159話目 こんばんは迷惑な訪問客(1) アインside
「帰る!」
「このっ人間の男のクズ!これも喰らえ!!」
魔女の右子は、今度は僕の惚れ薬を奪い取ってその男に飲ませようとしている。
「待って!?それ僕の髪が入った惚れ薬!!?」
僕は死物狂いでそれを阻止したので、何とかなった。
万が一この男に飲ませたらと思うとゾッとする。
やっぱり惚れ薬も裏切り者の男に飲ませようとしてたんじゃないか·······!
本当に魔女の右子は信じられない。
というより、惚れ薬は凶器扱いだったのだと知って、僕は嫉妬というより恐怖を感じた。
魔女の右子は再び男を先の尖った靴で踏みつけた。
男はもともと負傷しているのか、呻きは聞こえるが起き上がることができないようだ。
「ねえ、この男に呪い薬を飲ませたよね?大丈夫なの?」
「大丈夫です!あらゆる禍が彼を襲うはずですわ!」
とても大丈夫ではない。
「ううう··········なんだこの右子は··········?
さっき俺が飲んだ苦い··········の、呪い薬って?」
男は顔を青くして魔女の右子を見たが、力無く、またまた呻いてがくりと地面に顔を伏せてしまった。
「うう·······ただでさえ現実世界は辛いのに···········夢でもこんな所に来てしまって、
これ以上、呪われたら俺はどうなってしまうんだ·············うっ、元はといえば、カオン王太子のせいで·············」
「えっ?カオン王太子って言った?·········何?」
この男、兄さんを知ってる?
「···········大阪で、船の損害と攻撃を受けた精神的苦痛の補償として、徳川公爵家から借り受けた土地とお金でカオン王太子が『臨時政府』を勝手に始めてしまってから、俺の不幸は始まった···········」
「え·········」
以前、海上で徳川公爵が僕の兄カオン王太子の乗るコーリア国の船舶を攻撃して損傷させ、その後誤解は解けたが徳川公爵はその事件の補償を求められた。
きっとその時の事を言ってるのだろう。
でも、『臨時政府』って?
兄さんはそんな話を僕にしなかった。
「コーリア国は王太子勢力と王姉勢力とで争っているらしく、徳川公爵家は土地を人質に取られたような形で王太子の『臨時政府』に協力せざるを得なくなった··········
元々、王姉殿下は反ニホン派だったらしい。
カオン王太子は親ニホン派だから、俺達はそもそも王太子につくしかないんだ」
「あらあら?
訳の分からない小難しい話をべらべらと、··········呪い薬じゃなくて自白薬だったかしら?」
魔女の右子は懐をごそごそさせて、他に飲ませる薬が無いか探しているようだった。
「いや、続けて!
で、大阪は今どうなってるんだ!?」
「···········徳川公爵の海軍が王姉派の指揮する海軍から奇襲攻撃を受け海上決戦中だ。
まだ本土へは上陸していないが、·········時間の問題かも知れない」
「それっ!!ニュースになってた?
僕知らない!」
僕は魔女の右子の足を退けて男を揺さぶった。
ニホン国は今、北の国境地域で軍事衝突も起きているのに、ヤバくない!?
「『臨時政府』も『海上決戦』も事態は急展開過ぎた。そろそろニュースにはなると思うけど·············
俺は、ニホン国中を駆けずり回って軍隊へ指示を出している途中で倒れてしまったんだ········」
「そんな··········コーリア国とニホン国が戦争········」
「············あれ?
あんた、もしかしてこの前の紀元前から右子に取り憑いてるとかいう魔物の人?まだここにいるの?
ちょっと若返ったな?右子と一緒ぐらい?」
右子様の兄だというその男は、伏せていた顔を急に上げて僕を不思議そうに見ている。
「カオン王太子に似ているな········そうだ!髪色が以前と違うけど··········お前、アイン王子だな!?」
「そっちこそ、何か見覚えがあるよ·······養子に行った右子様の兄の帝子って、もしかして」
僕も何か思い出しそうで、男の顔を見つめて記憶を探った。
「徳川公爵家の嫡男の、穂波 保!!」
僕たちは百年目に会った仇のように睨み合っていた。
僕は、ようやく以前から敵視していたはずのこいつの顔を思い出した。
奴は軽井沢の騒動でも対立したが、
何より一年前に16歳の僕を記憶喪失にして現在の12歳の姿にする原因を作った刺客が、奴だ。
それは最近、神として全て思い出した記憶の内容に含まれていた。
「許さない··················」
こいつに一年前、右子様との結婚誓約書を奪われたのだ。
『許さないって、何がですか?』
突然近くで声が聞こえた。
「きゃっ··········」
「魔女の右子?何か·····」
小さい叫び声がして見ると、彼女の頭の上に何か黒いものが乗っている。
『ニャア〜』
「············何だ、黒猫か。魔女のペットだな」
「知らないわよこんな獣?」
魔女の右子は言う。
『知っていると言いなさい!エイッ!』
黒猫は、魔女の右子の頭の上で足をギュッギュッとふみふみした。
「キャッ!?」
「に、兄さん!?魔女の右子に何をするんだ!!」
僕は声と行動で、黒猫が兄さんだと分かった。
兄さんは九官鳥は廃業し黒猫にジョブチェンジしていた···········
「アイン、身体の方はもういいですか?
迎えに来ましたよ」
兄さんは優しく僕に言った。
悪いけど、迷惑だった。
「ええっ、いや、まだ戻りたくないんだけど·········」
僕は例の李鳥宮と右子様の婚約式の光景を思い出しそうで、目をぎゅっと瞑った。
「···········アイン王子!?」
えっ、この声は···········
誰よりも清らかなこの声は···········
正確には右子の夢の世界で右子の声はみんな一緒だけど、僕には分かった。
僕は恐る恐る目を開いた。
黒猫の兄さんの下は、
魔女よりも一回り小さい
世にも可愛らしい少女が目を丸くして立っていた。
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