122話目 カラスのライトは量生産 右子side
シュシュシュシュシュシュ·····
今日は日曜日。
学校は休日で、私はとある和室に籠もって朝からひたすら木片を削っていた。
近衛騎士が8名、和室の隅に分かれて正座して見守っている。苦行は続く······
シュシュシュシュシュシュ
戸口に近い近衛騎士が来客を告げる。
「右子様」
「なに?チェアさん?」
日曜日の訪問者はチェアさんだった。
彼女は帝居に住んでいるので気軽に遊びに来てくれるようになっていた。
私は手が離せなくて、近衛騎士の槙田くんが座布団を用意してくれたので、座ってもらった。
私の周りには所狭しと木片か積み上げられている。
私はそれを形のある木像へとみるみる早変わりさせていく。
「··········!トリ!」
「八咫烏だよ。足が3本あるんだって、可愛い?」
「うん!かわいいわ!カラスなのね。
···········って何作ってるのよ!?せっかくのお休みに!」
「帝妃(母)様が、作れって」
「もしかして、ここにある木片を全部?」
チェアさんは驚愕の表情だ。
「うん、今日中に。ノルマがあるんだ。これが終わらないと遊びに行けないよ?」
「や、今日は遊びに誘いに来たんじゃないのよ。ちょっと聞きたいことがあって」
「えっ······そうなんだ」
私がやや残念そうに言うと、
「それ、終わったら遊びに行こうか?」
と言ってくれる。チェアさんはノリがいい。
「で、話って?」
「一昨日の中学年説明会来てなかったじゃない。帰りの車でも話したけど、やっぱりおかしいわよ。右子様帝女なんだからちゃんと勉強した方がいいわよ?」
「帝妃(母)様が、行く必要ないって」
学力的には中学年は前世の小学校程度の内容なので間に合っている。
「········ダメよ!あなたってお母様のいいなりじゃないの。
中学年くらい卒業してないと将来苦労するわよ」
「え、そうかな?」
「うん。婚約者を探す時に『釣書き』ってのがあるでしょ?そこに学歴と資格と書く欄があるのよ。他にも趣味とか、賞与の経験があればそういうのも書けるの。
···········あなた、このままだと釣書に帝国校初学年卒業しか書けないわよ!?後は真っ白!!」
「!」
私は衝撃を受けた。
『釣書き』って前世でも聞いたことがあるような。どうやら履歴書のようなものらしい。
初学年卒業だけ書き込まれ、他は真っ白な履歴書を想像して私は身震いした。
それは、まるで中身もカラッポな私を表しているかの様だ。
今やっているこの彫刻は仕事だから趣味じゃないし、得意のクッキー作りはアイシングクッキーの成形なんて菓子職人並みのレベルだと自負しているけれど履歴書に書くような事ではない·········
私って何か取り柄あるのかな。
言いようもない焦燥感がつのる。
「釣書はある程度埋めていかないと。帝女だからって真っ白じゃあ恥ずかしいわよ?」
「だね、···········帝妃(母)様と話してみる」
私は思わず溜め息をついてしまう。
今世では皆が勝手に私の行末を決めてくれているので、履歴書みたいなものがあるなんて知らなかった。
前世では学歴とか経歴が就職でものを言う社会だったので、その釣り書きとやらの重要性は充分に理解できた。
チェアさんは神妙に頷いた。
「じゃあ、それ早く片付けてよ。遊びに行こうよ」
「すぐには無理だよ。夕方ぐらいにはなると思う」
「まだ朝よ!?なんなのノルマって。右子様、王妃様に働かされてるんじゃない!?
それどうするの? 売るの?」
「いや、神社仏閣に安置するって言ってたよ」
「安置ぃ!? 仏像なの、それは!?」
「八咫烏派の神社仏閣として認められた証にこれを安置すれば、国のお墨付きを貰えて色々優遇されるんだって」
「八咫烏派········? そのカラスの置物が証?
そんな簡単にみんな宗旨替えなんてするの?例え優遇されるにしても」
「八咫烏派って、経典は何でもいいんだって。宗派にこだわらず国の基準を満たした八百万の宗教が八咫烏派の認証マークを掲げることで、規格内の宗教と他とを区別するの。JASマークみたいな感じかな」
「JASマークって何よ。その八咫烏マークが何の意味があるの?」
「国は認証の名の下に有象無象の宗教を規定通りに運営されてるかチェックして管理下におけるし、宗教側は国の補助金と様々な優遇措置が得られて、安心安全の国のお墨付きの元に信者の増加が見込めるメリットがあるみたい」
「··········意義があるじゃない」
「うん」
「でも、これは大変よね。誰かに作らせれば?」
「これ私じゃないとご利益がないって」
「はあ? 可愛いけど、しょせんカラスでしょ3本足の。その辺の職人なら簡単に作れるわよ。ご利益なんて見えないんだし」
私は木像の八咫烏の目を光らせた。
「わわわっ!?」
「この木像の目に小さなライトを内蔵してるのよ。私の『病の力』で近くの電気回路から電源を拝借してランダムなタイミングで光る仕組みなの。だから私しか作れなくて。
コードレスだから電気を引き込んでいる家の中ならどこに移動しても使えるよ」
「···········これ、私にも頂戴!!
夜、寝る時に暗くて怖かったの。電気つけちゃうと明る過ぎて寝れないし」
「なるほど、ちょうどいいねコレ。じゃあスイッチもつけてあげるよ」
私はすぐにスイッチをつけてどうぞと渡した。
「ありがとう!さすが器用ね!また夕方来るわ~♪」
チェアさんは機嫌良く去って行った。
私は手を降って、近衛騎士がふすまを閉めた。
パタン
槙田くんと目が合った。
「さて、··············」
苦行はつづく。
読んでいただきありがとうございます!
Twitterへのリンクを貼っています。
小説のイラストもありますのでよかったらお越しください♪(イラストは活動報告欄の過去ログでもご覧いただけます)
⬇⬇⬇ずずいっとスクロールしていただき広告の下です。