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160話目 こんばんは迷惑な訪問客(2) アインside

猫が足をふみふみすることで、右子様の意識が戻ってくるなんて誰が思うだろうか?


「アイン王子!」


右子様自身も驚いたようで、目を丸くしている。

その後、右子様は心なしか顔色を曇らせて上を見た。


「················と、カオン王太子」

「右子様も来てたんですね」

「は、はい···········」


いや、ここ右子様の夢の世界だからね?

なんか、黒猫の兄さん偉そうじゃない?


また当然のように頭上に居座る猫の兄さんと右子様の間にはなぜか文字通りの上下関係があるみたいで、僕は首を傾げた。


「ふっ、どうしました?

右子様、顔色が悪いですよ?」


猫の兄さんはドヤ顔で下へ問いかける。


「いえ、別に··········あそこの見知らぬ人の方がよっぽど顔色が悪いです」


右子様は地面に寝転がっている徳川公爵家嫡男 穂波 保 を指差す。

あれ?なんで知らない人って?


右子様は男に近づいて、容体を見ている。


「大丈夫ですか?身体を楽にして下さいね。お水を出しますから」


そう言って、水の入ったガラスの吸い飲みを出して男の口元に当てる。


「み、右子?··········あ、ありがとう········」


やっぱり 穂波 保 という男は右子様を知っていて、本来の右子様に会えて安心したようにほっと溜息を漏らした。


「いえ」

右子様は優しく微笑した。


·········兄、なんだよね?


僕は右子様がまるで知らない男のように丁寧に接するのを見て逆に嫉妬心が湧き上がってくる。


「水、苦くない········」


穂波は右子様に出してもらった水を飲むと、いつの間にか地面に敷かれている布団の中に横たわっていた。




「ぼっ僕だって病人だよ!さっきまで、起き上がれなくて寝たきりだったんだよ?」


右子様は、ハッとした表情になり、穂波の隣にもう一客布団を出した。


「アイン王子、ごめんなさい。どうぞ?」


「あっ········、どうも··········」


「そうだな!

アインは生死の境い目を漂っていると保健医が言っていた!太鼓判を押す病人だ!

今夜が峠だそうだぞ、しっかり休みなさい!」


「えっ、僕ってそうなの?」


「··············?」


隣の布団に躊躇いながらも寝転がる元気そうな僕を、穂波が不思議そうに見てくる。


だんだんと、穂波の頭の周りには霧が集まってきていた。

きっと現実世界の目覚めの時が近づいているのだろう。


「右子、この世界は最悪だけど···········会えてよかった」


「!知らない御方、もう少しここで休んで行っては」


「··········現実世界でも俺はその辺の道端で行き倒れているかもしれないんだ。そろそろ起きないと」


二人はなぜか手を重ねている。

右子様の左手の指輪を男が触れていた。

何だろう、あの二人お揃いの指輪は··············?


「右子、これだけは言っておく、例え俺に何があっても大阪には来てはいけない。

あそこは·········混沌だ、地獄だ。」


「混沌?じ、地獄??」


「って言っても、右子は起きたら忘れちゃうか·······」


穂波は溜息をついて、俺の方をチラッと見て続ける。


「アイン王子には気をつけろ」


本人の目の前で、言ってくれる。


「こいつはヤバいぞ············人間では無いし、一緒に連れ添うのは無理だ、止めておきな。

それにカオン王太子の弟という最悪な条件つきだし。

お前はなるべく奏史の近くにいた方がいい。

もうアイツと婚約式もするんだろ?

俺も東京へ行って婚約式に出席したかったんだけど········」


「知らない御方じゃない········?

すみません、思い出せなくて···········?

色々ご忠告ありがとうございます?」


「うん·········じゃあな」


穂波は最後に寂しそうに笑った。

手をひらひらさせて、頭の周りをすっかり霧に包まれると、奴は消えた。




『チッッ』


黒猫が右子様の頭の上で、舌打ちして悔しそうに4本足で地団駄を踏んでいる。

兄さんはこの世界では力が使えず、居るだけで精一杯なのだそうだ。


「痛たたた········」


とはいえ頭の上でジタバタすれば、右子様も痛いようだ。

僕は布団から急いで出ると黒猫を抱きかかえた。


「あいつ、右子様の兄じゃないの?」


「あ痛たた··········はっっ!? 今のは保くん!!?」


右子様は頭をどうにかすると記憶が戻る性質があるのかもしれない。

以前も兄さんが頭に居るタイミングで記憶を思い出していたような気がする。



「保くん死にそうだったわ。体調が心配です·····」


さっきまでの奴との妙な雰囲気は消え去っていた。


記憶を失ったほうが妖しい雰囲気になるのは不思議だよな?

とにかく僕の心臓に悪いので止めて欲しい。



「さて、こちらの補償問題ですが·······

アインのこの様子ですと健康面に問題は無さそうです。しっかり右子様に償ってもらって良さそうですね?」


兄さんが何を言ってるのか理解できない。


「はい」


右子様が真剣に頷く。


「内容は、あれで本当に宜しいのですか?」

「はい。もちろん」


「では、目覚めて補償内容の詳細を詰めて書面を作成しましょうか」



「················ちょっと待って、僕は目覚めないよ!」


右子様が真っ青になって両手で口を塞ぐ。


「もしや、身体が、まだ!?」



「そうじゃない、身体はもう大丈夫だと思うよ。

でも、僕は君が李鳥宮と婚約破棄をしてくれないと目覚めたくないんだ!」


「そ、それは!?········帝女の婚約は私の一存では変えられないのよ。アイン」


えっ、今なんて·········

右子様が僕の名を王子無しで呼んだ。


「どうしたの?アイン?」


それは、まるで鈴が躍るように心地よく響く。


兄さんは首を振った。


「·········婚約に関しては帝妃も頑なで意見を変えないのですよ。

とりあえず、李鳥宮と婚約しても18歳までは結婚をしないように約束させてはどうでしょうか?」


「そっか········

18歳になれば攫っていいんだもんね!

それまでに結婚してなければ問題ないか!」


「意味が分からないわ?アイン?」


右子様はめちゃめちゃ僕の名を呼んでくれて嬉しい。


どうやら兄さんは、僕が右子様に電撃を浴びさせられ負傷したことで、帝妃たちと補償内容の交渉をしているようだ。


こんな些細なことで補償してもらおうなんて、そんなつもりは毛頭ないんだけど·············

でも今回ばかりは手段を選んでいられないので僕も乗っかることにする。


「ごめんね、右子様」


「何が? こちらこそ、本当にごめんなさい。

アインの命が助かって本当に嬉しい!

婚約以外の条件は何でものめると思うわ。遠慮なく言ってね?」


右子様は僕の手を取って満面の花の綻びのような笑みを浮かべた。


「···············うん、ありがとう」


こちらは寧ろ婚約以外に欲しい条件はないんだけどね。


「他の補償内容の交渉は私に任せて下さい!」


兄さんは猫の胸を反らして自信満々だ。


僕は心配だ。

カオン兄さんは本当に、補償してもらうのが大好きだから。


それに、黒い右子も魔女の右子も同期したままだし、このまま現実世界へ帰って大丈夫なのかな·········


僕は今の今まですっかり忘れていた惚れ薬の小瓶を、

ポケットの中でぎゅっと握りしめた。


読んでいただきありがとうございます!

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