんざらでもないようなので、私はこのまま抱っこしていることにした。
例え性格がねじ曲がっていても、このもふもふには癒やし効果がある。
「············せっかくデートだったのに」
敦人がボソッとこぼした。
「えっ、今なんて···············」
敦人は慌てた。
「い、いや、男女二人で歩いたら、それはもうデートだろ? それなのに手を繋げないとか············」
「はあああ!? デートなの!?
いつ? 今? この時が!?」
敦人がムッとして、顔を逸して答える。
「い、いや、そんな感じってだけで、俺が勝手にそう思ってただけだから! 違うから! 手も繋げないし!」
男女二人で歩いてデートが成立するなら、
敦人って色々な人と既にデートしてることにならない?
それに、私たちもいつも二人で普通に歩いてるし、簡単に手も繋いでいた気がする。
私たちって、デート何回目!?
「敦人の初デートって···········ちなみに、いつ?」
幼稚園とかかな?幼稚園行ったことないけど。
「············いつだろ、
一年前、座敷牢からミーシャと脱出したときかな」
「あれね! 脱獄ね!」
思ったより最近だった。
敦人の中では、初デートは私だった。
あの時そんな雰囲気でした?
敦人って、、どこかズレてるんだよねー·············
不意に私の腕の中にいたラクーンが、
『別れろ〜っ、別れろ〜っ』
と唸りつつ、念を飛ばしてくる。
私たち恋人じゃないからね?
「麻亜沙? どうした?
片手を出してきて············」
「じゃあ、手、繋ごう?」
「ハァ!? 電撃浴びせるくせに!?」
「私じゃないって! いいじゃん、ちょっとビリッとするぐらいでしょ」
「お前はな!? 電気に耐性あるからな!!」
敦人は驚愕の顔で、真っ赤になっていた。
そっか、私より被害あったのね。
それなら·········
私は抱っこしているラクーンの手を、そっと敦人に差し出した。
「あ、短いか」
私は今度はラクーンのしましましっぽを差し出す。
敦人は黙ってそれを握る。
再び森の小道を二人で歩き出した。
「これで手を繋いでるってことで。
デート、でいいよね?」
「まあ··········いっか」
敦人は、頬を染めてはにかんで笑った。
『おいっ!僕のしっぽ、強く掴むなって!』
ラクーンの騒ぐ声が森にこだまする。
··········あれ、
··········敦人って
··········もしかして
私のこと好き·············?
そんな気がしなくもなくもない、
森の散歩道だった。
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