148話目 未遂のプロポーズ 敦人side
俺は勇気を出して告げた。
「落ち着いて聞いてくれ。これは一見、前世の婚約指輪的なアレのようだけれど···········」
「え!?」
「お前はがっかりするかもしれないけど·····」
「!!?」
「これはフェイクなんだ」
「えええ!?」
「男避けってやつだな。
俺と朝斗のアイデアなんだ。右月が18歳ぐらいの時、周りの男のつき纏いがすごかったから、指輪でもして相手がいるって分かればちょっとは収まるかなって」
俺は右子をチラッと見て様子を窺った。
フェイクの相手は朝斗だった。
俺は弟だと周知されていたし、普段は海外にいたから囮になれない。
「結果は········散々だったけど」
朝斗に危害が加えられるのは狙い通りだったけど、ヤケになって右月に危害を加えようとする輩がいたのだ。
婚約者がいるならと諦めるようなまともな普通の感覚の奴はほとんど居なかった。
そんな平和な状況だったらそもそもこんな対策をしていないのだから当然かもしれない。
高校生の俺は浅慮過ぎた。
「そんな、朝斗くん········プロポーズしてくれたのに?私、騙されていたってこと?」
「えっ·······」
やっぱりあいつ、
抜け駆けしてたんだな。
フェイクといいつつ、しっかり求婚していた。
俺が焦って日本に戻ってこないようにそのことは隠匿してたんだろう。
道理で、あの時期、奴は忙しいとかでどんどん連絡がつき難くなっていた。
あいつは姑息なやつだ。
しかも俺は姉さんとケンカしてたんだよなあの時期。
俺がK国で銃の密造事件を起こしたり、刃傷沙汰で警察のお世話になったりしてるのが気に食わなかったようだ。
「どうせどうせ私なんて········」
右子はせっかくのプロポーズがフェイクと言われてといじけている。
俺はフォローしたくない。
前世でも、後になって二人が結婚の準備を進めていたような話を前施設長から聞かされて驚いたけれど、勘違いだと深く考えないようにしていた。
だって···········結局二人の結婚なんてものは実現しなかったんだから。
「右子、朝斗と結婚するつもりだったの?」
「うん。··········でもね」
ああ、プロポーズを受けてたんだ。
俺は前世ではどうしても聞くことが出来なかった右月の結論を、こんなところで不意に聞くことになるなんてと絶望する。
前世だったら俺はどうなっていたか分からない。
でも今世で知ったところで今更だし、別にどうということは無い。
うん、たぶん。
あの後、前世の日本を未曾有の地震が襲った。
そこで色々な事がリセットされてしまったんだ。
俺はあの時期は、連絡がつき難くなった朝斗に業を煮やして、近々K国の腐りきった暮しを清算して日本に戻る準備を進めていた矢先だった。
それにしても、プロポーズを受けていたとしたら、右月にとって、嫌なタイミングで地震が起きたものだ。
つくづく姉さんは···········、ツイていない。
右子は指輪を弄っている。大人サイズだ、少し大きそうだな。
「これって本物かな?······私いつの間に嵌めてたんだろう······」
「そうだ、本題に戻ろう。
それが、朝斗と何やかんやでフェイクじゃないってんなら尚更だ。
いたかどうかも分からないアインにフラれて復讐するほど恨んでるなんておかいしいだろ?」
「うっっ、でも、時期が違うのかも?」
「時期って········少なくとも地震前じゃあないよな?
じゃあ、指輪を貰って、地震が起きて、その後ってこと?」
右子は頷いた。
実は地震の後は俺は右子の事を知らない。
「プロポーズを受けて、地震が起きて··········」
俺は思考に耽っていると、右子はいつの間にか泣いていた。
それはそうだろう。
俺は手の甲で涙を拭いてやる。
「その後の事は、覚えていない·········」
地震で全てが変わってしまった。
思い出さない方がいいという事もあるのだ。
この後、姉さんは行方不明になる。
姉さんは見つからない。
震災直後で行方不明者なんて溢れている状況だ。
俺はすぐに帰国して、血眼になって姉さんを探し求めた。
だけど、震災ではない。
これは壮大な誘拐計画だった。
だからなかなか見つからなかった。
「朝斗くんって、保くん、なんだよね········」
不意に右子が言う。
「············保って、誰?」
「ヒッ!?」
右子が悲鳴を漏らす。
朝斗という嫌な名前を聞いて、俺は凄い形相をしていたのかもしれない。
聞けば、徳川公爵家の嫡男 穂波 保が前世の朝斗じゃないかって言うじゃないか。
しかも?
右子の隠された異母兄だという。
隠されたって··········こんなに簡単に話しちゃっていいのか!?
帝の隠し子って、国家が転覆しかねない一大事だよ!?
だけど、本当の帝子がいるなんてな。
事情があるとはいえ養子に出されてしまったなんて驚きだ。
この前軽井沢で会ったときは、飄々とした食えない奴と思っていた。
今は、大阪にいるのか。
このまま永久にいてくれると助かる。
ちゃっかり血が繋がって身内に収まってるなんて本当に腹が立つ。
「そいつなら、右子の復讐心の理由が分かるのかな·······」
「うーん·········?」
いや、無理だろう。
あいつだって地震後の右子のことは知らないんだから。
そろそろだろうか········
前世の話をすると、巨大な敵の気配がしてくる。
俺はこの世では彼女を攫われないように気をつける。
拭った涙で濡れたままの手で、右子の手をしっかり握りしめた。
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