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120話目 俺は君のイエスマン 敦人side

放課後になり、寮へ戻ろうと昇降口で靴を履き替え外へ出る。内庭の体育館の渡り廊下周辺に差し掛かると、

そこへ怪しい女が待ち伏せしていて、そーっと手招きしてくる。


「敦人············いい?」


「うん、いいけど何?」


右子だった。

何だろう?すごくヨレヨレしているような。

俺は体育館裏へひっぱり込まれる。



ここは一日中日が当たらない薄暗い場所で地面がしけっている。靴裏にじっとり土がついてくる感覚がある。

校舎に戻って控室を借りようかと聞くと、右子は首を振る。


「そこだと見つかっちゃう·······」


「え?そういえば、見張りは?」


いつも付き従っている近衛騎士がいない。

いや、見張りじゃなくて護衛な。

似たようなもんだけどな。


「まいてきた·········」

「うそ」


俺は驚いた。近衛騎士だぞ?しかも8人もいる。


「私、目眩まし使えるし」


そうだった。俺は前世を思い出して納得する。あの手この手で見張りや追っ手を躱すのは彼女の18番(おはこ)だった。


今日はアインは中学年入学の説明会へ行っているので俺は一人だ。チェアも同じくで、殆どの6年生が中学年へこのまま入学する予定なので出席しているだろう。

俺の正体である敦人は虚弱体質で初学年に通っていないことになっているので、このまま中学年も行かなくていいと思っている。中学年は前世で学んだ以上の勉強内容はやらないから行くのが面倒だ。来年は公爵家の仕事も増えるだろうしな。

右子もここにいるということは同じく中学年に行かないつもりかもしれない。


「で?どんな困り事?」


前世でも、抱えている問題がどうしようもなくなると決まって姉さんは俺に相談しに来た。俺としてはどうしようもなくなる前に来て欲しいけど、来てくれただけで嬉しかった。


「わっわたし、かっかみさっまになっちゃったかもしれない········!」


「かっかみさっま?って何?」


俺が聞き返すと


「ええっ!?神様って、知らない?」


「ああ、その神様ね。発音っていうか、イントネーションが違ったぞ。噛んだだろ?」


「そんなことないっ。敦人が神様なんてものに縁が無さすぎて思いつかなかっただけでしょっ」


人を悪の権化みたいに言う。

我が権野公爵家では、毎週日曜には家族揃って公爵家敷地内で催されるサンタ聖教会のミサに参加することを義務づけられている。 本当に押し付けがましい宗教だ。

つまり神には日頃嫌というほど縁があるのだ。


右子はここ最近に起きたことを話してくれた。

それは到底聞くに堪えない話だった。


「何だそれ·······帝妃(母)ヤバいな」


「う、うん」


「李鳥宮もそんなんなんだ?頭が沸いちゃったか?

でも洗脳されるって、あいつに限ってないと思うぞ?」


でもキザな奴だから、神だの女神だの大袈裟な言い方は平気でしそうだよな。


「私、帝妃(母)様はともかく、奏史様にも神だって言われてびっくりしちゃって。それに帝が·········」


右子は言い淀んでいる。


「···········右子ってお父さん似?お母さん似?」


右子はぴくんっと震えた。

やっぱりな。自分が帝の子か気になってるんだ。


「··········どっちにも、似てないかも。お父さんには全然似てない」


「心配するなよ。右子は『超常の病』なんだから、ちゃんと帝の子だろ。大丈夫だよ。帝妃の妄言に惑わされるなよ」


「う、うん、そうだよね。」


右子は、ちょっと笑ったが、まだ元気がない。

右子の『病の力』は、最初は帝族に定番の、光を発する力だけだったはずなのに、今は光から電気に発展して電気の流れを自由に操れるようになった。工夫次第で様々な用途に使える有益な力だ。

それは電気という新しい力を光の力の保持者がこれまで気づかず本来の力を発揮できなかっただけだと俺は推測する。

右子が帝族の血を引いていないはずがない。


だけど俺は、前世の、町はずれの雪の降る教会の光景。

たった一人で歩いてきた姉さんを思い出していた。


今世でもあんな風にやって来たとしたら?


「姉さんってやっぱり不思議だよね·········

大丈夫、家族なら前世から俺がずっと近くにいる」


「·········! うんっ」


右子は、今度こそしっかり笑った。

まるでそう言われるのを待っていたようだ。


こんな事なら幾らでも言ってやれるけど、

右子があまりにも嬉しそうだから俺も言ってもらうことにする。

「俺にも、いい?」


「敦人は私の家族だよ!」


即答だった。

「·······················ありがと」


「あれ!?全然嬉しそうじゃない!

言って損した!」


「うーん、ごめん、なんか、おしいって感じ·······?

まあ嬉しいけど。

っていうか、権野公爵家の面々思い出しちゃって嫌な感じになっちゃって」


「何それ、私にも今の家族にも失礼········」


笑うしかない。そういえば俺って家族のイメージ悪いんだよな。前世が最悪だったから今世は大分マシなんだけどな。


「そうだ!権野公爵(おじさん)って帝の弟だよね?」

「そりゃそうだ。弟だね」

「他に帝の弟っていないよね?庶子でも」

「聞いたことないな。いないと思うけど」


「だよね。たまに帝妃(母)様の話に出てくるのよ。しかも因縁がたっぷりありそうで、でも地雷っぽくて聞けなくて。昔、帝と権野公爵(おじさん)って何かあったのかな?知らない?」


「·········留美子姉上に聞いた話だと、女を取り合ったってのがあるけど。帝がまだ帝太子だった頃、王女がこの国にやって来て、帝太子か弟の帝子とどちらと結婚するか揉めた事があったらしい。相手はコーリア国の王女だって言ってた」


「そ·········それだーーー!」


「当然ながら帝を選んで結婚したらしいんだけど、結局は上手くいかなくてすぐに二人は離婚して王女はコーリア国に戻ったんだって。

コーリア国王室は男系で王女が生まれるのは珍しいらしい、宝物のように大事にされていた王女だったから、結婚自体も無かったことにされたらしい。後始末がめちゃくちゃ大変だったらしいぞ·······」


「えええ、二人の間に一体何が······

権野公爵(おじさん)は王女が好きだったのかしら?」


こういう話が好きな右子らしく、目が爛々と輝いている。

そんなに面白いか?


「ああ、帝と結婚してもずっと横恋慕していたらしい。だから、結果王女を不幸にした帝を今でも憎んでいるとか留美子姉上は言ってたよ」


「はあ······謎が解けちゃったわ·····

ドラマね〜」


横恋慕がドラマねぇ。俺は父の情けない一面がちょっと辛いんだが。


「留美子姉上情報だぞ?かなり脚色してあるかも」


「いやいやいや、してあっても敦人が全部削ぎ落としてるから!今の説明めちゃめちゃ簡潔だったから!」


もっと面白おかしく話してやれば良かったかもしれないが、この話はこれで全てだろう。


「これが帝妃(母)様の言う、帝と弟がコーリア国に(おもね)(へつら)っている原因なのかしら·····」


「おお······」


帝と帝弟がコーリア国に(おもね)(へつら)っているって?

俺は帝妃様の過激な発言に目を丸くした。


「うーん、暴走してる帝妃を何とかしないとな。

俺は何をしたらいい?」


「私はまず帝を見つけなきゃいけないと思う

········協力してくれる?」


「もちろん。誰に言ってるんだ」


右子はまた満面の笑みだ。


俺が右子の望むことしか言わない事、

もう分かってるよな。


読んでいただきありがとうございます!


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