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119話目 私だけの新しい神 奏史side

右子様はお元気が無い様子だったが大丈夫だろうか。

やはり帝のご消息が気になっているのだな·········


私は溜め息をついた。

先ほど右子様との昼食を終えて、今は学校関連の書類を片付けている。


しかし、王妃様の言う『姫神様を中心とした新しい宗教の立ち上げ』には··············かなり思う所がある。


右子様を慕う輩が増えるのは望むところではないし、敵対勢力が増えるだろう。

今の帝女だけで充分荷が重いのになぜわざわざ一宗教の神へ仕立て上げようというのか。


王妃は帝の後妻だというが、どんな出自かと疑い調べたがなかなか尻尾を出さなかった。

しかし、どうやら八咫烏(やたがらす)の前頭領だったという線が濃厚だ。

八咫烏は謎に包まれた集団だが、帝族には一族郎党、血の盟約を交わし忠義を誓っているはずなのだが、あの体たらくはどうしたことか·········


最近、徳川公爵の誘拐事件の責任を負った警察隊を帝国学校から排除することに成功した。

帝居はとうに排除が完了している。

おまけに、有望株と噂されていた金原公爵家次男も責任を取って次期公爵候補から外れたようだ。あそこは長男も能力を発揮できず候補を外されていたから、残りは無能の三男と四男しかいない。せっかく男ばかりいるというのに、意味がなく気の毒なことだ。

我々近衛師団の足を引っ張るばかりだった警察隊なので、正直には清々する。

これで近衛師団の所轄が広がったわけだ。


次は八咫烏の排除に取り組むのもいいかもしれないな。


王妃の途方もない野望に最後まで供をする必要はない。

私の野望は途中下車で済みそうだから楽なものだ。


私の目的は、

右子様を守る事だけだと昔から決まっている。




この世界には神がいないが、()()がいる


それが、前世の夢から目が覚めて、最初に思ったことだ。


私が前世を思い出したのはついこの間。

軽井沢で、右子様を李鳥公爵家の車に乗せて別荘へ向かっていた最中に私は睡眠薬を嗅がされ意識不明になった。

それから目を覚ますまで数日間、ずっと前世の記憶のような夢を見ていた。



私は前世は神に仕える牧師だった。


この世界にも幾つか宗教はあるが、神がいない。


神のいない世界に生まれ落ちてしまったのは、

自分の罪深さからか。

前世で坂道を転げ落ちるように正義の道を踏み外していったせいかもしれない。



私はあの時、彼女を守る為には何でもやっていた。

『右月ちゃん』は目を離すと攫われる少女だった。

前世の右子様だ。


私は起きるであろう犯罪を未然に防ぐため色々裏で手を回した。

それは牧師のやる行為とはかけ離れていた。


右月ちゃんの高校へは毎日車で送り迎えした。

義理の息子の朝斗には、他人なんだからそこまですると捕まるぞ止めろと言われるが、そんなことを言えばお前こそ捕まるのでは?と言っておいた。

朝斗は付き纏いの罪だ。


見る者には父親が送り迎えをしているごとく普通の光景なので無問題だ。

実際に登下校は毎日のルーティンなので計画的な犯行に狙われやすいという。


彼女を付け狙う犯罪組織の正体はなかなか掴めず、次第に疑惑の対象は彼女に恋慕を抱く者全てに移っていった。

今思えばだが、排除した大部分は平凡で平和的な輩だったのかもしれない。


だけど、右月ちゃんの弟の敦忠君が言うには彼らにも問題があるらしい。彼らを一人でも見逃せば、それを隠れ蓑にする真実の人攫いも見逃す結果になると。


「もう······、一網打尽にしないといけない段階に来てるんだ」


敦忠君の話を聞けば、事態は思った以上に深刻だった。

最近、攫われかけた時があったらしい。

右月ちゃんは私達に迷惑をかけているのを苦にして、真実の人攫いと交渉をしかけていたのだという。


「こ、交渉?内容は?」


「姉さんが言ったのはこうだ········

『自分をどこに連れて行こうとしているのか?

何をやらせるつもりなのか?

自分に利点はあるのか?

条件の交渉はできるのか?

私が大人しい方が有益ですよ、交渉しませんか?』

···········だってさ」


右月ちゃんはとんだ世間知らずだった。

人攫いとまともに交渉できるとでも?

力ずくや薬づけで大人しくさせられたらおしまいだ!


「ば、ばかな·······」


右月ちゃんも疲れているのだろう。

確かに最終フェーズだと、私達は理解した。

私達は仕方なく、少々強引に彼女を守ることにした。

彼女の学校で、バイト先で、よく通う図書館や買い物先ですら、疑わしき輩は後を立たない。弱味をにぎったり、敦忠君から借り受けた凶器で脅したりと私は敦忠君のアドバイスを受けて暗躍した。


結局、未然に防ぐというのは、こちらが先に犯罪紛いの事をするということだった。


その涙ぐましい努力の全ては、何か見返りを求めてのことではない。

ただ彼女にここに居てほしいだけというのだから

我ながら健気ではないか。


それは、今世で彼女と出会ってから、記憶を取り戻す前でさえ変わらなかった願いだ。


これが、信仰でないなら何だというのか。

いつの間にか私だけの新しい神が誕生していたのだ。


右子様が真実に神であっても、

私はもう牧師ではないので宣教したりはしない。


神を独占したいと願う

哀れな羊でいいと思った。

読んでいただきありがとうございます!


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