133話目 死にそうなおとうさんと幼女 敦人side
「まさか?··········この子が右子様だと言うのか?」
李鳥宮は驚きを隠せない。
そりゃそうだ。びっくりだよな。
「チェア、この九官鳥どこで見つけた?」
俺は不思議に思って尋ねた。もし、李鳥宮が小石を命中させた九官鳥ならまだ森の中でノビてるはずだ。
「い、いや、この九官鳥はそこの道端で行き倒れてたのよ?もしかしたら右子様の九官鳥かと思って連れて来たの」
「おとうさん、怪我をして、私に助けを求めてこんな所まで来たんですね。だけどきっと途中で力尽きて·······ううっ·····」
「‘’おとうさん‘’·······?なんで········?」
チェアが聞く。ネーミングセンスを問うているのか。
「いつもは父のこと‘’帝‘’って呼んでるけど、······‘’おとうさん‘’って呼んでみたくて」
右子は頬を染めて手をもじもじとさせ恥ずかしげに俯いて答えた。そしていじけるようにこつんと床を蹴る。
幼女の仕草がこんなに完成されているのはどうしてなのか。
そんな健気な幼女右子の発言に、みんな感銘を受けそっと涙を拭うが、チェアだけは、好きな人の名前だと思ったのに期待して損した〜とずっこけている。
ヤバいな、幼女右子。
可愛さが振り切れている。
「右子様。僕がこの鳥を救ったら、お願いを聞いてくれる?」
白髪の男はまた右子をヒョイッと抱き上げ、右子に顔を近づけて話す。
「グスッ·······たすけてくれるの? おねがいって?」
「うん、できるよ。
········君が大人になるまで、大人になってからも、僕とずっと一緒にいてくれるならね?」
それ、プロポーズぅ!?
本当に········どさくさに紛れてこのロリコン男は。
結婚と敢えて言わないのがあざとい。
「右子っ流されるなよ!」
「う、うん」
右子はささっと男から降りて、俺の所へ避難する。
そして白髪の男を指さした。
「アイン王子!そんないいかげんなことを言って!あなたにどうしてこのかわいそうな九官鳥がすくえると言うんですか?」
「ふふふっ僕は動物博士だよ?」
「!?じゃ、じゃあ、ほんとうに·······?」
「バカ!信じるなって!
こいつはちょっと動物に詳しいだけだ。
これは医者じゃないと無理だろ········
················ってアイン王子!?こいつが!?」
「敦人·········うるさいよ·······」
アイン王子かもしれない男は、態度を豹変させ俺の名を呼びながら怒りに滾っている。
異常な力をびしびし感じる。
その勢いで目が光ってるかもしれない。
これって人間じゃない!何か突破してる!
「敦人!アイン王子はみずからの幻覚の力のぼうそうでこうなってしまったの。ちかくにいたわたしもえいきょう(影響)をうけてこのすがたになってしまったみたい。
·········そして、おうじは、なぜか、なかみ(中身)もへんなの!」
右子は子供の舌で呂律が回り難いようだ。
アイン王子らしき男は、もう悪役の顔をしていた。
じりじり俺に近づいて来る。
本当に中身がイカれてるみたいだ。
こんなん、ほんとにアイン!?
「待て」
スラリと、剣を抜く音がする。
李鳥宮だ。
「俺が相手だ。右子様を攫うつもりなら容赦しないぞ」
李鳥宮に遅れを取れない。アインがそのつもりなら俺だって!
「いいや、俺が相手だよな? なあ、·······アイン?」
俺も意を決して小型爆弾を構えた。
「なにこれ、何の修羅場〜〜!?」
チェアの叫ぶ声が聞こえる。
「もうっ!!私はおとうさんをたすけてほしいのに·······あらそっているばあいじゃないです!」
右子がとうとうキレた。
「右子様、だから僕が治してみせるって!」
アインはあっさり正常に戻る。
「右子様、その鳥は私がどうにかしましょう。······代わりの鳥を手配します。迅速に」
李鳥宮、代わりの鳥、それ言っちゃいけないやつかも。右子が、しんじられないおとうさんにかわりはないのに、という顔をしている。
「こんなん天国に逝くまで静かに見守ってあげるしかないだろ······」
俺が当たり前のことを言うと、なぜがみんなしんとなる。
ほら、煩かったよな、かわいそうにおとうさん、安らかに逝きな·······
とか思っていると、急にドンッと尻を押される。
「敦人の、っバカッ·······!!」
「みっ右子!?」
右子は臨終を迎えそうな鳥を小さな両手でかかえ、ぎゅっと抱きしめると走り出した。
「わたしがじゅうい(獣医)さんをさがします·······!」
「まっ待て!そんな姿で外に出てみろ、拐かしに会うぞ!!?右子!!」
「右子様!!」
李鳥宮もさすがに慌てて後を追う。
幼女なのにめちゃめちゃ足が速い右子。
やっぱり今世でも人攫いを躱す不思議な技術を受け継いでいるのを目の当たりにする。
突然、一緒に隣を走っていたアインらしき男がガクンと崩れ落ちた。
「おい!?だ、大丈夫か!?」
ずいぶん派手に転んだな。
敵とはいえ、俺が助け起こそうと足を止めたその時。
「············おとうさん!!!」
右子の驚きに満ちた声が遥か前方で聞こえた。
ギャーギャッギャッギャッ!!
おとうさんが息を吹き返したお知らせだった。
見ると、
おとうさんは元気そうに宙をジャンプしたところだった。
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