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168話目 例え私が右子でも 右子side

端的に言うと

私は右子だと分かったところで何も変わらなかった。


どちらにせよ、私がアイン王子の命を脅かした補償をしないといけないのは変わらないからだ。


本体に戻れないのは、困るけれど自分の力ではどうしようもないので、これはもう放っておくしかないわよね。




学長室で、私達は缶ジュースの紅茶を飲んでいた。


「「「こ、これはこれで甘い···········!」」」


3人とも狼狽える。

すっかり苦い紅茶に慣れてしまったのか。

私は水を入れたコップを配った。


なかなか好みの味というのも難しいものだ。

私は自分で淹れた苦いお茶がちょうどいいんだけど·········


学長室のドアがノックされ、了承を得てドアが開いた。


「こんにちは」


それは、魔法使いのようなローブを纏った、

金原宮 根津生先生だった。


根津生先生は大事な話をするから人払いをするように求めた。

私は学食で今度は緑茶の缶を買って来ることになり、学長室を追い出されてしまった。

きっと甘い紅茶を渋い緑茶で中和するつもりかしら?


ゆっくり行ってきなさい、と言われたのでのんびり歩いた。



「お〜い!麻亜沙さん!」


学食に着くと私を呼ぶ者がいる。

私は、まさか麻亜沙さんの知り合いかと身構える。


でも呼んでいたのは敦人だった。


放課後の人気もまばらなカフェテリアで私達は一緒にお茶を飲むことになった。

私が敦人に席を用意していると、敦人は目を見張っていたけれど、頷いて席に腰掛けた。


私は外面は麻亜沙だと、何回も心に言い聞かせる。

敦人とは普通に右子として話してしまいそうだ。


この少年が婚約だなんてね〜

まだ若いのに、生き急ぎ過ぎじゃない?

なんて頭で不満を垂らしても仕方がないのは分かっているのよね。


そう考えてみれば、私は今は麻亜沙なので婚約者は一人もいないわよね。実はかなり自由な身なのでは?

これは味わったことのない··········開放感!


でも早く本物の麻亜沙さんにこの身体を返さないといけないんだけどね。

麻亜沙さんは···········どこに行ってしまったんだろう。




「敦人様は何か召し上がらないのですか?」


「いや·········麻亜沙さんに用事があって誘ったんだ。

えっと、麻亜沙さんは本当に侍女をやっているの?」


「はい。私は侍女に転職する為に、今は李鳥公爵家で修行をしているんです。」


「·······八咫烏(やたがらす)って転職できるんだ?」


敦人は驚いたように目を見開くと言った。


「敦人様は宮子だったから八咫烏(やたがらす)の存在を知っているのですね。敦人様付きの八咫烏もいたんですか?」


「いいや、父は帝族の慣習が嫌いだったから、早々に八咫烏も追い払ったらしい。近衛師団の護衛も断わって私兵を雇ってたからその流れだ」


私はなるほどと頷いた。権野宮家のおじさまはいかにも気難し屋って感じだったわよね。


「俺の父の権野公爵は、とにかくニホン嫌いでコーリア国にどっぷりだからな···········

いわゆる『コーリア国派』だな」


コーリア国派!?

そんな派閥あるの!?


それなら、確かに権野公爵家は、コーリア国派閥に含まれるかもしれないわね。

権野公爵の手腕でコーリア国の国教であるサンタ聖教会は国内で纏められ、昨今の帝妃の宗教弾圧で完全に権野公爵家の傘下の庇護に入ったそうだ。


「いいですね。

私、コーリア国のお屋敷で侍女になりたいんです」


「えええっ!?

麻亜沙さんって八咫烏辞めてまで侍女に転職して、コーリア国のお屋敷に務めたいの? なんで?」


敦人は心底驚いている様子だ。


「それは、ちょっ、ちょっと·······思う所がありまして」


自分が右子だと明かしても全然いいんだけれど、

侍女になるのは止められるような気がする。

中身が帝女な侍女に仕えられるのは主人側も面白くないだろうし、やっぱり隠しておこうかな。


だけど、敦人はあっけらかんと言う。


「それなら、出身がヤバいかもな。

さすがに八咫烏はな··············

(うち)の養女にするよう頼んであげようか?」


意外すぎる申し出だった。

うちって、まさか権野公爵家のこと?

公爵家の令嬢になるとか!?

敦人も大概世間知らずだわね·········


「いや、そこまでの話じゃないか?

コーリア国の屋敷の雇用内定者の出身は大半がコーリア国派だろうけど。権野公爵家が懇意にしている家の親戚筋に戸籍の末端をかしてくれる者がいればいいんだよな。

うーん、やったことないけど、

経歴詐称なんて皆がやってることみたいだし。

後学の為に一度やってみるかな。

うん、君のちょうどいい出身家、探してあげるよ」


「ほっほんとうに!?

あっありがとうございます!権野宮様!」


やった!

案外トントン拍子にことが運びそうで、

私は思わずうきうきしてしまう。


すると敦人の顔も少し明るくなった気がした。


「あ、そうだ!俺、ジュース買ってくる。

待ってて!」


すっかり話こんでしまい、飲み物を買うのを忘れていた。


敦人は缶ジュースを何種類か買ってきてくれた。


「あ、ありがとうございます!」


公爵令息に缶ジュースを買ってこさせるなんて、恐れ多すぎる。侍女として落第してない?

私はもちろんさっきの甘い紅茶を中和させる為に緑茶を選んだ。


ごくごくっ

こくこく······


「あっ、そうだ·······俺も麻亜沙さんにお願いがあるんだった」


敦人が急に思い出したように言った。


「ほんとうですか?

ちょうどいいですね!ウィンウィンで!

何でも言って下さい!」


私はホッとして笑顔になる。

敦人は、どうやらここに誘った本題をようやく切り出した。


差し障りが無い程度にアイン王子への補償の説明と、

そこで、予定の人員では条件を満たせなくなってしまった事、新たな人員の補充が必要だということを話す。


「··········つまり、アイン王子の願い事にそって行動して喜ばせられたらOKっていうルールなんだけど。

さっき麻亜沙さんと廊下でぶつかったので、奴のツボが分かってきたって感じなんだ」


ツボって何だろうと思いつつも·········


「やります!私でよければぜひ!」

私はもちろん快諾だった。


だって、私がやらなければいけない補償なのだ。

まさに飛んで火に入る夏の虫ってやつ。


でも侍女だから·········問題は時間の余裕があるかよね?



「次回の課題の内容は?」


背後で声がした。


「えっと、次は『校舎の屋上で右子様と一緒にお弁当を食べたい』という願い事なんだ。

明日から授業が始まるから学校でお昼を食べるんだけど、その時に食事を持って屋上に来て欲しいんだ」


「分かった、屋上だな」


え?

振り返ると奏史様だった。


「お昼はシェフに作らせましょう。持ち運びを考えたらサンドイッチがいいですね」


あれ?数鳥様も?


「···········麻亜沙さんだけでいいですよ?」


敦人が言うと、奏史様は頷いた。


「残念ながら、私は明日は用事があるから行けない。

でも透水さんは侍女だからな。

数鳥の昼食の世話もしないといけないし···········

ああそうだ、数鳥と二人で参加するといい」


「ええっ」


大人も混じるのか··········微妙だな·········

アインはミッションをクリアさせてくれるだろうか?

という顔を敦人はしている。


敦人は不安そうに私を見たが、

うんうん、私は頼もしく頷いた。


大丈夫!だって私、麻亜沙だもん!


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小説のイラストもありますのでよかったらお越しください♪

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