129話目 居心地の良い場所を求めて 帝side
なんと帝視点です。
時期は右子が攫われて船旅をしている頃に遡ります。
「帝、これが調査した毒の成分の結果です」
「ふーん、寝ている間にじわじわくるやつか····」
「はい。直ぐに生命の危機はありせんが、手足の末端からゆっくり神経に影響を及ぼして、終いには四肢を動かせず寝たきりになる可能性が高い毒です」
彼は私付きの侍従で、潮といいとても有能な男だ。
私に配属された八咫烏はこの男と、今は徳川公爵に攫われて航海に出ている右子に付けている学しかいない。いつの間にか帝妃に減らされていたようだ。
「怖い」
「今回も、毒を盛られて、夢で返したのですか?」
「そう。私が寝てる隙に部屋の隅でこそこそ香を焚く者がいたから、夢で裏返して無かったことにした。
でもその者の顔は覚えていたからね。すぐに捕まえさせて持ち物を改めさせたらこの毒を持っていたんだ」
「夢にしてしまったら、実行犯として捕まえられませんね········奴は言い逃れしてますよ」
潮は残念そうに言う。
「夢で裏返さないで、毒の香を吸ったほうが良かった?仕方ないよね?」
「いえいえ、帝に何もなく真に上々でございました。しかし、都合の悪い出来事を夢に返せるという帝にお使えしていますと、何やら現実離れした不思議な思いをする事が多いですね」
「普段は使わないようにしてるつもりだけどね」
「···········この前はお嫌いな食事が出たときに夢に返されたと聞きましたよ。相手も夢は見るのでバレバレですよね」
私はプイッと明後日を向いた。
本当にかわいくないですよ、と聞こえた。
「しかし、とうとう帝妃様が尻尾を出されましたね」
「うん、右子がどうかなる度に毒を盛ってくるんだよね。どうしよう········」
「情けないことを言わないで下さい」
「だって帝妃怖いんだもん。プロポーズざれた時も怖かった·········」
「ハイハイ。マゾなんですよね、帝は。
どうしてプロポーズを受けたのかどう怖かったのかは詳しく聞くのは止めておきますね。
しかし、今回ばかりは帝を悦ばせるためにやったわけではなさそうですよ?」
「最優先の右子絡みだよね。なんか壮大な事を思いついちゃったみたいだからね。私は二の次というか、···········酷い女だよね」
最優先と言っても、それは決して右子の為ではなく、右子を‘’姫神‘’として思いのままに操り、理想の国を作る計画を立てていると私は分かっていた。
それがこの国にとって良い事か悪い事かは正直判断に困るところだけれど、右子にとってはたまったものじゃないし、帝である私が邪魔なのだけは真面に本当なようだ。
人は過ぎたるものを手にすると狂うというが、当にそれだ。
「とりあえず、毒にかかったふりをして寝てようかな。今右子が航海から帰ってくる所だから、学が帰ってきたら、二人であーしてこーして、········何とかしてくれる?」
「えっまさか我々に全フリなんですか?
たまにはご自分で解決されないと、帝妃とますますこじれますよ?」
だって、怖いから。
「··········まあ、私は構いませんが。私と学ぶがあーだこーだしてる間はずっと寝ていらっしゃるのですか?どのぐらいかかるか分かりませんよ。この際、御身体も何処かへ隠したいので、途中で飽きた〜って目が覚められて動かれても困ります。事故につながり兼ねません」
「私の身体、どんな危険な所に隠すつもりなの!?生きてるんだから丁寧に扱ってよ!?」
目が覚めてぞんざいに扱われてたら困るのはこっちだ。
「でも、まあそれなら、深い眠りにつくとするか。」
潮は驚愕の表情だ。
いやいや遠回しに死ぬって言ったんじゃなくてね、文字通り‘’深い眠り‘’だ。
私はいわゆる冬眠のような仮死状態に長期間身体を保つことができる。その間は食事も必要ないし、かなり手間がかからないので身体を何処かに隠すというなら丁度いいだろう。
「なるほど、仮死状態ですか、それは便利ですね·······まだ俺の知らない技があったんですね。
でも帝は夢の中は退屈っていつも言ってるじゃないですか。何日もの長期間になると思います。何処かへ行かれますか?
差し障りがなければ行き先を聞いておいていいですか?お迎えにあがる必要があるかもしれないので」
「うん、あんまり他人の夢をフラフラするのもね。マナー違反だよね」
「マナーって夢世界にあるんですか?」
「何となく暗黙のがあるでしょ。
うーん、あそこにしようかな。
·········でも怖いんだよなぁ」
「じゃあ、絶対そこに行くんじゃないですか。帝は怖いことが大好きなんですから」
「変態みたいに言うなあ」
「変態も変態じゃないですか?女運が悪すぎるのも絶対その変態のせいですよ」
「言っていいことと悪いことがあるよ?」
私は断じて怖いのが好きとかマゾなわけではない。
私は右子の夢の中を思い出していた。
普通の人の夢は一つの‘’部屋‘’だ。それに加えて人格が複雑な精神構造の人は二つ部屋があったりすることもある。
簡単に言えば‘’家‘’のようなイメージの構造をしている。それは人それぞれ大きさも形も違っていて、時間が経つにつれ形を変える。
それが普通なのに、
右子の夢は広大なうえにとても複雑で、部屋は其処此処にあるのに本体の家らしき物が何処にあるのか分からない。
だから道に迷いやすい。
永久に戻ってこれない危険さえあると思う。
けれど言い換えれば隠れやすい世界だ。
例え親しい者でも自分のプライベートな夢という場所に何日も居座られたら嫌だろう。きっとノイローゼになってしまう。
けれど、右子の夢の世界なら部屋らしき場所が無限にあるから、本人にさえ気づかれる事なくお互いにプライベートを守りつつ過ごせる事と思う。
ただ、無造作に前世の記憶が転がっていて足の踏みどころがない場所があったり、おかしな人達が過ごしていたりして、なんか危険なエリアも多いんだよな。
すぐに居心地が良い場所が見つかるかは未知数だ。
「·······怖い部屋には入らないようにしなくちゃ」
「怖い部屋、いいじゃないですか。つまり右子様の夢ですね。落ち着いたら迎えに行きますね!」
潮が頷いた。
私は右子の夢の中に居候することにした。
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