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151話目 卒業式は君の合図で(1) 敦人side

アインが倒れている。


「ア、アイン王子········」


傍らに真っ青な顔になった右子が立っていた·········





始めに言っておくが、

アインと右子の二人の卒業生代表の答辞は、それはそれは素晴らしかった。


二人が壇上に上がると、会場の視線が一気に集まる。

右子は艷やかな黒髪にアインは輝くばかりの白銀髪の対比が美しい。

あれ、アインってあんな髪色だったっけ?

先日の、右子幼女•アイン気絶騒動で薄茶色から白髪になってから色が戻ってなかったことに今更気づく。


神に造られたかのような精巧に整った美しい容姿を持つ右子と、カッコいい····というより若干可愛い顔のアインの二人が並べば、まるで毎年対に飾られる事を約束された雛人形の女雛と男雛のようだと、俺は呆けて眺めていた。


何度もセリフ合わせをしたらしい甲斐があり、二人の息はぴったり合っていたし、声もよく通り学生らしく溌溂としていて、そして答辞の文句もなかなか感動的だった。

生徒達からは溜息。

保護者席からは歓声が上がっていた。


役目を終えた右子とアインが壇上から降りて席に着く。


来賓の席には、帝不在で帝妃が座っている。

右子を日頃から姫神と宣う彼女は、目を輝かせて右子を見守っている。


これまでは滞り無く、復讐も何も無い平和な卒業式だ。

悪女の右子は鳴りを潜めていた。



次に学長からの挨拶があった。

俺にとっては学長の話は、例え最後の卒業式であっても前世からお決まりの長く退屈な時間だ。


だがここで話すのは、あの李鳥宮 奏史。


李鳥宮が卒業生に贈る言葉は、やはり大して心は揺さぶられない。

俺はカラス駆除に悪戦苦闘する李鳥宮を思い出していた。あの出来事が俺にとって一番の、奴の学長らしい行いだった。

そういえば、その後右子の頭の上に居座っていた九官鳥は最近見かけなくなっていた。


会場はたちまち熱気に包まれる。

キャッキャッと女生徒たちの歓声が聞こえるし、保護者席からも溜息や息を呑む声が聞こえた。





「··········というわけで、急遽ではありますが、ここに、お二人の婚約式を執り行います」


え·····

ざわ········

ざわ··········


その後校歌斉唱も終えて、

卒業式の行程を全て終える頃、

唐突なナレーションに会場はざわめく。


「学長」

李鳥宮は頷いて、悠然と立ち上がり一礼する。


「李鳥宮奏史学長は、近衛師団の師団長でもあります。

この度の北のアサヒ国との国境線の衝突による軍事侵攻に向けて、近衛師団の軍隊化の編成に関わり、大将の職に異動されます。それに伴いこの小•中•高帝国学校長の職も解かれることになります。次の学校長は李鳥宮公爵家にて現在選定中です。


国境へ赴かれる前に、本人たっての希望で正式な婚約者候補である第一帝女右子様との婚約式を、皆様の立ち会いのもと行うことになりました。

お忙しい所申し訳ありません。

お時間を拝借できる御方だけぜひともお残り下さい」


おおおっ····!


歓声とどよめきが上がる。

この様な珍事、もとい、慶事を見逃すまいと、帰る者はいなかった。


なんと、李鳥宮は新設軍の頂点である大将職に就くそうだ。

この国最大の軍隊を持つのは徳川公爵家だが、

北の国境の守りは海軍を中心とする徳川公爵家の軍では手薄なので、今回帝都の近衛師団から軍が増設されるという話は聞いていた。


遠くに赴く前に婚約式で婚約を確定とは、まあよくある話ではある。

昨日の打ち合わせでは聞いてはいなかったけどな。

こんな重い話を聞けば本気度がバレて右子に逃げられてしまうのを危惧したのだろう。


この国では婚約の際には、『婚約式』というものを行なう事がある。

婚約する相手のどちらかが16歳を越えている場合に限られる。

婚約を周囲に周知し確定させるために高位貴族や帝族が行う結婚式の前段階の儀式だ。

これを行って結婚しない事は殆どない。

李鳥宮は現在16歳で、今年17歳になるはずだ。



「はあ!?」

アインの素っ頓狂な声が上がる。

他にも男女の悲鳴にも似たざわめきが止まらない。


俺は唇を噛む。


李鳥宮はフェイクだと言って、上手く右子を丸め込んでいたが、

十中八九、本気だろう。

本気でこの衆人の見守る中で、

婚約式を執り行うつもりだ。


俺は朝斗を思い出す。

本当に、···········似たような奴ばっかりだな。


こんな茶番はぶっ壊してやるつもりだ。


ただ、本当に許しがたいが、

·············アインの反応が気になるから。暫くは様子を見なくては。


確かにこれは効果的だ。


アインの嫌がる事をする。

このふざけた茶番は全てがそこに集約しているのだ。




「どうしよう·········」


俺はハッとする。

隣で溜め息を漏らすこの少女は、右子だ。


「なんでここにいるの?」


「いや、だって、さすがにこれは恥ずかしいでしょ·······」


今は悪女モードでは無いらしい。


確かにな。

右子はけっこう人見知りだからな。

どうせやるなら、参加者を絞ってやるべきだった。

婚約式は婚約の誓約書を作成し、すぐに婚姻できない場合の既成事実が政略結婚に必要なのであって、別に衆目に晒して執り行う必要はない。

李鳥宮は周りを牽制するためにやったんだろうけど、

フェイクだと思ってる右子には敷居が高すぎるよな。


「さあ、右子様」


李鳥宮が右子を俺の後ろに見つけると、壇上に上がろうと右子に手を差し出す。


保護者席から悲鳴が上がった。

拍手する者もいる。

これは卒業式の余興だな、

めちゃめちゃウケてるじゃないか··········


「右子、止めておこう。こんな事は愚かだ」


「あ、敦人」


俺を縋るように見上げる。

身を低くして完全に及び腰になっている右子は、全身を震わせながらアインの方を窺い見た。


「アイン王子···········」


アイン王子は右子の視線に気づくと首を左右に振った。

行くなと、言ったのだろう。



すると、そんなアインを見て、

俄然右子はやる気になってしまった。

悪女モードに突入だ。


「ホーホホホ·····さ、さあ行きましょう!そ、奏史様!」



人を嫌がらせる為だけに自分の婚約式をやろうというのだから、


彼女は完全に、捨て身の悪女だった。


読んでいただきありがとうございます!

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