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13話目 伝家の宝刀 右子side

12話目が長かったので途中で切りました。


「はぁ、深夜に勘弁してくださいよ。」


慇懃に挨拶の礼をとりつつ、無礼な様子で久留米(くるめ)医師は言った。彼は私の専属医師だ。


「仕方がないでしょ。急を要するんだもの。」


むっとして私も言い返す。

私の病状はいつも通りで申し訳ないけれど、義弟の状況は急を要していると思うのだ。


帝宮内で謎の解雇の嵐が荒れ狂っている中でも、久留米医師は消されていなかった。彼のいつでもどこでも無礼な態度は粛清の対象にならないのだろうか。

「······でも、こんな時間に申し訳なかったわ。」


姿勢を正して、深夜に呼びつけたのを詫びると、久留米医師は雰囲気を柔らかくして軽く首を振った。

彼は包帯の処置をするからと部屋から人払いをし窓のカーテンが閉まってるのを確認して、サングラスを装着する。


長身で端正な顔立ちの、この青年がサングラスをかけると、さながらどこぞの王族かセレブのようで、異国のリゾートホテルのプールサイドにでも来てしまったような錯覚を受ける。


そして彼は部屋の明りを消した。


「あーあ、深夜に眩しい思いするの、嫌なんだけどなぁ。」


いや、場末のふざけた放蕩息子の方がしっくりくるかもしれない。整った顔立ちに雑な口調のギャップが本当に可怪しい。


向かい合って座り、久留米医師の両手が私の顔に届く。


くるくると手慣れた様子で包帯を外されると、その隙間から徐々に光で部屋中が隅々まで照らされていく。


「ウッ、眩しい············」


サングラスをしていても、久留米医師は目を細めて眉を顰めている。



帝族は病気持ちが多い。『超常の病』と呼ばれ、これは帝族にとってデリケートな問題で、公表されない極秘事項だ。


帝族の『超常の病』は科学では説明できないような不思議な症状で、そして病気は個々に違った特徴を持つ。

帝族の血が濃いほど特殊な『超常の病』が発症する可能性が高くなるそうだ。


例えば私の顔の湿疹は、湿疹とはいっても通常の症状とは全く違っている。

症状の始めは赤く爛れるだけだが、皮膚は次第に発光する。

それは帝宮医師の調合した薬を塗った特殊な包帯で巻かないと抑えられず、眩しさで人とまともに相対できない。

発光するだけで害したりはしないが、見続けると眼球に悪影響を及ぼすだろう。太陽を直接見てはいけないのと同じだ。

そして、ある時発光はおさまり湿疹も綺麗に治る。

光っては治るの繰り返しで周期は特に決まっていない。

かなりの超常現象だ。


私のどこにも電球もLEDも搭載されていないのに、なぜ光るのか?

ここが異世界とはいえ、私自身がUMAだなんて本当に全く悪い冗談だ。


それはほとんど魔法に近いが、良くない症状が暴走するので『病気』と呼ばれているそうだ。

言い換えれば呪いの方がしっくりくるかもしれない。

意味もタイミングもなく発光する様は、ただただ不条理で禍々しいと思う。


帝も帝弟も帝弟の子供たちも、濃い血故に何らかの不思議な病状を抱えているらしい。帝族どうしであっても『超常の病』の病状の詳細は秘密にするしきたりだ。

それでも帝族の血を濃く受け継ぐ明白な証明でもあるので、帝族の病は尊ばれる一面もある。

逆に何らかの『超常の病』を発露させていない子供は帝子や宮子と認められず、地方貴族に養子に出された例もある。

もちろん詳細は公表されず、全て宮内省の采配だ。


宮内省は帝族のあれこれ生活と教育と公務をサポートする。私達帝族には無くてはならないものだ。

帝宮医局は宮内省の管轄なので、この私の専属医師に宮内省のクビの大波の現状を聞こうと思ったのだ。


そう、伝家の宝刀とは、

つまり仮病だ。


今回は久留米(くるめ)医師を呼ぶために使ったけれど、普段は窮地から脱出する時に使う。どんな面倒事に陥っていても一旦タイムできるのだ。

あまり多用すると信頼を失い嘘つきになり、効果が薄くなるのでここぞという時に限る。

伝家の宝刀『仮病』で信頼のおける顔馴染みの医師をタイミング良く召喚できたのはラッキーだった。


「久留米医師は、ご実家はどちらですか?」


「え?なんで突然に俺の実家?······キュウシュ地方の、久留米家出身ですけど。あっちでは医薬品や医学の振興に力を入れてる一族でして。」


彼は前世でいう九州の名家の出だった。名家とはいえ貴族ではなく中央の政争には関わっていないそうだ。

帝宮医局に出仕したのは彼の医者としての実力を買われての事だという。

信用できそうでほっとする。


「お姫さま······光が弱くなってますね?」

「えっ本当。」

「うん、安定してきてる。何も問題は無いよ。」


彼は私を姫と呼ぶ。変だけれど、間違いでもないので放っておいている。

光が治まっているのはかなり嬉しい。

久留米医師は私の顎をくいっとあげた。

サングラスの奥の細めた瞳が眩しそうに燐く。


「ねぇ、何で俺を呼んだの?」

········お察しである。


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