161話目 ロボット達の楽しい春休み 敦人side
「アイン、楽しいか?」
俺は聞いてしまう。
「え?·········美味しいよ?」
「そっか」
俺は溜息をついた。
今日はアイン、俺、右子の三人で回転寿司を食べに来ている。
美味いというなら、アインも喜んでいるということで目的の大部分を達成していると考えていいだろうか?
何と言ってもここは帝妃の奢りでタダ飯なのだし。
右子も········いるにはいるし。
右子がアインに電撃を食らわせて負傷させてしまったので、その補償として兄であるカオン王太子の要求により『アインの願い事を叶えるプロジェクト』が立ち上がった。
帝妃の指令により、なぜかプロジェクトは全て俺に一任されてしまった。
右子を煽った俺にも責任があるとはいえ············高くついたものだ。
「凄いですわ!ライスボールが!回ってますわ!ここはスシの遊園地!?」
これ誰?
どこの外国人?
右子はあれ以来アインに危害を加えることはなくなったけど、又違う意味で別人になっていた。
これも、前世で何かあった影響なのだろうか?
『右子様と一緒にフランス料理を食べたい、右子様と一緒にバーベキューをしたい』というアインの希望は既に実行済みだ。
フランス料理は普通に美味しかった。右子は肉の柔らかさはさて置き、何の動物の肉なのかどこの部位なのかを執拗に聞いてきたのが印象的だった。
バーベキューは、火あぶりの刑が怖ろしいと意味不明なことを言って右子が途中で逃げ帰ってしまったので、残りは俺とアインで平らげた。
アインもそこそこ楽しんでいたはずだ?
そう、如何せん願いを叶えているはずのアインのテンションがもの凄く低いのだ。
肝心の右子がこの調子では無理もないかもしれないが、叶えるこっちの身にもなって欲しい。
急遽中学年へ進学することになった為、俺は春休みの間に『右子様と一緒に食事関係』のアインの願い事は全て消化しようと考えている。
春休みは短いけれど、このペースで残るは後一つだから余裕だろう。
そして、
中学年に入学してから、『右子様との学校での思い出関係』の願い事を叶えるプロジェクトが始まるのだ。
「へぇ~敦人くんは、今度中学年になるんだ? ふふっ、人間の男は嫌いだけど、男の子は小さくてカワイイわね♡」
「······へっ?·······どうも」
「············」
お姉さん系になってしまった右子には為す術もない。
アインはといえば、とにかく無反応だけど、拒絶するわけでもなく普通に接している。
何ていうか··········例えるなら二人は、長年連れ添ってる内に互いに無関心になってしまった夫婦って感じ?
「右子、穴子にはこのタレをかけるんだよ」
「あら!そうなんですのね、ありがとうございます。救世主」
右子って呼び捨てだし·········
救世主って何だろう········
二人の間に何があったのだろうか?
何があったらこうなってしまうのか教えてほしい。
「ところで、明日の予定の居酒屋だけど、俺達は未成年だからもちろんお酒は飲めないぞ?」
俺は明日の予定の詳細を詰める。
「うん、分かってるよ。っていうかもう居酒屋スキップでいいよ?カオン兄さんも大阪に帰ったしバレないだろうし」
「え、いいのか?」
すっかりやる気のないアインは頷いたが、アインの侍従のジフが口を出してきた。
「何を仰っしゃられる。補償内容の不履行があれば、僭越ながら私がカオン王太子へ告げ口させて頂きます」
カオン王太子は補償が履行されるのを見たがっていたが、タイムオーバーだった。
彼が大阪で開いたという『臨時政府』は課題が山積みだという。
あの人はそんな時になんでこんな所で油を売っていたのだろう。
「補償が終わったら二人共大阪に来てくださいね。それまでに居心地良いように色々準備しておきますから」
と、カオン王太子はアインと右子に言っていた。
勝手に言ってくれる。
右子は連れて行かせないぞ?
右子は何と『臨時政府』の人質になってしまった。
契約期間満了の18歳になるまで結婚はNG。勝手に遠くに行くのもダメだそうだ。
俺はこんな荒唐無稽な条件をのんだ帝妃が信じられなかったが、以前アインと結んでしまったという婚約を破棄をしてくれるというので渋々認めたという。
聞けば人質といっても、生活はこれまで通りに帝居で自由に過ごしていいらしい。
右子が自分から言っていた侍女になるというのも、アインは断わっていた。
カオン王太子の目的は不明だが、敢えて言えば、右子の18歳までの結婚を禁じる目的のようにも見える。
アインと婚約破棄したのに今更右子の結婚時期に拘る意味が分からない。
とはいえ、名目上『臨時政府』に帝女が人質に取られたということで、ニホン国は全面的に『臨時政府』へ協力せざるを得なくなった。
これがカオン王太子の本当の目的なのだろう。
しかも人質期間は6年間だ。
『臨時政府』にとっては必要な期間か知らないが、
本人や周囲にとっては気の遠くなる長さだと思う。
右子は李鳥宮と婚約したが、進展ない状態が維持され、本来なら16歳で結婚するところが18歳まで結婚は許されないという。
その一方でアインとの婚約は破棄されている。
正直に言おう。
その事実に多少安堵している自分がいる。
婚約者でもないアインが右子の結婚をあれこれ邪魔してくれるのは都合が良いのだ。
俺は李鳥宮と右子の結婚反対派だからな。
俺は今、必死で仕事を熟して、権野公爵家を牛耳ってる最中だ。
今のうちに力を蓄えて置かなくてはいけない。
俺はこれから右子を守るために相応しい人物になりたい。
今世こそ、彼女を絶対に守り抜かなくてはいけないから。
現在、ニホン国の置かれている状況は危ない。
北からはアサヒ国からの侵攻が迫ってくるし、南からはコーリア国の軍艦が攻めてきている。
まさに、未曾有の危機が起きている。
これまた前世の糞ゲームの状況に近づいてきているのを感じて俺は身震いした。
「ホホホ········明日は居酒屋ですの?
子供だけでは入れないから李鳥宮様もいらっしゃるんですわね!では、色々とこちらも準備が忙しいですわ!」
そういえば、李鳥宮だってまだ未成年だと言う事を忘れていた。まあ大人のジフがいるから大丈夫だな。
「ねえ、李鳥宮に惚れ薬とかは必要ないからね?」
アインが無表情で言う。
「え?必要ないんですの?
いえいえ薬はやっぱり必要ですわ!
婚約者の心は薬でガッチリ捕らえておかないと!
また裏切るなんてことができないように·······
フッフッフッ··········
惚れ薬と自白薬と催眠術の準備と·······‰‡℉℃£、後、他に何が必要かしら?」
俺はここ数日で、この右子が薬剤崇拝者だというのは何となく察していた。自分で作ることもできるらしい。
どうしてこうなったのかは分からないが···········
「アイン、楽しいか?」
またまた俺は聞いてみる。
「え?·········だから、ちゃんと美味しいって」
「そっか、明日も美味いもの食べような」
「うん··········」
これで、計画は達成だよな?
右子もいるにはいるしな。
条件は満たしているはずなんだ。
きちんと履行しているか、ジフの目が光っていた。
「ご馳走さまでした」
「ごちろうさま」
「おもしろ美味しかったですわ!」
もはや俺達はノルマを達成するロボットと化していた。
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