174話目 人間の男ってキライなのよね 敦人side
「中身が右子様で本当に良かった。
もしまた右子様を見失ったら、帝都にトンボ返りして、あの王子をどうにかしないといけないところだった」
奏史は麻亜沙が目を覚ましたら、かなり肩の荷が降りたようだ。
揃ってスヤスヤ眠る麻亜沙さんと右子の身体を車内に並べて、俺達はどんなに不安な思いだったか。
とにかく、どちらでも右子の中身が入っていれば構わないという感じだった。
右子に纏る近頃の事件は、本当に全てがアインのせいなのだろうか?
そうであれば、さすがの俺もあいつとの付き合いを考え直さないといけないな。
奏史は、後は頼むと言って違う車両へ急いで行ってしまった。
移動中であっても、本来なら参謀達と同車して打ち合わせや戦の計略を巡らせたりと忙しかったのだろう。
何せ数日前に北の侵攻が一層激しくなり、戦況が大きく動いたばかりだった。
奏史はトンボ返りなんて言うけど、到底そんな状況ではなかった。
俺は奏史に代わって麻亜沙と魔女の右子が乗車する、大型四輪駆動車へ乗り換えた。
これは高機動車といい、大勢が乗りこめる軍用の車両だ。いつの間にか軍用技術が大躍進を遂げていると感心する。
「美しい·······なんて美しいの」
麻亜沙は、対面で眠る魔女の右子を眺めては、さっきから溜息をついている。
この車両には俺と麻亜沙と魔女の右子と近衛騎士が数名乗っていた。
「何言っちゃってるの? 自分の身体に?」
俺は隣にいる麻亜沙を横目で胡乱に見る。
確かに綺麗だけど、自分の容姿を褒めて恥ずかしくないのか。
「い、いいでしょ!?
やっぱり中身が特別だと、外見も輝くってことよ!
今、この中には特別な魔法使い様がいらっしゃるんだから」
「輝く? それはないだろ?」
とんでもなく綺麗で右子の割には妖艶なムードが満ち過ぎてしまっているけれど、いつもの光輝く光彩に関しては鳴りを潜めていた。
寧ろ、こっちの麻亜沙が輝いている。
麻亜沙さんの身体で覆われているけれど輝きがじわっと隙間から漏れ出ている奇妙な感じだ。
俺はこの光り輝く特徴は魂に備わった特質で、それを透過する身体が合わさって初めて発揮されていたのだと知る。
それでも、こんなに輝きが漏れ出ているのに気づかなかった自分には今更ながら呆れてしまう。
ぱちり!
魔女の右子は目を覚ました!
「「!」」
俺と麻亜沙は思わず手を取り合ってのけ反る。
「···············」
「お、おい、大丈夫か? 魔女の右子·······」
無言でいる魔女の右子を心配して、
俺は目の前で手をひらひらさせた。
麻亜沙はびっくりして俺を咎めた。
「ま、魔女の右子って、そんな呼び方でいいの?」
「他にどう呼べばいいんだ?」
「救世主」
「なんで」
まあ、言わんとする事は分からなくもないけど。
この国の為に戦ってくれるからと、そう言いたいのか?
「『アラディア』············わたしの名前··········」
茫然と独り言のように魔女の右子が言った。
「! アラディア様ね! 素敵なお名前!」
麻亜沙は顔を上気させて喜んでいる。
俺もまともな呼び方があってホッとする。
「これから北の地へ戦士として赴くあなた様に侍女として同行することになりました。麻亜沙と申します!よろしくお願いします!」
麻亜沙は礼儀正しく挨拶した。
アラディアさんは麻亜沙を見てギョッとした表情になる。
「現代の右子じゃないの··············!
突然同じ車に乗せられて、寝たふりしてたのに、いつの間にか普通に寝ちゃってたわ!」
麻亜沙は、救世主とまで呼んだ人になぜか避けられていた。
「あら?···················同期しない?
外身が違うから大丈夫なのね!
なんだ良かった心配して損したわ!」
アラディアさんはアハハッと笑った。
麻亜沙は首を傾げた。
「アラディア様は戦士なんですよね?」
彼女は妖艶だけど、強そうではなかった。
「戦士? 何のこと?」
あれっ················自覚ない?
「奏史の奴······!」
恐らく、奴がアラディアさんを騙して車両に詰め込んだんだろう。
そりゃそうだ、彼女はそう簡単に誰かの協力をするような人には見えない。
奏史は居酒屋で散々脅されてたのに懲りてなかったようだ。
麻亜沙の方が目を覚ましてから、さっさと用は済んだとばかりに車両を移動して行ったのはアラディアさんを嫌厭してか。
「あら、私がこの車に乗り込んだのは、
北の大森林には、大変自然が豊富なので薬剤の原料になる貴重な材料が採取できると、あの男に誘われたからよ? あの男、えっと、金原宮はどこへ?」
騙したのは金原宮先生だったのか。
「先生は違う車両だよ。」
北の未開の地域を調査する研究調査チームも随行していると聞いていた。
俺は取り敢えず、簡潔に事の経緯をアラディアさんに話した。
「戦争? あらあら、いつの時代も無くならないのよね。人間って愚かよね············特に男」
アラディアさんはまるで数世紀も昔から人間を見てきたように話す。
「アラディア様って、なんだか世俗離れしたお方··········!」
麻亜沙が段々とアラディアさんに傾倒してきている気がする。
ヤバいな、彼女は人の影響を受けやすいのだ。
最近は帝妃の言いなりだった。
特に大人の女性に弱く、助言でも貰おうならば素直に意見を取り入れてしまうのだ。
「でも私は戦争は嫌いじゃないのよ。
人間の総数が減るじゃない?···············特に男」
ん? 何だって?
「あっちでもこっちでも、立派な成人の男達が殺し合う戦場の様はとっても悽惨で見事だわ!
そういった戦場を、箒に跨がって高みの見物と洒落込むのが前世の私の専らの趣味だったのよ」
アラディアさんの昂ぶってきた魔力を受けてか、
高機動車の窓がガタガタ揺れ出した。
「アラディアさん! 抑えて! ここ車の上!」
別に空気が振動しているだけだが、これからどんな魔力が飛び出すか分からない。
とりあえず車内は火気厳禁だ。
「ア、アラディア様!」
さすがに麻亜沙も引いている。
右子の中のアラディアって人、前世って、
そもそも何者!?
立派な成人男子であれば敵も味方も殺し合えと望んでいる。
かなりヤバ目の救世主が
こちらの陣営に誕生していた。
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