152話目 卒業式は君の合図で(2) 右子side
壇上に上がった。
す、すごい注目されているような·········
わ、私の足は震えていた。
と、とととと答辞の時とはえらい違いだ。
え···········、めちゃめちゃ恥ずかしい·············!!
なんで? 卒業式と何が違うの!!?
答辞の時のように、予行練習していればこんなに恥ずかしくなかったのかもしれない。
如何せん、この婚約式もどきが決まったのは昨日の授業後だ。
後悔まみれに、私は奏史様を見上げると、
彼は今まで見たことがないぐらいに、
·············
···········優しく微笑んでいた。
それを呆気にとられて眺める私。
···········そうそう
これは彼の親切心からくるフェイク劇場なのだ。
···············はあ、彼は優しすぎる。
尊すぎる微笑みは、固くなった私の心を解していく。
多分聴衆のマダム方や初々しい少女たちも同じく解されていると思う。
うん、···········とにかく早く終わらせよう?
壇上の下の、アイン王子をチラッと見ると顔が真っ白だ。血色が感じられない。
髪も白いから本当に白い。
塗り忘れた絵画の一部分のようだと思った。
私は絵を描く人だから、それは私が塗り忘れたような罪悪感を感じて、無性に塗りつぶしたくなった。
そう、できれば黒く。
悪女なので。
「私って悪い女········」
私がボソッと零すと、奏史様は吹き出し笑いを堪えている様子。
奏史様は私に屈んで顔を近づけた。そしてアイン王子を見る。
「そうですね。かなり·······効果があるようですよ」
ほんとうに?
そもそもこんなことが復讐として通用するのだろうか、甚だ疑問だった。
よく考えるほどに、なんの意味もない行動に思えてきて心配になってくる。
私は、今、とてもおかしな事をしているのでは?
もう一度アイン王子を見ると、今度は青くなっている。
少し安心する。
白と青どちらに安心すればいいのか、
本当は分からない。
『もう少し、もう少し··········』
「帝族の婚姻は無宗教ですので、神への誓約はありません、この書面にサインを頂きます」
「えっ」
とってもシンプル
奏史様は頷いて、サラサラ〜っと書いている。
私も倣ってサラサラ〜っと書いた。
早く終わらせたい。
もう書いた。
書いてしまった。
なんだか嫌な思い出が蘇ってくる。
そういえば、保くんだ。
一年前に教会で、アイン王子に騙されてそういう誓約書にサインして、保くんに迂闊だとめちゃめちゃ怒られたのを思い出す。
あの時は、神に誓うような文面だったと思うけど·······
これは、国と帝に誓ったのよね。
あの時は、保くんが誓約書を処分しに行ってくれたんだっけ·········
ざわざわ·············
壇上の下が騒がしい。
「!?」
見るとアイン王子が飛ぶように軽やかに壇上へ移動していた。
「なんだ」
奏史様が私の身体を後ろに隠した。
「········教えてよ」
アイン王子は声がとても小さい。
「「?」」
奏史様と私は聞き取りにくいので、王子に近寄る。
「··········君はどうしたら長生きする?」
は?·······長生き?
「18歳にならないと攫わないのは、成人してからじゃないと長生きしないからだ。············でも、もっと早く攫わないといけないんだ。邪魔者が、いつもいつも········」
アイン王子は無表情で独り言のように話す。
「親ごと攫えばいい?それとも家ごと?」
アイン王子は王妃をちらりと見た。
壇上の下の王妃は会話の内容は聞こえないようで訝しげにこちらを窺っている。
私だって言葉の意味は分からないのに、とても恐ろしかった。
空気が重く、上から押し潰されそうな圧迫感が襲ってくる。
気がつくと身体が小刻みに震えている。
「せっかく僕は人間の子供にまでなったというのに、人間の女の子が大人になるまでに必要なものが分からないんだ。情けないよね·········」
違った。伝わってくる、震えていたのは奏史様の身体だった。奏史様は、呼吸をするのも苦しそうで。
アイン王子は、奏史様を特別な力で押さえつけているのかもしれない。
「···············化け物め、·········正体を現したな········」
「学校ごと?でももう卒業だしね。
ねえ教えてよ············4月から君はどうするつもりだったの?
·······未来ごと攫う········
そうだ!この国ごと攫えばいいのか!」
「ア、アイン王子」
そこで、ようやく真っ白なアイン王子は無表情だった相貌を歪めた。
「·············どうして、まだアインって呼ばないの?」
「··················」
私は喉から声が出てこなかった。恐怖で。
アイン王子は私に近づいて来ていた。
「やだ········」
私は涙を浮かべて、首を振っていた。
「右子っ!!」
壇上のすぐ下から声がかかった。
敦人だ。
「復讐だ!!復讐するんだろ!?」
「!」
これは合図だ。
それを聞いて、私は覚醒した。
私は全部、悪い右子になった。
あれ??
いつの間にか、停電が起きたようで体育館の中は薄暗い。
観客もいなくなっている。
「大丈夫か?」
隣には敦人がいた。
壇上で立ったまま硬直していた私を、優しく床へ座らせてくれる。
「いつの間にか、完全に呑まれていたわ···············
恐るべきアイン王子、まだこんな恐怖を残していたなんて············!」
まだ私は悪い右子だ。
「いや、·············もう、彼は余力を残していませんよ」
心ここにあらずといった様子でしゃがみ込んでいる奏史様が言った。
「え」
私は私の持つ『病の力』、電撃を彼に撃って、彼を倒したらしい。
私は再び立ち上がってアイン王子に近づいた。
見れば、彼は包帯まみれのボロボロの姿だった。
松葉杖が傍らに転がっている。
「ア、アイン王子··········」
そうだった、彼は幻術で無傷に見せていたのだった。
「こんなに傷だらけだったのにね············」
私は痛々しい身体を投げ出し横たわる彼の前で、
ただ立ち尽くしていた。
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