158話目 アブない魔女とイヤな僕 アインside
「ふふっ、イヤですわ救世主。
魔女にとって惚れ薬と呪い薬は常備薬。常に携帯しているのは普通のことですわよ?
特に惚れ薬は高く売れますから。」
「そうなの···········?
ほんとうに?あの裏切り者の男は関係ないんだね?
じゃあ、これ僕に売ってよ。お金は今度来たときに払うから。使い方は?」
「まあ、もちろんです!お金はけっこうですわ。
救世主には前世でお世話になりましたから当然です。
使い方はこうですわ、自分の前髪を一本中に入れてください。そうその素敵な色味の御髪を··········」
「うっ」
魔女の右子は説明しながらもう僕の前髪を引っこ抜いていた。そしてガラスの小瓶に素早く入れた。
「こうして暫くおいておけば救世主専用の惚れ薬が完成ですわ!
この〜!誰に飲ませるんですの?」
目を輝かせて聞いてくる魔女の右子は、ひじをつんつん突いてくる。古典的なしぐさだ。
「この世界には右子しかいないよ···········?
現代の右子様に飲ませようと思って。
黒い右子と同期してしまったせいで、僕に対して辛く当たるからね。これでちょっとは緩和されるといいんだけど」
僕は軽く溜息をついた。
「あらっっ!?
現代の右子さんとなら、先ほど私と同期しましたよ?」
えっ········
「ハァ!?」
「ついさっきのことです。
現代の右子さんは人探しをしているようでしたので、うっかり声をかけてしまったら、光り輝いて、現代の右子さんは跡形もなく消え去ってしまったのです。これがおそらく『同期』なのでしょう」
「え············?
さっき、ドッペルゲンガー怖いって言ってなかった??」
「そうそう、それでドッペルゲンガーを思い出したのです!怖いですわよ!他にも無数に右子がいるんですわよ!?凶暴な右子が出てくるかも知れず、そうすれば私が消えるかもしれないですわ!!私はとっても怯えてるんです!」
「············魔法が使えるなんて君ぐらいだもんね。
そっか、最強かもね·········」
ここは右子の世界だから、皆が同等に力を使えるはずだけど使い方が分からないみたいだ。
その点、前世で魔法という技術を知っていた魔女の右子は強い。
前世でも明らかに特別な力を持った右子はこの右子ぐらいだった。
さすがに箒で空を飛んだりするのは、僕と一緒に暮らし始めて僕の力の影響を受けたからだけど。
僕はこの右子がいたから右子が神にだんだん近づいてきてることを悟ったんだ。
僕があれこれ関わるせいなんだけれど、右子は確実に神格化してきていた。
でも、このままだと現実世界では今度はこの魔女の右子が出てくるんだろうか?
僕の力が今世は弱いから、魔法を好きに使ったりは出来ないだろうけど、魔女の秘薬を作ったり怪しい道具を作ったりの魔女の知識はそのままに使えるだろう。
そして、魔女はイタズラ好きだ。
恋愛好きでもあるから、人の恋路をあれこれ操ったり男を誑かしたり·········
しかも惚れ薬を常備薬として使うなんて、そんな右子様は·········嫌すぎる!
「右子様!!右子様〜!!?」
僕は魔女の右子の肩を揺さぶったけれど、全く右子様は出てくる気配がない。
「ううう············そんな·············」
「あらあら、まあまあ」
この、黒い右子すら呑み込んで巨大な力を包括したかのような魔女の右子は、気の毒そうに言いつつ平然としている。
この魔女の前に僕は為す術もない。
さっきはこの右子と黒い右子との同期を企んでたなんて信じられない。
僕は身震いした。
巨大な右子に包まれてしまった現代の右子様には、もう永遠に会えないような恐怖が襲ってきた。
「ほほ······、ヨモギソウも採取しましたし、もう参りましょうか」
そう言うと魔女は僕の肩を優しく叩いて、箒の後ろに僕を促して座らせ、再び夜の飛行を始めた。
僕は頭を項垂れつつも、大人しく従った。
「あら?あそこに·············」
「え?」
荒野の上を飛んでいると地面に人影が見える。
あれ、人間の·········男が寝ている?倒れている?
「にんげんのおとこ···········」
空気がビリビリッと振動した。
すると、箒がすごい勢いで動き出した。
この世界に他の人間が来るなんて信じられない。
いや、この前もあったな···········
そうだ、帝と右子様の兄とかいう奴らだ。
彼らは帝族の『病の力』で身内の夢に入ることが出来るようだった。
魔女の右子は地面に転がった男に近づいて、周りを検めている。
彼女は、うつ伏せになっているその男を僕に表にひっくり返させる。
「·················!」
やっぱりこれはあの、保とか呼ばれていた胡散臭い兄の方だった。
僕は右子の夢の中では右子以外の顔が認識しづらいけど、こいつの顔は2回目でようやく判別がつくようになっていた。
「この裏切者········!」
突然男を踏みつける魔女の右子。
「ど、どうした、どうした!?」
僕は凶行を止めた。
「コイツですわ!前世で私を裏切った恋人は!!!」
「ええぇっ!?」
魔女の右子はしばらくこの世界の外の人間を見ていないので僕のように顔の判別がついていないかもしれないと思った。
だって、人間の転生って外見はもちろん中身だってまっさらになるから、前世を引き継いでいる人間はいない。
「人間の男ってだけじゃん、止めときなよ·········」
魔女の右子はもう懐から呪い薬と書いてある小瓶を出してそいつの口元に当てていた。ほんとうに問題あるな、この右子。
ごっくん
ああ、男は薬を簡単に飲み下してしまった········
「苦い·············」
苦しそうに唸って男は目を開けた。
「えっっ、右子?」
男は素っ頓狂な声を上げた。
「えっ、!?何、俺またここに来たの!?帰る!」
男はとても慌てていた。
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