154話目 断罪劇は電撃の後で 敦人side
ずっと右子は下を向いていた。
後悔してるのだろうか?
俺はあんな発破をかけるようなことを言った手前、
責任を感じる。
俺たちは、とりあえずボロボロのアインを保健室に運び込んで、保険医の診察後の説明を聞いた。
アインがあんなにボロボロだったとは。
知っていたけれど、知らなかった。
アインはみんなを、いや右子を、心配させまいと自分に幻術をかけて身体の負傷を隠していたのだから。
「とにかく右子は疲れている。もう帰そう」
俺がそう言うと、
一時は呼吸が止まった為診察を受けていた李鳥宮も頷いた。
「私が送ります。帝妃様も待っていますよ。行きましょう右子様」
李鳥宮もダメージが大きかっただろうが、平然と言う。
右子はこれまでずっとアインを眺め続けていたが、
その言葉に頷いて退出しようとした、その時。
「お待ち下さい」
凛としたよく通る精悍な声が響いて、皆が振り返った。
そこに立っていたのは、背の高く美しい容貌の青年だった。
先日の成長した16歳ぐらいの幻覚のアインよりは歳上だろうが、とても似ていた。
「···········カオン王太子!?」
右子が目を丸くして名を呼んだ。
俺は、はっと右子の頭の上を見た。そういえばいつかの黒い鳥が『カオン』と名乗っていたのではないか?
あの鳥はいつの間にいなくなっていた。
右子を見ると、右子も頭の上を気にしているようだった。
「アインは完膚無きまでに傷ついています。
彼がこうなった原因は何ですか?」
············右子だ。
右子がやった。
皆が彼女の電撃を思い出したはずだ。
だけど口に出す者はいなかった。
俺の方を見た右子に、言うな、と俺は首を振った。
前世の復讐にやったなんて、通用するはずがない。
「右子様。アインはあなたと答辞を述べる光栄な役目を得たと、今日の卒業式を楽しみにしていました。
··········それがどうしてこんなことになったのか、貴女は知っているのではないですか?」
こいつこそ事情を知っている········そう思った。
こいつはもしかして幻術の力であの鳥の姿になっていたのだろか?
そうだ、右子の上で全て見てきたのだ。
今思えば、かわいい(?)ペットのフリをしてニホン国側を偵察するスパイだったのかもしれない。
海の上では船団の幻覚を楽々出していたし、そもそも自分の身体は幻覚で、本体は本国に残してきたと言っていた。巨大な幻術の力を持っているのだ。
「いいや、私がやった。アイン王子に息を止められて殺されそうになった。正当防衛だろう」
李鳥宮が口を開いた。
「私は李鳥宮奏史と言う名だ。ここの学校長だ」
「·············ええ、存じていますよ」
カオン王太子は冷え冷えとした目で鋭く李鳥宮を睨んだ。
そういえば、この鳥は李鳥宮が投擲で撃ち落としたんだっけ?
幻覚なのに死にそうになっていたよな?
十分、恨んでいる可能性がある。
「···············違います。
···········私がやりました」
か細い声で右子が言った。
「違う!俺だ!俺がやれと彼女に言ったんだ!」
俺は庇った。悪い予感がする。
カオン王太子が微笑した。
「そう、みんなが右子様を庇う·········
それでも、貴女がやったのですよね?証言もありますし」
彼が促して入ってきたのはチェアだった。
彼女は申し訳無さそうに首をすくめた。
「ごめんね。自国の王太子には逆らえなくって···········
·········私は右子様が、色々な人に依頼してアイン王子へ危害を加えるところを見てしまいました。
それに、生徒達もそれを増長させるように、右子様を煽ったり、武器の供与などを行っていました」
「チェアさん··········」
右子はすごくすごく悲しそうな顔をしている。
チェアはそれを見て、両手で顔を塞いでしまった。
「だって、だって········こう言えば、王太子が傾いた実家を援助してくれるっていうのよ···········!」
小声の独り言が聞こえる。何やら裏で取引があったようだ。
そこへカオン王太子がわざと大声で被せて発言してくる。
「そうやって、私の弟へ危害を与えたのですね!
これはニホン国の我が国の王子へ対する組織的な犯行です!
近衛騎士も教師ですら、帝女である右子様に協力していたと裏はとれています!」
気づけば、いつもはアインを守っているコーリア国の私兵が、右子を取り巻いていた。
「!?」
「カオン王太子、何を········」
李鳥宮が唸る。
あれ、
これは、このシーンは見覚え、ある?
もしかして、あのゲームの、
········帝女を断罪するシーン?
俺は、本当に今更のゲーム、
『日本滅亡〜亡国の帝女と王国の聖王子〜』
の場面を思い出していた。
もう完全にこのゲームとはストーリーを違えていると思っていたのに、突然に重なって驚く。
カオン王太子がアインの立場を演じている。
ベッドに寝ているのは、本来はアインじゃなくてヒロインだ。
帝女が婚約者のアイン王子に断罪されて、どうなるんだっけ?
ああ、だけど·········俺は前世で一度っきりやった糞ゲームのストーリーなんて、いちいち覚えてはいない。
ドンッ
カオン王太子が保健室の机に証拠をつきつける。
アインへの危害の瞬間を撮った写真が多い。
近衛騎士が作っていた、生徒達からの右子への嫌がらせプレゼントリストも並んでいる。
右子の後ろに控えていた近衛騎士達が慌てて自分達の持ち物を確認しているのが見える。
これって、········皆、幻覚なんじゃ?
幻術が使えるとなんでもアリだよな。
かなり怪しい。
「右子様、··········言い逃れができますか?」
勝ち誇った表情のカオン王太子。
右子は真っ青になって、ずっと俯いていた·········
カオン王太子は、鬼だ、悪魔だ。
俺は言われっぱなしの状況が悔しくて歯軋りする。
「···········できません。全て私がやりました」
右子は一度アインの方を見たと思うと、
あっさり罪を認めた。
悪い右子は鳴りを潜めている。
もしかしたら、··········アインに電撃を食らわせた時に復讐は終わってしまったのだろうか?
こんな簡単に終わらせないで欲しいと、俺は舌打ちした。
「右子様、帝女がこの様な嘘くさい証拠と妄言を軽々しく認めてはいけません。
全ては私達がやったことです。
アイン王子の貴女への処遇が許せなくて、周りの者が勝手にやったことなのです」
李鳥宮が諭すように優しく右子を庇う。
カオン王太子は青筋をビクつかせている。
本当に李鳥宮を嫌っているのが見て取れる。
「··········そうそう、お二人はつい先程、婚約式をお済ませになったそうですね?
衆目見守る中!それはそれは盛大に行われたのでしょう!」
俺はさっきのシンプルを極めたような婚約式を思い出す。盛大ではなかったよな。
「私もぜひとも参列したかったですね。
············でも残念です。私は貴女に捕まって拘束されていましたから」
カオン王太子は右子を見る。
「··············」
右子の瞳がだんだん虚ろになっていく。
「ふふ、貴女は悪い女ですね。
················それに、重婚は犯罪ですよ?」
「はあ?」
カオン王太子の言う意味がわからない。
気でも触れてしまったのだろうか?
···········
狭い保健室で皆が見守る中、
カオン王太子は、
徐ろに
一枚の封筒を出したのだった。
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