127話目 俺達は帝を探している(2) 敦人side
「何だこれは········!」
教会の内部へ入ると、そこにはゴロつきのような汚らしい男が多くたむろしていた。
「ほーお、サンタ聖教会の信者は体の鍛錬もしているんだな。大した教えだ」
屈強そうな彼らに睨みつけられながら、
李鳥宮は構わずに泣き叫ぶ神父を引き摺って奥へ入っていく。
「いや宗教的作法に鍛錬は特に無いはずだけど。たぶん、このゴロつきたちは用心棒じゃないかな」
「だろうな」
だけど、なぜただの教会にこんなに多くの用心棒がいるのだろう?帝を守る為?
「神父。この男たちは······」
俺は事情を尋ねる為に神父へと振り返った。
「や、止めて下さい、奥へ行ってはいけない〜〜!」
神父はますます取り乱している。
これは、クロだな。
俺はここに帝がいると確信を強める。
「神父、落ち着いてくれ。俺達はただ探してるだけなんだ。別にお前を罰するつもりはない。こんなやり方だけど·····」
とにかく落ち着かせて、帝のいる場所を聞き出したい。
その為には、まず李鳥宮が神父を引き摺るのを止めさせなくては。
先に奥で、調査を開始していた近衛兵が戻ってきて李鳥宮に耳打ちする。
「なんだと?」
李鳥宮は一気に表情を険しくした。
「ここいらの物騒な奴等は殲滅していい。証拠は残せ。」
「ははっ」
近衛兵達が徐ろに
戦闘モードに切り替わる。
「えええ!?帝は!?」
「帝は、おそらくいない」
「そんな!?」
すぐに俺達も屈強なゴロつき共と戦闘になる。
両脇から近衛兵に拘束された神父が奥へと連れて行かれる。
俺は懐に忍ばせていた短剣で身を守りながら、何が起きているか分からずに戦った。
せっかく常備する自前の火器も、使うタイミングを逃してしまったのは残念だった。
結論を言えば、ここに帝はいなかった。
そして、ここは··········いわゆる『麻薬密売組織』だった。
ゴロつき共を倒して、全ての部屋を改めると麻薬の原料がパンパンに入った木箱が所狭しと積み上げられていた。
どうやら、サンタ聖教会には宣教を隠れ蓑に麻薬を密輸入してニホンで加工し売り捌く犯罪組織が隠れているらしい。
後で権野公爵である父に事情を聞いたところ、我が家との貿易の取引にも彼らが入り込んできて、麻薬を取り扱うように迫り、正規の商売取引の妨害をしてくるので手を焼いていたらしい。
父は『帝が行きそうな所リスト』に、この麻薬密輸組織が根城にしている四谷の教会の名を忍ばせることで俺に摘発させようとしたらしい。
公爵自らよりは息子である俺が偶然他の調査で訪れた時に気づき、犯罪組織を摘発する結果になった体の方が角が立たないと思ったようだ。
まあ、要はただ面倒で俺に全フリしただけだろうと思う。
父は結果を聞いて
「何で近衛師団がそこにいた?」と驚いていた。
今回は帝関連だから同行していたと言うと、
帝が行方不明なのをようやく思い出したようだ。
そもそも何のリストだったかも忘れてそうだ。
本当にこの人帝嫌いなんだな。
権野公爵家邸で父への事情聴取が終わり、俺は別室で李鳥宮にお茶を勧める。
「今回は、父の件に巻き込んですまなかった」
俺は詫びを伝える。
「いや、こちらこそ近衛師団の手柄にして却ってすまなかった」
俺は師団を率いていないから当然だ。
「そういえば、警察隊来なかったな」
街でのいざこざは警察隊の管轄のはずだけど、今回はすべての処理を近衛師団でやっていたように思う。
「帝妃が宗教関連を統括しているから、宗教関連の事件は近衛師団の所轄になった」
「また管轄増えたのか。もう、名称変更した方がいいんじゃないか?」
帝居の外なのに『近衛』師団が活躍するのはおかしい。
「何と?」
「それは、やっぱ、···········『警察』?」
何言ってるんだ、警察隊はもういるじゃないか、
と続くかと思ったが、沈黙が訪れた。
李鳥宮がふっと笑った。
「君は前世、『警察』の動向が最大の関心事だったからね」
「!」
こいつ、今、前世って言った?
「あの時は君が私の『先生』だった。
戦う術を知らない無力な牧師だった私は、
あらゆる危険回避術を君から学んだんだ。
君はまだ未成年だった。
あの時の君は、まさに、軍神の化身だった」
「·········また、すぐ、引くしかない大げさな言い方する·········」
驚いたことに、俺が奴の前世に気づいていたと同様、奴も俺の前世に気づいていた。
「今日は火器を使わなかったんだな。
今世は平和主義のようだな?」
嘲るように言う。
「まさか、朝斗も」
「この世界にいるな。確定ではないが」
いつの間にか前世と似た状況が揃っていく。
「··········早く帝を見つけて差し上げたかったんだが、まだ時間がかかるか」
そう呟く奴の中には、
前世優しげだった牧師の影も形もないというのに。
だけど、きっと行動原理はこれっぽっちも変わっていない。
ただ昔馴染みというだけで、嫌というほど何を考えているか分かってしまう時がある。
やれやれ········
「今、溜め息を?」
李鳥宮は皮肉に笑う。
俺は首を竦めた。
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