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134話目 天使は怪鳥と戯れる 敦人side

ギャーギャッギャッギャッ!


まるで地獄から来た鳥がここにいる。

九官鳥って、こんなに禍々しい鳥なんだな?


右子はピョンピョン飛び跳ねる怪鳥を慈愛の満ちた笑顔で見つめている。

怪鳥‘’おとうさん‘’は右子の反応を横目でチラチラ確認しつつ、必死に小躍りしている······ように見える。

そう、おそらくは自分が元気であるということを右子に主張しているのだ。怪鳥とはいえ殊勝な心がけだ。



「死にかけていたはずなのに···········」

唖然としてそう俺が言うと。

右子は勝ち誇って両手を腰にやり、ドヤ顔で下から俺を見上げてくる。


「てんごく(天国)にい(逝)くなんて、さっきはよくもいってくれたわね!

あつとのばかまぬけおろかもの!」


右子は楽しそうに、あはははっと俺に笑う。


見た目は天使だけれど、

精神は幼児に成り下がったような振る舞いだ。


そういえば、アインの年齢に干渉する幻術は中身にも作用するのかもしれない。

アインは軽井沢に行った時は16歳になっていたのに、その後学校に戻った頃にはいつもの脳天気な12歳のアインとして過ごしていた。

あの時もアインは自分の中身さえままならない程に幻覚の力を制御できていなかったのかもしれない。


とにかく、早く右子を12歳に戻さないと。

右子はチェアに飴を貰って喜んでいる。

このままだと幼児が板につきすぎて、

羽が生えて頭に輪っかが乗って軽〜く飛んでいってしまいそうな雰囲気だ。


俺は焦ってアインを見ると、

··············アインは倒れていた。


「ア、アイン!?」


何てことだ今度はこっちが泡を吹いて白目を剥いて気を失っているなんて!?


侍従も今頃気がついて駆け寄っている。

この侍従、今までキラキラした幼女右子を眺めたり、美少女チェアと楽しそうに会話したりしてたよな。


アインの侍従がそっとアインの目を閉じて言う。

「残念です·········ああ、私が目を離したばっかりに」


諦めた!?間髪入れず諦めた!?

俺がさっきおとうさんの命を諦めたのよりずっと早い!


「どうせ気を失っているだけだろ?

とりあえず人間は保健室だよな」

そう俺は判断する。人間には保健室があるし、丈夫だから大丈夫だ。


「私が運びます」

「うん、お前が運べ」


侍従はアインを担いだ。

侍従はジフという名だ。俺も偽りでアインの近習をやっているので互いに見知った仲だった。

こいつはいつもアインをぞんざいに扱うが、アインとは乳兄弟らしいから許されているようだ。

後、すごい女好きだ。


そこへ、ジャラリ···········何かが床と擦れ合う音がした。


見ると、太いチェーンのようなものがアインの身体から出ている。


「いつの間に·········?」

さっき右子を追って走っていた時は無かったと思う。

俺はチェーンを引っ張った。



「ふふふっ、おとうさん、まって〜」

すっかり気を良くした右子がおとうさんと追いかけっこして遊んでいる歓声がする。無邪気の極地だ。


チャリチャリチャリチャリ···········ぐんっっ


「へぶちっっ」


ベタンッ

右子が転んだ。


「あいたたた」

右子はしっかり顔面を打ちつけて赤くなっている。

引っ張ったチェーンは··············右子まで続いていた。


右子の足に鉄の輪が嵌めてありそこからチェーンが伸びている。アインの足も同様だ。

アインと右子は太いチェーンでしっかり繋がっていた。


俺たちは顔を見合わせた。


「これも幻覚の力か·······?」

李鳥宮が呆れたように口を開く。


「ア、アイン、·······」

俺はさすがに引いていた。アインの執着心に。

気を失ってから右子と引き離されないように、幻術を使ったというのだろうか?


チャリチャリチャリチャリ··············ぐんっ


「敦人ぉ〜」

右子も自由を制限されて、さすがに眉を寄せて困り顔だった。


「不思議に思っていたんだが、幻覚の力というのは、ここまで物質を生み出したり身体の成長を進めたり戻したりできるものなのか?」


李鳥宮がアインの侍従に聞いた。


「いいえ、基本的には幻術では物質を真実に変えることはできません」


「え?でもこれは·······」

俺はチェーンを持つ。チェーンは確かにあるぞ?

右子も見た目だけじゃなく実際に小さくなっている。アインだってさっき軽々持ち上げていたじゃないか。


「えっと、できないはず、とだけ申し上げます。

幻術は人の思考を騙す力です。もし実体を伴っているとすればそれは厳重に思考を騙し(おお)せているということになります。あくまで理論上はですが」


「じゃあ、なんだ?本当はこのチェーンも無いし、右子も12歳のままだっていうのか?」

そんなバカな?


「幻術だと分かっていても騙されるのは、幻術の力がとても巧みだからです。例えばこのチェーンであれば、視覚的イメージ、触った感触、匂い、物とぶつかった時の音など、細かい情報を相手の思考に直接送って、そこに有るように脳を騙してみせているんです。つまり幻術の正体はその‘’膨大なイメージの情報‘’なのです」


「じゃあ、さっきアインが右子を持ち上げていた時も本当は12歳の重量で重かったってこと?」

俺は信じられない思いで尋ねた。


「はいそうです。ただ、幻術の最中はそれにも気づきません。後々に腕に疲労は感じるかもしれませんが。

普通、術者は自分自身にも幻術をかけます。自分の振る舞いも幻術で上手く相手を騙す要素になりすから」


「大体分かった、が、············分かったところで結局このチェーンは取れないな」

李鳥宮は、忌々しそうにチェーンを掴んだり引っ張ったりしている。


「幻覚と分かっているのに解けないのは、術者がとても強い力を持っているということになります。

アイン王子は以前はここまで強い幻覚の力は使えなかったはずなのですが·········」


「いつの間にか、ってやつか」


「··············」


アインに何が起きたのだろう。

とにかく、目が覚めたらこのやろう覚えておけよ·········


俺も李鳥宮もすやすやのんきに気を失っているアインを、

憎々しげに睨んだ。


「わたし、きょうどこでねるの?」


右子が無邪気に尋ねた。

確かにこれでは自由に生活することもままならない。



「右子様、待っていて下さい。この男の足首を切断する為にチェーンソーを持ってきましょう」

李鳥宮はしゃがむと、右子の頭を優しく撫ぜて言った。


いやいや、

チェーンソーって、まだこの国に無いからな?


読んでいただきありがとうございます!


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