123話目 秘密の日曜日 アインside
午前に投稿するつもりが、間に合いませんでした(^_^;)
お金持ちで良かったとつくづく思う。
「アイン王子、チェアさんに挨拶しなくて本当によろしいんですか?」
侍従のジフが躊躇いがちに聞いてくる。
「いいよ。どうせ後で会いに行くから」
天気の良い日曜の午前。
僕は余裕綽々で帝居内を闊歩していた。
今日の朝、急に右子様に会いに帝居へ行きたいな、と思い立ったのだ。
この不便な世界は、今から遊びに行くよ〜ってスマホで連絡ができる訳はない。
それに、普通に迷惑そうに断られたら、ショックで目も当てられない。
というわけで、チェアの客として帝居へ潜入して、偶然を装って右子様と出会すのはどうだろう?
それに、それとは別の目的で、僕は帝居という場所を見て回ってみたかった。折々の挨拶や夜会で帝居に招待される事はあるけれど、大体は自由に動ける範囲が決まっている。それに王子である自分の周りには人が入れ代わり立ち代わりで途切れなく集まってくるから、殆ど会場から出るなんてことはないのだ。
「なぜ今日なのですか?
普通に来週の土日にでも招待受けたい旨をチェアさんなり右子様なりに明日学校でお伝えになり、正式にご招待を受ければいいではないですか?
全く、王子はどうしていつもそう策を弄したがるのですか········」
ジフは呆れている。
というわけで、急遽、現地で門番をお金で懐柔してチェアの侍女を呼び出し、これまたお金で懐柔して帝居内へ正式なチェアの客として手続きをさせて門を開けさせ、帝居へ潜入することに成功した。
その侍女には、午後にチェアを尋ねるからそれまでは自由にすると言い残し、自分の侍従のジフだけ連れて帝居散歩を決め込む。
チェアの侍女の心配そうな顔が印象的だった。
それはそうだろう。自国の王子とはいえ、アポイント無しに主人の客として招き入れてしまったのだ。しかもすぐに主人のチェアの元に案内するつもりが、帝居を自由に歩き回ると言うのだ。もし何かあれば招き入れた自分の咎になるだろう。僕は『稀の力』で姿を消していくから大丈夫だよと告げると幾らかは安心していたようだ。
「チェア様のお家は、やはり資金繰りが苦しいのでしょうか。侍女までお給与が充分には行き届いていないのかもしれません」
侍従のジフが眉を顰めている。こちらから持ちかけたとはいえ、金の力ですんなり協力してくれた事に疑問を持ったようだ。
「だね。兄上も話していたけど、船も人員も旅支度も随分粗末だったらしいしね。同じ留学生のよしみもあるし、王家としてこちらから金銭的な助けをしてあげてね」
「ははっ、分かりました、·······しかし、権野公爵家からの援助はどうなっているのでょうか?将来の嫁君ですよね」
「4月から権野公爵家へ引っ越す手筈になってるらしいから、それからじゃない?
今は帝妃様の客人の手前、援助ですら勝手なことはできないのかもね。まだ正式に権野公爵と挨拶もしていないと敦人は話していたよ」
「·········あの、帝妃様は、我らコーリア国人への風当たりが、強くないですか?」
「················かもね」
僕は軽くせせら笑う。
帝妃様のせいで右子様の婚約候補者の筆頭を外されてしまった上に、強引に李鳥宮を婚約者に内定してしまったらしいと聞けば、一切否定できないな。
でもまあ、結婚なんて先の話だし、帝族や王族の結婚なんて直前まで情勢次第で分からないものだから、まだまだ巻き返す余地はある。
昨日の土曜休みに僕はずっと自分の部屋で考えていた。
一昨日のお昼休憩には麻亜沙さんがずっと僕の近くにいて、学長室からお昼を終えて戻って来た右子様は、僕と麻亜沙さんを見たと思ったら、
麻亜沙さん見つかって良かったねー、といわんばかりの慈愛の微笑みを浮かべていたので、僕はしっかり傷ついた。
右子様は、一昨日の放課後に開催された中学年説明会に来なかった。
もしかしたら中学年に進学しないのだろうか?
国で最も高貴な帝女が学歴をつけないなんてコーリア国の王族の僕には信じられない。
そういえば、敦人も進学しないと言っていた。この国の学歴に対する価値観はどうなってるんだろう?
チェアも心配して聞いてみると言っていたけれど、考えれば考えるほど心配になってきてしまって、僕は居ても立っても居られなかった。
だって、このまま右子様が卒業してしまい帝居に籠もってしまったら接点が一切無くなってしまう。もう婚約候補者筆頭でもないし、最悪の場合、次に会うのは李鳥宮との婚約式の招待客·········なんてことになるんじゃないの!?
············気がついたら帝居に潜入する準備を始めていた。
敦人も行きがけに公爵家に寄って誘ったけど、家の仕事が立て込んでるので無理だと断られた上に「止めとけ」と諭された。
帝居はやっぱり広い。
ジフと適当に歩いていると、向こうの方にぼんやり不思議な屋敷が見える。
他は洋館と洋風庭園なのに、そこだけがニホン風建築で違和感がある。
その立派なニホン風のお屋敷は大きな庭園も備わっており辺り一面に静謐を湛えている。
「なんでしょう?ここは··········?
アイン王子!?ここから先はお止めください。
潜入と言っても、帝居の庭園を散策するだけで建物へは入らないと仰っていましたのに」
屋敷に異様な雰囲気を感じたのか、ジフが止める。
「せっかくだから入ってみようよ。姿を消しているから大丈夫だって。僕から離れないでね」
そうそう、こういう所に来たかったんだよね今日は。
僕は『稀の力』でジフと二人分の姿を隠したまま、見つからないように気配を殺してその敷地へ向かった。
シュッシュッシュッシュッシュッシュッ
辺りを伺いつつ、そのニホン風建築に入ると、怪しい音が総板張りの屋敷内に響き渡っている。
向こうの廊下から白い装束の侍女らしき7•8人の一団が近づいてくる。さすがに狭くてすれ違えないと、避けて、誰もいない空き部屋のような所へ二人共滑り込む。
「おお、天女のようだ·····」
襖の隙間から覗きつつ、容姿に煩いコーリア国人らしく通り過ぎて行く侍女達の美しさを溜息と共に声に出して褒め称えずにはいられないジフだった。
僕の幻術の力は声や音は消せないので自重しろと頭を小突く。
滑り込んだ部屋は薄暗いけれど、目を凝らせばそこにあるのは大量の木片が所狭しと積み上げられていた。ここは何かの材料の倉庫のようだ。
膨大な木片に何だか気圧されて急いで廊下へ戻る。
今の時代には珍しいニホン風建築に惹かれて入ったけれど、ここは誰かが住んだり生活するのとは違う、何か特別な目的で作られた屋敷のようだった。
暫く歩いていると、向こうからこれまた白装束の侍女が一人通り過ぎて行く。またまた凛とした面持ちが美しい。
「···········あれ、麻亜沙さん、ですよね?」
ジフが聞いてくる。
確かに、麻亜沙さんだと思う。
彼女は和装だったからか、これまでとは全く違う様相だった。中性的というかどこか近寄り難い神々しさを纏っている。
学校で先日ひどく僕を困らせてくれた麻亜沙さんの特徴は、女性らしい艷やかさと気怠そうな雰囲気を漂わせているのに、あれは本来の彼女の姿ではなかったのかもしれない。
僕は、なんとなく麻亜沙さんと右子様の関係を思い浮かべる。B組の時から二人の間には何となく何かがあった。
僕はここに右子様もいるのだろうと確信し始めていた。
シュッシュッシュッシュッシュッシュッ
先ほどからずっと続いていたこの音が強くなってくる。
部屋が近づいて来たようだ。
恐らく·······木を削る音ではないかと思う。
なぜ、こんなにチリ一つ落ちていない清潔感のある屋敷の中でこんな木工工房のような音がするんだろう?
とうとう辿り着いた。
僕とジフは顔を見合わせた。
そして、
その音が漏れ出てくる部屋のふすまの隙間から
··············中を覗いてみた。
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