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172話目 眠気と闘うエスケープ 右子side

「あっごめんね!」


アイン王子は、私に抱きついていた手を離した。


それにしても、この夢の中の部屋は狭い。

私は部屋の端っこに古びたドアを見つけたので、

ドアノブを回してみた。

ガチャガチャ···········


「何してるの?」

アイン王子が聞いてきた。


「いや、外に出ようかなと。

狭くて息が詰まりそうなので」


「え?

僕と一緒にいて息が詰まりそうなの?

僕は右子様に出会えてようやく息ができる心地だっていうのに?」

アイン王子は疑いの眼差しだ。


「!? いやいや、そういうことではなく·······単純に狭いなと··········ふぅっ、

あれ?ドア開かない」


「普通の人間の夢の中って、ワンルームでこんなものだよ?」


「そうなの? じゃあこのドアの先はないの?」


賃貸物件みたいな言い方ね。

普段の自分の夢の世界に慣れてしまうと、めちゃめちゃ狭い気がする。


「どうして? 狭くていいじゃない。

前世では狭い部屋に籠もって二人で仏像を彫っていたのに」


アイン王子はにっこり笑った。

「なるほど」

私は頷いた。

それだ··········

きっとそれが窮屈で、トラウマになったのかも·········


ガチャガチャガチャ

動揺してしまった私はついまたドアノブを回してしまう。


···········ガチャリ!


「あっ開いた!」


「はあっ!? 右子様が部屋増やしちゃった!?」


まるでいけないことのように言うアイン王子。

何と、私は麻亜沙さんの夢のスペースを一部屋増やしてしまったみたいだ。

つまり·········こっちが私の部屋ってことでいいのかな?


「じゃあ、私は行くね」


私はアイン王子に挨拶して、麻亜沙さんの部屋から退出しようとした。


「まって!」


アイン王子に腕を掴まれた。


「僕もそっちへ行く!」



ドアを開けたら、

上は半分以上青空だった。

こっちはかなり、ずっと広い。


ここは············学校の屋上だった。


「えええ!? 学校に来ちゃった!?」


「右子様が夢のスペースを広げてくれたから、

僕が今、学校の屋上にしたんだ。


『屋上で右子様と一緒に授業をエスケープしたい』

次回の企画はこれでしょ?

今日はこのままここでエスケープしよう」


夢の中で現実世界をエスケープするの!?

それって············現実世界的には寝てるってことになるのかな?


「えええっ!?ここで!?

何もないのに···········」


「夢の中なら何でもできるよね。

この調子で、何か出して遊ぼうよ!」


屋上の条件はそのままに。

私はこの場所を屋上遊園地に改造した。

前世のデパートの屋上に昔はあったと噂に聞いたものだ。

屋上に遊園地があるなんて、とても楽しそうだなと思って行ってみたかったのだ。


「わあ!いいね!遊園地!

右子様、すごい!!」


アイン王子は目を輝かせた。

私達は夢の中でエスケープを楽しんだ。


この世界では、私も高所恐怖症じゃないので安心だった。

それでも、観覧車は屋上にはありえないほどうっかり大きくし過ぎてしまったので、乗ってみるとバランスが悪かった。

乗ってる最中に観覧車ごと倒れそうになってアイン王子につっかえ棒で支えてもらったりして、

かなり恐ろしかった······

ファンシーな色彩のメリーゴーランドは自走式の馬がそれぞれ明後日の方向へ走り出して、元の位置に戻るのが大変だった。私は自由に暴れ走り回る馬から振り落とされないように、馬の首に必死でしがみついていた············


夢の世界では死ぬことはないと分かっていても怖いものは怖い。


過酷な状況に加えて、

私は·········だんだんと眠くなってきてしまった。


「起きて起きて!現実世界で目が覚めちゃうよ!!!」


アイン王子に揺さぶられて、私は何とか眠気を我慢して頭の周りに集まってくる霧を払った。この世界で寝てしまうと、逆に現実世界で目覚めてしまうのだ。


私の補償は要らないと言った彼はどこへやら、

アイン王子の願い事を叶えるプロジェクトは続いているのだ······ぐう


ハッ


私はいつの間にかジェットコースターに乗っていた!


「ぎゃあああーーーーーー!!!」


何が怖いって、この屋上に対して大き過ぎる過激なジェットコースターに乗っているというバランスの悪さが怖いのだ。


私はぎんぎんに目が冴えてきた。


アイン王子は神様だから眠くならないのかな?

アイン王子は夢の中の遊園地でとても楽しそうだった。


きっと本物のデパートの屋上遊園地に比べると1000倍は怖い遊園地がここにある。

おまけに私が眠くなってくる度に、アイン王子が次から次へと違うアトラクションに入れ替えるので、私は居眠りする隙がなかった。


時は流れ流れて、

私はもう何度眠気を我慢しただろう?


私はとうとう、高速で回転するコーヒーカップの中で眠り絶えた。



「ア、アイン········オヤスミナサイ··········」


「えっ!? 」



頭に集まってくる霧の向こうでアイン王子が私を呼ぶ気配がする。


こうして、長い長い私達のエスケープは終わりを告げた。





「はっ」


私は目が覚めた。

夢の中では眠かったけれど、こちらの世界では目が冴え渡っている。

まるで逆なのだ。


そこに私を覗き込んでいる顔が見えた。


「奏史様··············? どうしたんですか?」


奏史様の顔は真っ青に見えた。


「麻亜沙さん············目が覚めたんですか。

君が寝始めてから、もう3週間経つんですよ?」


「ええええっ!?」


アイン王子と眠気と闘って、まさか3週間も経っていたとは知らなかった。

そんなこととは知らず、奏史様にはとても心配をかけたかもしれなかった。


ガタガタガタガタ··········


というか、ここも乗り物の上だった。

これって、

まさか遊園地の乗り物ではなく·············?


·············え?

軍隊用のジープなのでは?

外を見ると、帯ただしいジープの隊列が道に連なっている。

ジープの色は、大自然に馴染む国防色だ。



「か、数鳥様!数鳥様!?」


最近の一番頼りになる人を呼んでみたが、彼女は···········いなかった。


奏史様の真向かいには、もっと怖そうな女性が座っている。

この顔は、忘れもしない鏡の中の私。


「わっわっわっ、私··················!」


そこには、大人っぽい右子が

こっくりこっくり、居眠りしていた。



奏史様はゆっくり口を開いた。


「驚かないで聞いてください。

私達は、これから北の地への戦争へ赴きます。

安心してください。もちろん麻亜沙さんへは危害が及ぶ話ではありません。

ここにいる、戦士•右子様の侍女として同行してもらうだけなのですから」


私は北へ、戦争へ向かっていた。

驚かないわけがなかった。


読んでいただきありがとうございます!

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