12話目 宮内省が仕事していない件 右子side
おかしい。宮内省が仕事をしていない。
私の家庭教師の変更も宮内省ではなく公爵家同士の話し合いだけで決定していたし、妙だなと思っていたのだ。
どうやら宮内省で雇われていた人々が軒並みクビになっているらしい。
そして、よく考えたら身の回りの世話をする侍女たちがいつの間にか全員知らない人だった。
私は前世の記憶があるので、生活のあらゆることを自分でやってしまう癖がついている。
するとやる事を無くした侍女たちが壁際に突っ立ってる。
気まずい。
使えないな〜と思ってると万が一にも誤解されると困るので、問うような視線の侍女とは目を合わさないように心がける。
出来ないフリをして手伝ってもらう方がいいのかもしれないけれど、それはそれでわざとこき使ってるみたいで居心地が悪い。
というわけでどの道、侍女たちとは気まずい運命なのだと諦めている。
私は人にお世話されるのに相応しくない人間だ。
それでも過去には、仲良く会話してくれる侍女も数名はいた。
彼女たちは実は伯爵家や子爵家の貴族の令嬢で、帝宮には行儀見習いや箔付けで出仕しているパターンが多い。侍女として少し働いたら進学や結婚ですぐに実家に帰ってしまう。
というわけで、侍女が入れ替わるのはもはや普通のことで、気にならないようになってしまった。
とはいえ今回のように全員知らない人というのはさすがにあり得ない。
専属の執事についても前はいた気がする。
不思議なほど顔を思い出せない。
正直、いなくなってるのに気づかないくらい執事を使っていなかった。私は能動的ではないし、一週間のルーティンが決まっているから執事を呼びつけて頼みたいことも極端に少ない。
執事は私に小言を言うこともあり、煩く邪険にしていた自覚はあるので、それを苦にして居なくなったのかなと思っていた。
よく考えたら、仕事なのにそんな理由でいなくなるはずがない。
帝宮での仕事は家名をかけたものが多い。帝族の執事という名誉な仕事を個人的な理由で辞するのは珍しいと思う。
いつも通り、自分からアクションを起こす時に感じるがんじがらめ感。
それとも、羽根をもがれている鳥の気分だ。
鳥かごライフを満喫している私なので羽無しでもそんなに気にならないかもしれないけれど、今回は義弟に会う目的があるので、何とかしなければ。
宮内省と連絡を取らなければいけない。
こうなったら伝家の宝刀を使おうと思う。
「ううう、ううううう·······」
「どうされたのですか!?」
侍女が飛んでくる。この娘も知らない顔です。
ちなみに部屋の中には常に数名侍女が待機しているので、最短距離であっという間に飛んでくる。
「か、顔が、ううう」
「おっ、お顔が!?」
寧ろ侍女の顔色の方が悪い。
「痒くて痛くて······包帯を取ってみたいのだけど。」
真っ青になった侍女は私へと差し出したままの両手が震えている。
もちろん彼女に私の顔の処置はできない。
「包帯を取りたいので、医者を呼んできて。」
再び、ううう、と呻いていると、
侍女は逡巡した様子を見せたが、すくに部屋を飛び出して行った。