136話目 幻術の兄弟王子 右子side
「さて、·······積もる話は後にして、
幻術を解く施術をします。ベッドにアインと並んで寝てください」
土下座して一段落したのか、カオン王太子はすっかり立ち直っていた。
「え!? 解いてくれるのですか?」
「ええ、アインがかけた幻術ですが、解くだけでしたらできると思います。
アインは? あれ、どこですか?」
「床に寝転んでいますよ。アイン王子の侍従さんが、万が一同じベッドでぶつかったり肌が触れたりがあると、補償問題なので床に転がしてくれって言ってました」
カオン王太子はどうやらこの幻術を解くための施術を施す為にアイン王子と同室になるように私に要求してきたようだ。
思ったより悪い人じゃない?
「二人に近づいてもらわないと幻術の解析がし難いのですが·········
この幻覚はアインがかけたものですが、私も知らない術を使っています。
まだ幼女のお姿ということは、現在も術者のアインと繋がっている状態ということになります。おそらくこの足枷の幻術も離れて幻術が解けてしまわない様にかかっているのだと思います」
「え? 全てカオン王太子の幻術だと思っていました」
「違いますよ? さすがの私も、遠方では精巧な九官鳥の幻覚を出現させるのに精一杯で余力はありません」
カオン王太子の本体はコーリア国にあるけれど、大阪の徳川公爵家にも幻覚を滞在させているそうだ。
つまりこちらの九官鳥の幻覚とで2つの幻覚を同時に出現させていることになる。
だけど意識は一つなので、今は本体と大阪の1つ目の幻覚は寝たきりの状態になっているらしい。向こうではさぞかし心配されているだろうと思うと、他人事ながら胸が痛い。
私はこの足枷の鎖も私が幼女になったのもアイン王子が白髪の16歳になってしまったのも、カオン王太子がやったのだと思っていた。
ということは、皆が幻術のうんちくを語ってアイン王子を詰っていたのは正しいことだったのだ。
「私がやったことといえば、私に石をぶつけた李鳥宮に再会してしまったので、死んだふりしたぐらいですかね。学校の校庭を徘徊していると、ちょうど李鳥宮が歩いて来たので咄嗟に死んだふりして道端へ避難したのです。また殺られると思って。
そしてチェアもそこへ来て体調を心配されて右子様の元に連れて来てもらったというわけです」
奏史様が石をぶつけたというのは初耳だ。
奏史様はやはり鳥がお嫌いなのだ·········
「ということは、死んだふりしてあの場にいただけということですか?」
そ、そんなバカな。
カオン王太子悪鳥はなぜか胸を張る。
「その通りです。
幻覚なので、李鳥宮に石をぶつけられて思わず衝撃は受けましたがダメージはありません。
でも右子様が獣医を探して外に飛び出して行かれた時は私も焦りまして、死んだふりを解いたという訳です」
「はあ········演技派なんですね」
あんなに心配したのは何だったのか。
私は深く溜め息をつくしかない。
「それで、なぜアイン王子は倒れたんでしょうか?」
「全く分かりません。
アインの中にいたのは私も知らない人格の男のようでした。
それが元々隠されていたアイン自身なのか、他の何者かが入り込んだのか············
ただ、今のアインからは底知れない強い力を感じます」
「そんな··········」
事態は思った以上に深刻だった。
アイン王子はどうなってしまったのか。
「折よく私がいるのですから、アインの謎を解くまでこちらに滞在しようと思っています。この鳥籠に」
「この鳥籠に、」
カオン王太子はこの鳥籠がいたくお気に入りのようだ。
何せ帝居では、この鳥籠に吸い込まれるように自分から飛び込んできたのだ。その事を話すと、「美少女が持っている鳥籠に入りたがらない鳥はいないと思うのです」といった。
「さっ、アインの身体をベッドへ上げましょう」
「は、はい」
えいしょっえいしょっえいしょっっ!
もちろん無理だった。幼女と見守る悪鳥だけでは16歳ぐらいの男性の身体は持ち上がらない。
「じゃあ私が床に寝転がって···········」
「や、止めください!まさか右子様!?そんな.帝女が床に寝そべるなんて·········」
弟王子が床に寝転がってるのは、全く気にする様子が無いというのに········
「しっ、声が大きいですよ···········」
私は声を潜めてベッドから床に降りた。
ジャラリ、
鎖の擦れる硬い音がする。
ひんやりと冷たい床に両手をつけば、思いの外気持ち良かった。
アイン王子の寝顔も心なしか涼し気に見える。
「これって寝てますよね········?」
「確かに、寝息を立てていますね。体調に関しては心配要らなさそうですね」
鳥籠から自ら出てきたカオン王太子はホッと息を漏らす。
近い方が幻術の解析がし易いと聞いたので、私はアイン王子の近くにそっと寝転がった。
「二人で寝転がる··········な、何とエモーショナルな光景なのですか·······! アインの為にも記念写真を撮りたいです!」
カオン王太子は心のシャッターを切っていた。
私は間近にあるアイン王子の顔を眺めていた。
どうしてだろう?
凄く知っているお顔のように思えるのは···········
よく見れば、確かにアイン王子の顔をしている。
だけどそれだけじゃない。
それよりずっとずっと昔からの、········懐かしい顔だった。
あの時、花びらの幻覚、
雪のように降りそそぐ中に立っていたのは
白髪の、苦渋に満ちた表情を浮かべた青年だった。
「ここにいたね」
彼は安堵したようにそう言った。
記憶を辿って思い出そうとしたけれど、
私は幼児だし、時間はもう深夜。
············いつの間にか寝てしまっていた。
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