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149話目 私はこんなにも嫌われている 右子side

卒業式が近づいていた。

私たちは答辞の自主練習で体育館にいた。


「はあ、明日が卒業式だなんて信じられないね!右子様!」


「うん、そうね·······」


「さっ練習の続きを始めようか!」


アイン王子は生傷が絶えない。

このままで本当に卒業式に参加して、答辞を読み上げることができるのか心配だ。


「どうして、こんなことに··········」


私は両手で顔を覆った。

だって、アイン王子は、今は松葉杖をついている。

壇上にあがることさえままならないのだ。


「ん?どうしたの、右子様」


どうしたって、どうして?


「アイン王子は気にしていないの·············?」


「これ? そんなに痛くないし。

幻術が、あるから大丈夫だよ!

ビシッと右子様と答辞を読んでみせるからね!」


そう言って幻覚に早変わりした彼はすたすたと壇上に上がってみせた。

その間、自分の席に残った松葉杖の自分の姿は消している。幻術ってすごく便利よね。

彼という人間の、器の大きさを感じずにはいられない。


アイン王子は壇上で爽やかに笑って、私に手を差し出した。


「私はなんて惨めで愚かなのでしょう·········」


私も壇上に上って手を取りつつ、舞台のセリフっぽく言ってみる。

なんかスッキリする。


「ど、どうしたの?右子様??」

アイン王子が驚いて目を丸くしている。


「ううん。何でもないの」

悲劇のヒロイン役を演じるのが

私の専らトレンドなストレス解消法なのだ。



『········大魔王········まだだ、まだ足りないか··········』

私の中のどす黒い私が、舌打ちした。





「右子様」


廊下で呼び止められて振り向くと、

金原宮 根津生(ねづお) 先生が立っていた。


先生に誘われて、魔法資料準備室でお茶をご馳走になることになった。

この学校には、魔法の授業がある。

魔法の無くなった現在は力学的エネルギーの一種として学ぶだけだ。


「おかしな噂を聞いて、その、右子様がフラれて··········アイン王子に復讐してるって」


「ち、違います。そういう気持ちがあるのは本当ですが、断じて私は何もしていません」


思わず動揺してしまう。

とは言っても、私はもう自身がやってるのかやってないのか分からなくなっていた。

何しろ、私の中の黒い服を着た女がずっと、『大魔王に復讐しろ』と囁き続けて、私はもう頭がぼうっとしてノイローゼ状態なのかもしれないから。


「そんなしらを切って、··········貴女が色々命じてアイン王子に危害を加えているという話はいっぱい聞きましたよ?」


根津生先生は、そう言いながら迫ってくる。

やっぱり、そういう噂が広まっているようだ。

教師にも知れ渡っているなんて。

やばい、卒業前に退学になってしまうかも!?


「どうしてなのですか?」


視線が合う。

「あ、あの、その」


「どうして、他の誰かに頼むのですか?

なぜ、私に言わないのですか?·············貴女の為なら私はなんでもするというのに」


え!?

ま、ま、まさかの展開!!??


「私は、公爵家の後継者になります。」


「?」


「あれから、金原公爵家の状況は一変しました。

阿良々木(あららぎ)家は国策である電気事業で大儲け。今や国一番の財閥に躍り出ました。阿良々木家の背景を持つ私の発言力が金原公爵家の中でも強くなりました。それに対して兄達は失態続き。············このままだと、私に後継者のお鉢が回ってきそうなのです」


「あ、阿良々木家がそんな事に········」


確かに羽振りは良さそうだったけれど、あの後そんなに大躍進するとは。


「来春より、研究所の副所長になります。

金原公爵家の『後継者は武人であれ』という条件が取り払われたのです。権威より金が物言う時代です。

分野に限らず功績をあげ落ち目の公爵家を立て直す事が重要だと。


私は諦めていたのです。まさか四男の妾腹の息子が公爵家の後継者になれるはずもないと。そして私もそんなものに興味がなかった。研究に邁進しそれなりに成功すれば満足だったのですが·······」


確かに、先生は私の家庭教師時代からそんな感じだったわよね。勢力争いには興味が無さそうだった。


「だけどそんな立場では、あなたをお助けすることは出来ない」


そう言って、私に包みを渡してきた。

中を開けると、············それは魔法の古道具だった。




魔法準備資料室を出ると、

クラスメイトの男子が扉の前に立っていた。


「ずっと好きでした!これ、お使い下さい!明日、ずっと見ています!」


確か丹下くんという名の彼は、私に無理に箱を渡してきた。


「?あっ、待って·······!」


丹下くんは走り去ってしまった。

根津生先生がその箱を私の手から取り、蓋を開け中を検めると、それを逆さにした。

バラバラと奇妙な形の物体が落ちていく。

···········中に入っていたのは、


「蛙やヘビ···········あと虫、のオモチャのようですね」


「ひどい········」


私はクラスメイトにこんな嫌がらせをうけるぐらいに嫌われていたのかと悲しくなる。

蛙やヘビは私は別に怖くないけど。


「いえ、これはきっと·········」


根津生先生が言いかけると、ずっと苛立ちながら腕時計を見ていた近衛騎士に、タイムオーバーだと告げられた。


「ではまた。明日、楽しみにしております」

と言って追い立てられ行ってしまった。




「右子様!ご卒業おめでとうございます!これ受取ってください!明日の卒業式頑張って下さい!」

「今までありがとうございました!俺のこと忘れないで下さい!明日は応援しています!」

「熾烈で苛烈な右子様に憧れていました!········いよいよ明日ですね!」


それからは、私の周りには人だかりが出来た。

ほとんどが男子生徒だけど、たまに女生徒も混じっている。


皆、口では素敵な事を言っているのに、

渡してくるのは、全ては嫌がらせのプレゼントだ。


手錠や拘束具、鎖や縄にガムテープ、スコップにドライバー何かの動物の角や木の棒や藁人形などの呪いグッズ、白装束に黒いゴスロリっぽい衣装もある。


いやいやいや···········嫌がらせにしても、何このチョイス?

近衛騎士がせっせと嫌がらせプレゼントリストを作成してくれている。

これに、後々お返しする必要があるの?


みんな口を揃えて明日明日って·········

誰もプレゼントの説明をしない。



私は··········こんなにも皆に嫌われている。



「これ、お小遣いで買いました!使ってください!」

とうとう武器を発見する。

ナックルダスターだった。


「要りません」

つっ返したのに、無理やり押しつけてくる。


「これで、あの方を、ギッタンギッタンにやっちゃって、復讐して下さい!!明日は楽しみにしています!」


「へっっ」


今なんて言いました?


読んでいただきありがとうございます!


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小説のイラストもありますのでよろしかったらぜひお越しください♪

(イラストは活動報告欄の過去ログでもご覧いただけます)


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