166話目 ブルースカイ•フレンズ 右子side
階段の踊り場で見つめ合う私達。
チェアさんの背後の窓の青空は目に染みるような青だ。
「麻亜沙さん、お久しぶりね··········」
「チェアさん··········」
私はチェアさんの引っ越しの日を思い出していた。
チェアさんは帝居の神殿まで挨拶に来てくれた。
『·············あのっ、私、権野公爵家へ行くの』
愁いの表情を浮かべた美少女なチェアさんはそう言った。
彼女は大きなスーツケースを携え、
トレンチコートを身に纏った長旅の装いだった。
『え? 何の話? 権野公爵家って、あの少年のお家に引っ越すの?
そう! 少年の婚約者なの?
ホーホッホッホ!·······行ってらっしゃい!』
別人のような右子様はそう高笑いして、いかにも清々したように言う。
チェアさんは悲しい顔をして行ってしまった。
待って!
おっ···········追い掛けないと!
今の信じられない間抜けな発言を取り消さないと!
階段の踊り場で、ハッと私は意識を取り戻す。
あれ············これ、今の誰の記憶?
これって、まるで···········
「待たせたね。行こうか」
声がして振り返ると、奏史様が用事を済ませてこちらへ来ていた。
数鳥様も一緒だ。
私は今日は生徒じゃなく侍女(仮)として付き添いで来ている。
服装もかわいい李鳥公爵家の侍女服だ。
右子様が急遽中学年に通うことが決まった時、
彼女付きの八咫烏の私も帝国学校の中学年に本名の『透水麻亜沙』で生徒として登録されたそうだ。
本名だと思っていた『ミーシャ』という名の方は実はスパイ活動に使う偽名なので麻亜沙を使っている。
だけど八咫烏を辞めた今は学校に通う必要はないとのことでホッとする。侍女の技術を学ぶためには、学校に通ってなんていられない。
今日学校に来たのは、数鳥様のお父様の数鳥侯爵様が学長に就任し、数鳥様が学長代理となり実質の仕事を受け持つ事が決まった為、奏史様と数鳥様は学長の仕事内容の引き継ぎをするらしい。
「そっそっそっ奏史様··········!?」
チェアさんが動揺していた。
きっと久しぶりに奏史様に会ったので舞い上がっているのね。
私はくすっと笑う。
彼女は奏史様のファンなのだ。
「こんにちは。お久しぶりです、チェアさん。
ご入学おめでとうございます」
奏史様がにっこり笑った。
「あっあっあっありがとうございます··············!」
と、返すとチェアさんは、勢いよく私を引き寄せてヒソヒソ話す。小声なのにすごい剣幕だった。
「なんであなたが奏史様と一緒にいるのよ!?」
「あ、私、転職したんです。右子様の所の神官を辞めて、侍女になろうと思って」
「はあああ!?
李鳥公爵家の侍女になったっていうの!?
そういえば学校の制服じゃあない!かわいい!それ侍女のお仕着せ!?灰色地に水色の縦ストライプ!」
「そ、そう··········」
お仕着せについてはそうだけど、李鳥公爵家の侍女というわけではない。
「そうそう、チェアさんは権野公爵家で花嫁修行をされているんですね。敦人君との婚約式ももうすぐでしょうか? いよいよですね。
来月の5月には公爵を賜った祝賀会も開催されるそうですし、権野公爵家はお祝い続きですね」
「ハ、······ハイ·········」
奏史様にそう言われて、なぜかみるみる元気が無くなるチェアさん。
「はああぁ!?婚約式!?」
それに対して、私のテンションが爆上がりだった!
そういえば、忘れていたけれど、敦人とチェアさんは婚約者なのだった!
「透水さん!」
数鳥様の厳しい声がする。
「は、はい!すみません!でも·············」
私はそれどころではない。
「でもも何もありません!公共の場で大きな声を出してはいけません!」
「はい············」
厳しく言われて、私はひとまずトーンダウンするしかなかった。
奏史様は笑って言った。
「お二人は仲良しだったんですね。
透水さんは残念ながらもう学生ではないんです。たまに学長代理の数鳥の仕事に同行して学校に来ることはあるかもしれませんが、いつになるか確約はできません。
·············もし積もる話があるようでしたら、ぜひ李鳥公爵家へ遊びにおいでになりませんか?」
「「!!」」
チェアさんの顔がぱっと明るくなる。
何で仲が良いと思ったのだろう?
確かに右子様とはなかよしだったかもしれないけど。
今のやり取りから、なかよしかどうかを判定するのは難しいと思う。
「李鳥公爵家へ!?いいんですか!!?」
チェアさんが力いっぱい尋ねる。
「もちろんです。
隣国のお嬢様を我が公爵家にご招待できるなんて光栄です」
それでも、私もチェアさんを招待できるのは嬉しいかも。
まあ我が家じゃなくて李鳥公爵家だけど、すでに私の部屋もあるので、チェアさんに部屋に遊びに来てほしいな。
「えええ!?侍女の客を公爵家のお客様として扱うんですの!?」
数鳥様は驚愕の表情だったけれど、さすがにすぐに冷静な顔に戻していた。
何せ、チェアさんは隣国の高位貴族のお嬢様だ。
そして、この国の次期公爵である敦人に嫁ぐ貴い身なのだ···········!
そうだった!敦人との婚約!
私は内側から込み上げてくるモヤモヤしたものを抑えるのに必死だった。
そしてモヤモヤを振り払っていると、逆に頭が非常にクリアーになってくる。
「やったあ!楽しみにしているわね、麻亜沙さん!」
私は一つの答えに行き着いてしまう。
そして、脳天気なチェアさんに告げる。
「私もです。·················覚悟して下さいませね?」
「ん?」
すっかり仲良くなった風の私達だけど、
譲れないことはあるにはあるのだ。
そして、これを機によくよく考えたら、
小姑の私は··········
やっぱり右子だよね?
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