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14話目 ロイヤル・クライシス 右子side

「今の宮内省?壊滅状態ですけど連絡取ります?」


私は察してくれた久留米医師に、全ての疑問をぶつけることにした。

「もう、完膚無きまでに機能してないですね。みんなクビになって、今は公爵家の面々が差配してるけど。」


「やっぱり公爵家が······」


質問の答えがスラスラ出てきて清々しい。けれど内容は重い。


「この前の帝宮庭での爆弾事件が原因ですか?巷ではプリンス事件って言われてるんですよね。去年のプリンセス事件と合わせてロイヤル危機と呼ぶとか·······」


先日銀座で買ってもらった新聞雑誌『東京パンチ』に載っていた驚愕の内容を思い出す。


帝族が起こした事件がここ二年続いている。


『プリンセス事件』

これは王弟の長女が起こした駆け落ち事件。


『プリンス事件』

これは王弟の長男···まさに敦人が起こした先日の帝宮庭での爆弾騒ぎだ。


帝族の事件が続いたのでそれを合わせて、

『ロイヤル危機』と世間では茶化して呼ばれているらしい。


最近の帝族の行動はおかしいぞ、ということらしい。

同じ帝族として耳が痛い話である。

宮内省の今の状況は責任を取ってのことだろうか?だとしても、ここまでの大粛清になるのは驚きだ。

帝族の周辺に蔓延っていた帝族を推している『帝族派』と呼ばれる貴族たちに特に累が及んでいるそうだ。

対抗する『貴族派』の割合を増やし宮内省内の均衡を調整するらしい。


「でも、さすがに帝宮医局の勤務医は人材が限られてるからけっこう残ってますよ。ましてや俺は地方の豪族の出だから政争とは無縁で安全地帯です。」


サムズアップしてもらっても、サムズアップって今世もあるんだなと思うだけで。


「だから安心してくださいね。」


「安心、まあ私の病的には主治医が無事で安心なんだけど······」


「えっ?まだ不満?だってお姫さまって、医局以外に宮内省に用事ありますか?」


彼の中では、私こそ政争になど無縁でマイペースな人物のようになってしまっているらしい。


「いやいやいや、私帝族だよ!?宮内省に用事大ありでしょう······?」


「うーん?日頃の行いを見てるとなぁ······」


まだまだ食い下がっている久留米医師である。

まあ確かに今までは宮内省に用は無かったんだけれど。

久留米医師、案外私のことよく見てるわね。


医師は機械で私の光量ルクスを計っている。

計測が終わると部屋の明りをつけた。


「あっ包帯巻きますね!だいぶマシになったけど、まだまだ眩しいから!」


「お願いします······」


久留米医師は新しい包帯の端を頸にそっと掛けた。

そこから包帯をゆっくり左から右へ繰り返し巻かれるにつれ、内なる力を押し込められるような。

力加減は程よくきつくて、徐々に捕縛されていくような心持ちがする。

その手順は丁寧で、私の焦燥感までも一緒に包帯に巻きつけて抑えて隠してしまえるような感覚で。言いようもない深い安堵感を覚えた。


最後に、久留米医師は上手に巻けたよ、とうっそり笑った。

私も笑った。

やはりこの医師の包帯処置が一番具合が良いのだ。



彼は帝宮医局はともかく宮内省にはとんと興味が薄いようで、これ以上の貴重な情報は得られないようだ。


「もう一つお願いしたいことがありまして。」

彼にはもう少し手伝って欲しい事がある。


サングラスを外して、久留米医師は目を瞬かせた。




「えっ敦人殿下と面会したいから、診察の時に同行したいって、本気で?危険じゃないですか?なんでそこまでして会いに行くんですか?敦人殿下と姫って仲良く無かったでしょう?」


質問攻めだ。そんなにおかしいだろうか?

「まあね、この前なんて罵倒されたしね。」


「えええ·····罵倒された相手に会いに行くんです?」

久留米医師は心底呆れた顔をする。


「彼、『姉はもういらない!』と言ってて。もしかして、実姉と何かあったのかもしれない。

その辺りのところに新しい姉である私を嫌う原因がある気がするので調べてみたいんです。」


「やめておいたほうがいいですよ。」


「久留米先生?」


久留米医師は私の両肩に手を置いて向き合った。

いつもチャラくてふざけた弛み顔の人が、急にど真面目な顔をすると背筋がぞくっとしてしまうので止めて欲しい。


「これは······帝族のプライバシーだから、話すつもりはなかったんですが······」


帝族のプライバシー??

前置きが怪談級だ。


「彼は、敦人殿下は『姉狂い』と言われています。」


「あ、姉狂い········!?」


「そうです。元々敦人殿下は姉殿下をとても慕っていたそうです。姉狂いとは、姉に対して弟や妹が強い愛情・執着を持つ状態をいいます。」


ゴクリ、

私はつばを飲み込んだ。

姉狂いって·········つまりシスコン?

話の先行きがかなり危ない。


「しかし、信頼していた一番上の姉殿下があんなことになって······」


「あ、あんなことって、もしや平民男性との駆け落ち、でしたよね?」


「そうです。周囲の反対にあって二人は海外へ出奔しました。今も行方は知れません。儚くなっているとの噂もあります。」


そうなのだ。帝族の駆け落ちなんてメロドラマ、大醜聞なのである。

ここしばらく巷の新聞や雑誌ではこの話でもちきりだった。さすがに弟殿下の姉狂いの話は出て無かったけれど。


「死して愛を貫き通した二人·······」


そう言いかけると、胡乱な視線が突き刺さる。

いやいや、ドラマティックだなと少し思っただけで。

うっとりしてないよ?


「殿下ならそういう反応だと思ってましたよ。」


残念なものを見る目は止めて欲しい。

確かに愛する人と平民生活は私には理想のハッピーエンドだけれども!

儚くなるのは嫌だし、そもそも相手がいない。


久留米医師は、はぁと大きく溜息をついた。

私が何だというのか、『そういう』の部分をどうか説明してほしい。



「えっと、権野宮(ごんのみや)家でその後の影響はどうだったんですか?」


慕う姉が自分たち家族を捨てて平民と駆け落ちしたというのは、敦人の心にダメージが無かったはずがないと思う。

しかも、彼が『姉狂い』となれば。

裏切られたと思っても不思議ではない。


「権野宮家宮邸で、姉殿下が失踪されたとされる日に火事と爆発事故が起きたそうです。

すぐ火は消え大事には至らなかったそう、ですが········」


私たちは顔を見合わせた。


「あ、俺、敦人殿下の『超常の病』分かっちゃったかも······」


「···········私も···········」


地雷案件だった。


敦人は爆発と火を『超常の病』で発露させてしまうのかもしれない。

そもそも私が爆竹被害にあったのは『姉』がキーワードだったのだ。

とにかく、彼に姉の話は絶対しない方が良さそうだ。



私は変装をして、右子だと正体を明かさず敦人に会うことを、久留米医師に固く誓わされた。


「というか、絶対会わないほうがいいですよ。」


義理の姉なんて『姉』がテーマすぎて、寧ろ地雷しか踏まない可能性。


それでも、私が私の弟に会うのは、どうしても大事なことに思えた。


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