145話目 神なのに平凡な僕は アインside
眩い光の中、目を覚ますとそこは僕の部屋だった。
最初は何処か分からなかった。
だって、僕達は、冷たい床に寝ていたのだから。
そう。僕たち··········隣には彼女が横たわっていた。
幼女の姿のままだ。
僕もおそらく16歳の姿で、髪は神の時の色と同じ白髪だろう。
これまでの出来事は全てしっかり覚えているけれど、到底僕自身がやった事とは思えない。
二重人格?···········でもない。
僕という人格におかしな人の記憶が混ざってしまったような不思議な感覚だ。
他の記憶が加わったことで、やらなくちゃいけない事が格段に増えてしまった。そのせいで、自分ではやらないような事をしでかしたような気がする。
天使のような右子様は、すやすや寝息をたてて寝ている。
輪っかと羽をどこで落としてきたのだろう?
確かめるように恐る恐る頭を撫でると、閉じられた瞳から幾筋も涙が落ちていく。
「あわわ······」
僕は慌ててハンカチを取りに行こうと立ち上がると、足枷にぐんっと引っ張られる。
そうだったこれがあるんだった。
幻覚は昨日のまま。
こんなに長く幻術が使えるなんて今までならありえない。
僕は足枷の幻術を解いた。
僕は床に横たわる右子様を軽々抱えあげて、ハンカチを棚の引き出しに取りに行く。片手で開けて閉めるのにちょっと手間取るけれど、腕の中の存在を感じるとそれすらも喜びを感じる。
右子様をベッドに下ろすと、僕も近くに腰を下ろした。
顔の涙を丁寧に拭き去る。
ああ、このまま連れ去りたいな。
どこか小さい家なんかに閉じ籠もって二人っきりで暮らすのはどうだろう?
僕は首を振る。
まだダメだ。
それには彼女が望んで来てくれないといけないから。
環境を整えないといけないし、
周囲の祝福が無かったらいけないんだ。
人間は群れで暮らす感覚が強いから配慮しないといけない。
そして、彼女は幼女でなくてもまだ12歳なのだ。
人間の子供はあれこれ世話がかかるし、弱いから不備があるとすぐ死んでしまう。
時々、人間の子供を神が攫う話を聞くけど、どれも悲しい結末を迎えているようだ。
僕は転生の度に彼女が大人になるのを眺めて待っていた。
我慢するのは苦しかった。
途中まで攫ったことも何度かあった。けれど死なせて失ってはと思い直してすぐ元の場所に戻した。
というわけで、せっかくの貴重な幼女姿なので、このまま暫く眺めていることにする。
突然、あの夢の中の恐ろしい黒い右子が頭に過る。
あの時、僕は黒い小さな右子を鳥籠に閉じ込めて、同期出来ないように右子様の顔に包帯を巻いて隠した。
その後、僕は先に寝てしまった。
あれから右子様がどうなったのか分からない。
もしかして、
今頃、黒い右子に言葉巧みに誘われ同期していたとしたら?
“右子の夢の世界”は深層心理の夢の中だから、現実世界へ目覚めればそこで何があったかは覚えていない。
だけど、もし同期していたら黒い右子の僕への憎しみの思いは残って、右子様は僕を嫌いになってしまうかもしれない。
そうやって、だんだん不安になりながら、
僕は右子様の可愛い顔を眺めながら、
先程の、幾筋もの涙の意味を考えていた。
突然、視線を感じてそちらを見ると、
九官鳥が僕を見ていた。
「にっ兄さん!?いつから見てたの··········!?」
鳥がまじまじと僕の様子を眺めている。
僕は恥ずかしくなって、きっと真っ赤になっている。
いや、僕、何も、恥ずかしいことしてないよね!?
「アイン、········ですか?」
「うん、そうだよ?」
そう言うと、兄さんは鳥の姿で深く溜め息をついた。
どうやら凄く心配をかけたらしい。
そりゃそうか。
「そういえば、兄さんも夢に来てたよね?
しかも夢の中でのこと覚えているの?」
「ええ、昨夜の夢の中での出来事は、しっかり覚えていますよ。幻術師には夢を専門に操る者もいます。私はやったことはなかったのですが、何とか行って戻ってくることは出来ましたね」
兄さんは最もらしいことを言う。
「で?そもそも、兄さんはなんで東京ここにいるの?」
「それにしても!アインには幻術の制御方法を教えないといけませんね!そんなに巨大な力、これからも持て余しますよ?」
あれ?はぐらかされた?
もしかして、周囲に黙って来てるのかな?
「おまけに、夢の中でまで『右子様コレクション』をしているとは思いませんでしたよ。ああいうのは写真や絵画や私物だけに留めた方がいいですよ?」
「···················」
あの夢の中の『右子』がいっぱいいる状態をコレクション呼ばわりするとは、やはり兄は侮れないな。
それにしても、
右子様の九官鳥に変身してたなんて、びっくりした。
兄さんほどの幻術となると、初めから疑わないとなかなか見破れないのだ。
僕が気がついたのは、九官鳥が死にそうになっていた時だ。本物の九官鳥があんな態とらしく死んだふりするはずがないと思って注視したら·····兄さんだったんだ。
だからすぐに生き返らせようと思ったんだけど、
その直後、右子様の夢の中へ侵入者が入ったと察知してそれどころじゃなくなって、すぐに夢の中へ行くことになったんだ。
実はこのアイン王子の身体は、兄のカオンの身体をそっくりコピーしたものだったりする。兄弟なら似ていても不思議に思われないし6歳も違うから誤魔化しがきく。
だけど、初めこそそっくりだと言われたけれど成長した現在はそうでもないようだ。そもそも魂が違っているからだけれど、成長の過程でそれぞれ違う要因が加えられるからかもしれない。
つまり神であった僕が、人間に生まれ変わったら努力もそこそこに色々なことを熟すだけの平平凡凡な性格だということを知って驚いてしまう。
そう思わせるぐらいに同じ遺伝子を持つはずのカオン兄さんは優秀だ、趣味以外は。
時々出てくるK国での前世の記憶はカオンの魂から脳に移ったカオンの前世の記憶だ。人間は決して思い出しもしない前世の記憶を次の脳に同期していると知って僕は驚いた。
カオンの前世は、とにかくゲームが好きな青年だったようだ。
魂と脳の関係は、神である僕にもよく分からない。そもそも地球上の生命の誕生に関することは僕はよく分からないので、人間という動物に転生するには誰かをそっくりコピーするしかなかったのだ。
「うう、··········ん」
「「!?」」
右子様が目を覚ましそうだ。僕は慌てた。
「どっどうしよう!?」
「ど、どうしようとは?」
「だって、僕、色々やらかしちゃって、きっと嫌われていると思う。··············」
僕は泣きそうだった。
「気持ちは分かりますが、とりあえず、···········
あっ! 身体直しなさい! 二人の身体!」
「そっ、そうだった!」
僕は急いで幻術を解いた。
僕は元の幻覚の12歳のアイン王子の姿に。
右子様も元の12歳の姿に。
「髪色が戻りませんね······」
「あれ?本当に?どうしよう、銀髪なんておかしいよね?」
「まあ、元から薄めの髪色でしたし、染めてると言ってもいいですしね。ゆっくり戻るかもしれないので様子をみましょうか···········聞いていますか?アイン?」
「うん、·········聞いてるよ」
僕の視線はまた右子様だった。
12歳の右子様がベッドで健やかに寝ている姿を見るのはもちろん初めてで、目が離せなかった。
「おかしいのは髪色ではなく、その頭の中········といったところですかね」
カオン兄さんは呆れて溜め息をつくのだった。
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