141話目 僕と私は長いつきあい 右子sideアインside
今回は 前半右子視点、後半アイン視点 と切り替わります。m(_ _)m
帝がこんな所にいるなんて?
········隣のお兄さんは知らないけど!
アイン王子は彼らを睨んで視線を外さない。
私は鉄格子にもっと近寄った。
「へ〜、なんでこの右子だけ小さいんだ?」
「右子!お父さんの所へおいで〜!」
帝は鉄格子の向こうから手を出して幼女の私を呼ぶ。
まるで小動物に対する父親の態度にちょっとイラッとする。今、檻に入ってるのはあなたですよ?
「お父君でしたか。それは失礼しました」
アイン王子は私を引き寄せて、
冷酷な表情は変えずに言う。
ギャーギャーギャーギャー!
「カオン王太子!? 急にどうしたんですか?
頭に爪が食い込んで痛い痛い!」
私は何とかカオン王太子を、落ち着かせる。
そういえば、アイン王子は意外とこの煩い悪鳥に文句の一つも言わない。まさかカオン王太子って分かってるのかな?
私何回も名前呼んでるしね。
でも疑問は、彼にアイン王子としての自覚があるかどうかよね。
「アイン王子って、アイン王子としての意識は残ってるんですか? 帝と初対面ではないですよね?」
「帝という存在は覚えています。ただ、顔は分かりません。
·········右子様の夢の中では、他の者の顔など思い描くのも煩わしいので、わざと分からないようです。
その代わり、この夢の中にいる右子はぜんぶ見分けられますよ? 今度、全•右子をデータ化してファイリングするのもいいかもしれませんね」
ほんとうに?
アイン王子は右子の専門家なの?
「夢の中でくらい、やりたい事をすればいいと思うんです」
分かるけど、
ここ私の夢の中ですよね?
「なんていうかさ、君は右子のことがめちゃくちゃに好きで、夢の中までお仕掛けて来ちゃってるってのは充分に分かったけど、
他人に夢を蹂躙されることの重大さ、考えたことある?
それに、··········右子って別に君のこと好きじゃないよね?」
ぴくり、
アイン王子が震えた。
「帝、言い方」
脅迫されていたはずの、知らないお兄さんが気遣わしげに咎める。
「私にムチを当ててくれていた包帯の右子たち何名かと世間話してたんだけど、
みんな君の事を
尊敬してたり 奉ったり 恐れていたり。
でもさ、···········どれも好きって感情では無かったな」
アイン王子は、項垂れた。
急に大人しくなるなんて、王子はどうしたのだろう?
「········一体いつから、うちの娘に取り憑いていたんですか?」
「··································紀元前?」
「はあ!? そんな前からぁ!? 何年前からとかじゃないの!?」
「お、おとうさん、
普段のアイン王子はとても優しくて良い人です!」
「お? おとうさん!?」
帝は驚愕の表情。
「右子様·········」
はっと顔を上げたアイン王子は真っ青で、
縋るような瞳で私を見つめていた··········
ギャーギャーギャーギャー!
「カオン王太子!? 急にどうしたんですか?
頭に爪が食い込んで痛い痛い!」
あっ、
あまりにショック過ぎて少しだけ時間を巻き戻してしまったようだ。
これで聞きたくなかった会話を無に帰してしまった。
これでいいんだ。
どうせ夢の中の出来事は、みんな目が覚めればほとんど忘れてしまうのだから。
なぜか鳥になったカオン兄さんが、僕に目を覚ませとずっと騒いで語りかけていた気がする。
そう、そんなことは気づいてた。
彼女が僕を恋で好きにならないことぐらい。
原因は、
僕が神だったから。
彼女が人間だったから?
僕は神としてこの世の理を動かしていた。
ただ、世界が広くなるにつれて、仕事が追いつかなくなり他にも神が必要となってきた。
神を創造するには『依代』が必要だ。
彼女は『依代』を彫れる仏師だった。
彼女を見つけた僕は、育てるのは難しいので大人になった18歳くらいに攫って来た。そして、荒野にある街外れの廃墟に二人で籠もって神を造る仕事を始めた。
彼女がひたすら仏像を彫る。僕がその中から出来が良いものを選んで更に彫りを進めて仕上げると、それが『依代』になり新しい神が降臨する。
神が増えてそれぞれ世界を動かし始めると、いつの間にか神を創り出すことだけが僕の仕事になっていた。
神は定期的に依代をそっくり交換する。
必要な依代はどんどん増えていった。
僕はもちろんそんな生活で満ち足りていたけれど。
ずっと、彼女はどうだったか分からない。
初めは軽い気持ちだった。ただ人手が足りなくて、たまたま腕の良い仏師を見つけたと思ってたんだ。
でも、初めて彼女が死んだ時に気づいた、
心にぽっかり穴が空いたような不思議な気持ち。
僕はこのままでいることは苦痛だと思った。
他の仏師を迎えることも考えたけど、
どうもしっくりいかなかった。
僕は人間界で彼女の転生先を探した。
彼女はすぐ見つけられた。
僕は神だから出来ないことはほとんどない。
次も次も次も探し出しては、人間達の混沌からつまみ出すように彼女を攫った。
そんな事を何世代か続けていたが、
彼女から、周囲の人間から、
激しい抵抗を受けることがあった。
それは大体は、婚約者がいたり、将来の夢があったり、病気の家族がいたりした場合だった。
でも神のお手伝いだよ?
この世界の存続に必要なことで、
大事な意義のある仕事、そう思ったんだ。
そうそう、魔女裁判で火刑される寸前で迎えに行った時はすごく感謝されたっけ。
神の加護を受けて転生を続ける者が普通の人間でいられるはずがない。
不思議な力がいつの間にか高まっていって、人間を惑わしたり逆にその魅力を利用されたり········僕はもう人間たちの世界に彼女を置いておけないと思ったんだ。
彼女は転生の度に特別な存在になり、神に近づいていった。
そうやっていずれ輪廻転生の輪から外れて神の一員になるのを僕は心待ちにしていた。
そうすれば、転生の度に彼女を奪われることは無くなる。また迎えに行って幸せな彼女を壊さないで済む。
僕はもうすぐ彼女とずっと一緒にいられると思っていた。
ああ、それなのに
前世の君をあんな風に失うことになるなんて。
僕の何がいけなかったのか考えてみる。
貧しく侘しい生活が悪かったのか。
山の工房に閉じ込めたのが悪かったのか。
休みなく働かせたのが悪かったのか。
好きなんて感情は必要無いと思っていた。
僕は神だったし、そんな人間特有の細やかな気持ちは分からないから、与えたことも貰ったこともなかった。
僕は人間について学ばないといけないみたいだね?
そうだった、今日思い出したばかりだけど。
僕は君と一緒にいるのに必要なものを、人間界で調べて収集し用意する為に、
人間の王子に転生したんだ。
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