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163話目 侍女とスパイ志望少女 奏史side

「コーリア国の屋敷の侍女になりたい?

·············よりにもよって、八咫烏(やたがらす)のあなたがなぜそんなことを言うのですか?」


「八咫烏··········?」


少女はハッとして自分の両掌を眺めている。

そして手を裏返してまた見る。

「(指輪が)無い···········」


それから自身の服装などのチェックをしているように見えた。

違和感を感じて私は少女の色白い顔を覗き込んだ。


私と目が合って、少女は大きな目を潤ませた。


「あれ············?」


「·········どうしました? 透水 麻亜沙 さん?」


「まさか、私は麻亜沙だったかしら················?

す、少し状況を整理したくて、

待っていただけますか········?」


待てばいいのか?

私は頷くしかなかった。

彼女は混乱しているし辛そうで、

何かに抗っているような表情だ。


「········どこか具合が悪そうですね。医局で診てもらった方が、」


「············整いました」


「!?」


あまりに早い状況の整理だった。

私は肩透かしを食らったようになる。


「やっぱり、私、コーリア国のお屋敷で侍女になります!

むしろ麻亜沙で都合が良いです!!」


「あ········? や、しかし」


良くは分からないが

自己認識が薄弱のような状態なのに、この強い意志。

これは異常だ··········やはり医局へ連れて行かなくてはいけない。



帝宮医局は山洞御所にある。

右子様も以前は御所にお住まいだった。

現在帝が不在なので御所はひっそりとしているが、医局は大型の医療器具が多いので、簡単に引っ越すことはできない。

現在、右子様の為に移築中の旧阿良々木邸が完成すれば、いまの神殿よりは随分近くなるので引っ越した後は安心だ。


私は卜部様に透水さんを医局に連れて行くようにお願いし、乗りかかった船だと自分も同行する。

御所であればあの悪魔のような右子様に出会すこともないだろう。





「良いんじゃなくて?」


連絡を聞いて医局に赴いた帝妃が意外な事を言った。


「は······?」


「この娘はアイン王子に気に入られています。

コーリア国の屋敷で侍女になればアイン王子の目に止まり、右子様から気を逸らす良い盾となってくれるかもしれません」


帝妃は冷たく言い放つ。まるで人身御供だ。

この方は、本当に右子様のことしか考えておられないのだ。

透水さんを見ればドヤ顔で頷いていた。

アイン王子から寵愛を得ることになんの疑いもないらしい。

どこからくる自信なのだろう?


「しかし、········透水さんは自らの事もよく分からないような精神薄弱な状態でして。

それなのにこの様にコーリア国の侍女になりたいと主張するのはとても妙です。

もしや洗脳を受けているのかもしれません」


「コーリア国側のスパイだっていうの?」


私は透水さんの反応を窺いつつ、頷いた。

透水さんは無反応だった。


「ほほ······それなら、尚更ここに置いてはおけないではありませんか」


帝妃は笑う。


「しかし」


私は食い下がる。


「それに、この娘が右子様を裏切れるはずがありません」


帝妃の発言に私は違和感を持つ。


私は幼少の頃より右子様を見守ってきた。

しかし、透水さんは今まで見かけたことがない。

つまり乳兄弟とかそういうものではないはずだ。


「透水さんのご出自を聞いてもよろしいでしょうか?差し支えなければ·········」


「いいわよ?

でもこれは右子様の秘密にも通じるから········貴方は婚約者ですものね、特別よ?」


思いの外、重そうな内容のようだ。

私は深く頷いて、人払いを完璧に済ませる。


ふうっ、帝妃は話す前に一つ溜息をついた。


「右子様は姫神様ですからね···········

普通に産まれたんじゃないの。

何やかんやでいつの間にかお産まれになってたの」


「は······?」


「ニホン神話を貴方は読んだことがあって?

神話の神々って、普通に産まれないのよ。皆、変わった産まれ方をされているの。

そうそう、神ではないけれどお伽話の主人公もそうよね。桃から生まれたり、竹から生まれたり······

大昔は魔法が存在したし、かつてのニホンではそう珍しくないのかもしれないわね?」


「いや··········?」


「そして、麻亜沙はね、そんな右子様の眷族、という感じで産まれたのです」


「すみません。··············かなり漠然としていませんか?

全然分かりません」


これでは人払いをした意味もない。


「いつの間にかいたのよね·········」


帝妃はぶつぶつ独り言ちて、過去に思いを馳せている様子だった。

私のことなど全く忘れている。


「幼児の頃は右子様と麻亜沙は一緒にすると、

麻亜沙の方が消えてしまうので一緒に育てていませんでした。


二人はそっくりで········

ふふっ

まるでドッペルゲンガーみたいな話よね?


大きくなってくると、ようやく二人は見た目も違いが出てきて、もう麻亜沙が消える事も無くなったわ。

そうそう、

消えると言ってもまたいつの間にかいるんだけどね」


「そんな·······状況が全く分かりません」


「えええ········」


見ると、透水さんまで唖然としている。

帝妃はハッとした、


「そういえば、二人本人にはこの話してないわね······


で、本題に戻るけれど、そういうわけでこの娘が右子様を裏切る事はありません。何せ眷族なんですもの!」


眷族って········血が繋がってる従者や家来の事を言うはずだよな。

やはりここは帝妃の血族と思っておこうか?

私は今回の重い(?)話は聞き流すことにした。



「················分かりました。

では透水さんは、コーリア国の屋敷の侍女になり、スパイとして潜入される、ということでよろしいですか?」


「············スパイ·········?」


「そうであれば、私もご協力できますが」


「もちろんよ!やるわよね?」

「ううう···········」


帝妃のプレッシャーは凄かった。

透水さんは侍女になれるならと、渋々頷くのだった。



「ところで、·············重要な問題が」


「「?」」


二人は一斉にこちらを見た。


「透水さんは、侍女のご経験はありますか?」


「無いけど、神官もやっているのよ。

似たようなものでしょ?

神に祈りを捧げたり、供物を捧げたり、舞踏を捧げたり、神殿を清めるために掃除をしたり」


帝妃は当然のことのように言う。


「全然違います·········掃除以外は」


「「?」」


透水さんは口を両手で覆って目を丸くして驚いている。

お二人共、侍女なんて誰でもなれると思っていた様子だ。


「透水さん、

もし、きちんとした侍女になりたいのなら訓練を受けないといけないでしょう。

侍女は下働きとは違います。高貴な方と間近に接する事も多いため、きちんとした礼儀作法や主人の様々な要求に応えないといけません」


「··········難しそうです········」


「良かったら、我が李鳥公爵家で侍女について学びますか?

我が家には侍女を養成する者もおりますしお勧めです」


「行きます!私、訓練を受けてきちんとした侍女になって、きっと高貴な方のお役に立つ人間になります!」


透水さんは目を輝かせてそう言った。


読んでいただきありがとうございます!

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