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137話目 夢の中の君は荒野に佇んで 保side

久し振りの 保 目線です。

彼は現実では大阪の徳川公爵の元にいます。



えっと··········ここは何処だったか。


見回すと、辺りは荒野だった。

所々に廃墟となった建物の跡があり、かつては街があったが荒廃して荒れ地になったのが分かる。


俺は、右子に会いに来たはずだった。

そうだ、ここは右子の夢の中だ。


だけど、この広大な世界で一向に彼女は見つかる気配がない。


おかしい。

前回に来た時と違い過ぎる。

そもそもこんな荒野に右子がいるはずがないではないか?

俺は右子の夢の中に来たなんて言って、

狂ってしまったのだろうか·········

あ、頭が痛い、


「ううう········」


「大丈夫ですか? 旅のお方」



右子だった。


岩陰からすっと現れ、インドのサリーのような衣装を身に纏っている。


右子は手慣れた仕草で何かポットから木製のカップに白い飲み物を注いで俺に渡してくれる。


「ミルクがゆです。どうぞ、見知らぬお方」


「ありがとう。に、苦い········」

ミルクと聞けば甘い飲み物を想像したのだけど、それはいつもの右子の淹れた紅茶のように苦かった。


暫く話していると、仕草や様子からやっぱり右子だなと思う。

記憶が無いようで、俺を知らないという。

まあ、それもいつも通り。

俺は、忘れやすい右子のために調合している赤い錠剤を渡しそびれていたのだから仕方ない。


俺の視線を感じてか、目が合うと右子は微笑した。


少女とは違う、大輪が咲き誇るような妖艶な美しさを兼ね備えている。辺り一面には彼女特有の輝きと芳香な香りが満ち溢れていた。

うーん、大人っぽいな·········これは何歳だろう?俺は17歳だけど、同じくらいの17歳〜18歳くらいじゃないかと思う。

同い年ぐらいの右子なんて、新鮮な驚きがあって俺はまじまじと見つめた。


「見知らぬ人とはいえ、こんな所で行き倒れているのは憐れで偲びません。暫く私の家でお暮らしになると良いでしょう」


右子が指で指した先には·······廃墟と思わしき建造物があった。


「はあ?」


俺は別にここで暮らそうってわけじゃないぞ?

休憩なら今この苦い飲み物を飲んだから十分だ。


それに、せっかく右子に会えたのだから、最近の近況を伝えないと·········


とはいえ、相手は記憶喪失だ。やれやれ。

俺は今大阪で起きている出来事について、丁寧に説明してみるが、右子は「おおさか?」「こーりあこく?」「みかど?」と全てに疑問符をつけていた。


いつもなら俺に関する事のみの記憶喪失だったのに、これでは今世に関しての記憶がまっさらのようだ。


そういえば、以前に来た時は夢の中の右子は現実の右子と少し違っていた。

そもそも彼女は夢の中での出来事を目が覚めてからは覚えてないのだった。

というわけで、俺がここで何を伝えてもどうせ忘れてしまうのだと気がつき、俺はどうでもよくなってきた。

そうそう、俺はここに捜し物に来たのだ。

だけど不思議とそれもどうでよくなってくる。



「じゃあ···········少しだけお邪魔しようかな? すぐ帰るけど」


大人っぽい右子は艶やかに笑った。

俺は吸い込まれるように、その廃墟へと入っていった。



そこはどう見ても廃屋だったけれど、一つだけ古びたドアがある。そのドアを軋ませながら開けると、一部屋分のスペースがあった。


「こんなあばら屋ですが、雨露はしのげます。どうぞ好きにお寛ぎください」


「どーも?」


ここで寛ぐ? 正直、ここは人が住むような場所とは思えなかった。

石が敷き詰められた冷たい床にはゴザが敷いてあり、その上には木片と彫刻刀が転がされている。部屋の中には所狭しと木片が山となり積んであった。


右子はそのゴザの上に座ると、突然、シュッシュッシュッと凄まじい勢いで木片を削り出した。


「な!? 何をしてる?」


「木片を削って仏像を彫っているのです」

「へっ? ぶ、仏像?」

「はい。今日中にこれだけ彫らないと」

「·········そうなんだ?」


どうやら、ノルマがあるらしい。

俺もすすめられて敷かれたもう一枚のゴザに腰を下ろす。

仏像はみるみる内に仕上がっていき、右子は次の木片に手を伸ばした。徐々にスピードは上がっていき、もう、手元は目にも止まらぬ早業の領域だった。


「これって仕事? どうしてこんなことをやってる?」

右子はふいに、高速の手を止め、不思議そうな顔をする。

「どうして、とは·············?」


「だって、こんな大変な労働をするには理由が必要でしょ?」


「大変な労働? り、理由が必要?」


右子は真っ青になってしまった。

俺は夢の中だというのに、それも忘れて正論を振りかざそうとする。


「もしかして、理由も無くこんな事を?」


「··········とある男に言われたのです。ここで木片をひたすら削っているように、ここから一歩も出ないようにと」


「男に」

俺はピクリとした。


先ほどは外に出ていたような気はするが、こんな荒れた部屋に閉じ込められているとしたら、とにかく酷い扱いだ。

右子がその男とやらに不当な労働を強いられているのだとしたら我慢ならない。

そう、例え夢の中であっても。


というか、夢の中でこんな目に遭っているなんて、右子はつくづく油断がならない女だと思う。


「俺とここから逃げよう」


「え?」


俺は右子の痛々しい手を掴んだ。

右子は信じられないという顔で俺を見つめた。


「い、いいのです、いいのです。私に構わないで下さい!」


手を払い除けられる。

俺はすぐに断られてショックだった。


すると、右子は急にはっと険しい表情に変わる。


「しっ、お静かに·········」


右子は、耳を澄ませていた。


「彼が来る·········!貴方は逃げてください!」


穏やかではない様子に俺も警戒を強める。


俺達は戸口に立つと、右子はドアを開けて俺を追い出そうとぐいぐい押してくる。

俺は抵抗して戸口の木枠を掴んで、ぐぎぎ·······と二人でやっていると、背後に人の気配がした。


「何を、している?·········」


そこには、長身の白髪の青年が、

怒髪天を衝く如く、怒りの形相で立っていた。


ギャーギャッギャッギャッ!


何処からともなく、地獄から聞こえてくるような鳥の鳴き声が頭に響いていた。

読んでいただきありがとうございます!

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小説のイラストもありますのでよかったらお越しください♪

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