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153話目 僕と鳥の兄さん アインside

パチッ


目を覚ます。


「ここは·········」


右子様の夢の中だった。


僕は性懲りもなくここに帰ってきてしまった。


というか、ずいぶん以前から寝る度にここに来て過ごしているのだった。

右子様に会えるかと思ったけれど、彼女はずっとこの部屋には来ない。

避けられてるのかな?


あんな目の前で、右子様の婚約式までやられて盛大にフラレたというのに、なぜ僕は自分の夢の方へ行かないんだろう?

·········もしかして、もう頻繁に来すぎて二人の夢が繋がってしまっているのかもしれない。



ここは右子様が作った部屋だ。

この部屋は、高いタワーの頂上になっている。

僕が右子様が他の右子たちに汚されないように地上から離して高層化したのだ。


部屋の角には、まだ鳥籠が転がってる。

あの時、僕はこの鳥籠に黒い右子を閉じ込めたはずなのに·······


「?」


鳥籠を見ると、中に何かが収まっている。


「ギョエ〜〜·········」


憐れに鳴いていたのは、九官鳥だった。


「に、兄さん!?」


「··········現実世界でずっと逃げ回っていたのですが、昨夜、この夢の中に入った時に右子様に捕まってこの籠に閉じ込められたのです」


「え!?いつの間に!?昨夜ここに右子様が来たってこと?

僕、卒業式の準備で早起きしたからその隙かな·······


兄さん右子様から逃げ回ってたの?現実世界で何かしたの?

でも、そもそも幻覚だから捕まらないよね?

ていうか、追われていたのに、わざわざ右子様の夢の中に来たの?」


「右子様は、···········いつの間にか黒い右子になっていて、アインを害するので私がそれを咎めたら逆に捕まりそうになりました。それから右子様の手の者に追われていたのです。


·········追われていたのに、右子様の夢の中に来てしまったのは、どうしてでしょうね?

·········それに、私は現実では捕まらないのに、幽体みたいな状態だから夢の中では捕まっちゃうんですかね?」



「自分の事なのに分からないことだらけじゃないか。

いつも思ってたけど、兄さん右子様に近づきすぎだよ?頭の上とか邪魔でしょ?」

僕は額に青筋が立ってしまう。


「止めてください!私にまで嫉妬するのは!」


兄さんはギャーギャー煩い。

捕まったのは自分のミスだよね。



「とにかく!早く私をここから出してください!」


ずっとこの世界に居座られても迷惑だろうしと、

僕は兄さん鳥を籠から逃した。






「ところで、卒業式はどうでしたか?答辞は上手くできましたか?

来賓としてカオン王太子の幻覚を出すつもりだったのに、口惜しい!

こんなところに捕まって、出席できなくて申し訳ありませんでした」


兄さんは卒業式に出てくれるつもりだったんだ。

小学生の卒業式は母国で本当のやつ済ませてるから別にいいのにね。


「あー、まあ、答辞はね」


「?他は?失敗でもしたんですか?」


「失敗··········」


不意に顔色が悪くなった僕を心配して、兄さんは事情を根掘り葉掘り聞いてきた。

あんまり話したくないんだけど··········



「なんてことでしょう!

李鳥宮と婚約式!?

これは、うっ、裏切りです!」


兄さんは憤慨していた。


「裏切りって、黒い右子がやることだし············

分かってたんだけど、僕もカッとなっちゃって、李鳥宮を殺しそうになったんだから、あいこだよ」


「あいこ?··········」


兄さんの鳥はギョッと首を傾げた。


「それに、いいんだよ。まだ18歳まで時間はあるんだし、その時がきたら攫ってしまえば」


ワンパターンで進歩ないけどね。


「李鳥宮が歳上なら、婚約も済ませ、最短で16歳で結婚してしまうのでは?

女性は16歳から婚姻可能ですよ?

その後の2年後に攫うのですか?」


「知ってるよ·········」


どうしたことだろう。

今までは何だかんだ人間の決めた枠組みには興味がなかったのに。


僕が憂慮するのは、攫う時の彼女の気持ちだけだ。

これが上手く整えられないと攫うのも一苦労だし、攫ってからの暮らしもスムーズにいかないということに、僕はようやく気づいていた。


つまり婚約していようが結婚すらしていようが、攫う時だけ言葉巧みに上手くその気にさせられれば問題無いのだ。


なのに··········

僕はアインとして人間として育ったせいで、いつの間にかどうでもいいような事を望むようになったみたいで。


右子様が、他の男と婚約して、結婚するのを見守って?

········それから18歳に攫う?


そんなのは到底堪えられるはずもなく。


信じられない

僕は泣いていた。



それをじっと冷静に見ているような

············兄さんは口を開いた。


「アイン、諦めることはありません。

我が国の王子であるアインをここまでコケにして、

彼らにはしっかり償わせます」


「へっ、でも、僕、

············フラれたし。

償わせるって、お金?」


「特に右子様にはしっかり償ってもらいます。

それなら良いでしょう?」


「ええっ右子様に?

だから、別に償ってもらっても仕方ないっていうか············」


兄さんって僕が欲しいもの、本当に分かってる?


「分かってますよ。アイン」


「·················」


兄さんは優しく微笑んだけれど、

僕は変人の兄さんの気持ちはいつでも分からない。





「·········この世界の右子様はどこにいるのかな。いつも会えないんだけど」


挨拶ぐらいしたい。

今は昼間だから······この世界には居ないだろうけど。


泣き止んだ僕は、見晴らしの良いこの部屋から地上を見渡した。


同期したとはいえ、本体である現代の右子様には黒い右子でも敵わないようで、時々しか出てこられないはずだ。

タイミングが良ければ夢の世界でも右子様に会えるはずだ。


「ああ、今は昼間ですよね?

昨夜は右子様はこの下でずっと戦っていましたよ」


兄さんは僕の肩にとまり、地上を一望して言った。


「は?戦う?」


「あらゆる右子たちと戦っていました」


うん、黒い右子みたいだ。


「············探しに行くのは止めておこうかな」


きっと僕が行けば無駄に藪をつつく事になりそうだ。


僕は過去の右子たちが

本当に怖いのだった。


読んでいただきありがとうございます!

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