116話目 卒業とは新しいスタートでもある 右子side
「なっ!?何よその包帯顔は!?」
学校に行く時間になって、玄関エントランスで待ち合わせたチェアさんが私の顔を見て驚愕している。私は掻い摘んで事の顛末を話した。
もう交代劇は終わったけれど、あのクラスで包帯を取り去るのには精神的に抵抗があるし、ミーシャは眼鏡をしていただけだし、B組の人に見つかったら同一人物とバレてしまうかもしれない。
「きゃ、あああ!!??」
私は突然、チェアさんに包帯の端しを引っ張られて、くるくる回る。
時代劇の あれ〜、ご無体な〜ってやつをやる。
包帯を完璧に取り去って、チェアさんは包帯をポイっと放り投げた。
「あんたバカ?こんな物巻いてんじゃないわよ!
その美貌をわざわざ隠すなんて!?
私も今まで自分の美貌を活かしきれてなくてバカだったけどさ、あんたも大概よ。
とにかく、どんな事情があろうと能力を隠して無駄遣いするのは許せないわっ!」
「チェアさん·······」
持論は全く分からないけれど、何となく私のことを考えてやってくれたのを感じて、温かいものが込み上げてきた。
「それにしても、ずるいずるい、婚約者ずるい·······!」
でもすぐ、チェアさんは私利私欲まみれの独り言を言い出したので私の心はすぐ冷めた。
チェアさんは中学年から入学の予定だけど、お試しで卒業まであと僅かの6年生に受講生として通うことになった。
権野公爵の要望ではあるらしいけど、チェアさんは表向きには帝妃の招致でニホン国に来た。私とアイン王子との婚約を避ける為には別の政略結婚が必要という意見に帝妃(母)様も賛同したらしい。
ただ、寮は今年度の用意がないので、暫くは帝妃の客人扱いで帝居に住んで私と一緒に車で通うことになる。
護衛としての奏史様も一緒だ。
「あのう、奏史様は帝国学校の学長って本当ですか〜?でも近衛師団長というのは?」
チェアさんはすっかり奏史様ファンになっちゃっていた。ずっと質問攻めは勘弁してあげてよ。
奏史様にチェアさんと一緒の車に乗せられてしまったのでずっと煩さかった。
昨日みたいに車を分けて欲しかったな。
私達を一纏めにして引率の手間を省こうという思惑が透けてみえるようだ。
「ええ、まだ新米ですけどね。帝国学校の初学年•中学年•高学年の3つの学校を統括しています。
近衛師団長とは兼任なんですよ。学校で見かけたら学長と呼んでくださいね」
奏史様はにこやかに受け答えして、流石に女性に慣れたものだと感心する。帝妃(母)様も奏史様がいるとテンション高いし、あらゆる女性を惹きつけてしまう奏史様は天性のタラシ、いやいや紳士だ。
私はもはや神々しい奏史様に、心のなかで手を合わせて拝んでしまう。
今日もお会いできて光栄です·····!
前世では、推しキャラをこうやってありがたがったものだけど、こういうクセってなかなか抜けないものね。
ところで、帝妃のクーデターはどうやって食い止めようか。
とにかく帝を探さないといけない。私は本当は学校に行ってる場合ではないかもしれない。
けれど学長である奏史様の目を掻い潜るのは至難の技だ。奏史様は帝妃(母)様に立場上逆らえないとは思うけど、事情を話して協力してもらうしかないと思う。
「奏史様、ちょっとお話があるんですが、できれば二人で········」
私はチェアさんに聞かれないようにこそっと耳打ちする。聞こえたら大変だ。
「分かりました。お昼を用意させますから一緒にいただきましょう。お昼に学長室へ来て貰えますか?」
私は頷いた。お昼代が浮いてラッキーだ。
「右子様!あれから大丈夫だった!?
あれ、チェアも学校に来たんだ」
教室に入ると、アイン王子が駆け寄ってきた。敦人は教室の自分の席についている。
「うん、なんか大変だったよ·······」
「もうこれからずっと帝居なの?」
「うん、寮は退去させられた。帝妃(母)様が帝居から通えって」
「そっかあ、何か右子様のお母様って今まで聞いたことがなかったから新鮮だな。どんな人?」
「どんな··········」
母というより教祖?
実は私もよく分からないので沈黙が訪れてしまう。私はチェアさんを見る。
「キッ、キレイなお方よね」
そう言うチェアさんも、昨日挨拶する時に娘を姫神様呼ばわりする帝妃(母)にドン引きしていた。
「敦人、体調大丈夫?」
私は敦人に駆け寄った。
「何で? 別にいつも通りだよ」
「だって、ずっと働き詰めだったじゃない」
こんなやり取りをしていると、クラスメイト達が私達を凝視しているのに気づく。
めちゃめちゃ注目を浴びてるんですけど·······
「右子様、ここでは『シウ』呼びなんだよ。さすがに同じクラスで名前戻すわけにはいかないからさ」
アイン王子がこそっと教えてくれる。
そっか、私は右子に戻ったけど、敦人はまだ変装中ってわけね。
「やだ、知らなくて注目浴びちゃった。私シウに馴れ馴れしかったかも」
アイン王子の随身に随分親しげな口をきいてしまった。
シウ呼び、なんかドキドキするわね。
「いいや、お前らの仲直りが想定以上過ぎて目立ってるんだろ。ちょっとは演技しろよ、天と地ほどの差でいきなり仲良くなり過ぎだ········」
え、今ので?
本当にどんなにどん底な関係だったのだろう。
「よかった。これなら周りにも婚約候補者だって思ってもらえそうだね?」
「アイン王子········」
筆頭じゃなくなったとは言いにくいほど、アイン王子が嬉しそうに笑ったのに私は驚いてしまう。
後で麻亜沙さんが見つかった話もしないとね。
「改めてよろしくね、右子様」
そう言ってアイン王子は笑った。
わっ!!
周囲はいつの間にか拍手で包まれた。
見るとクラスメイトが感極まる面持ちで拍手をしてくれている。
これは、いつかの続きか。
えええっ!?
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