114話目 どこ吹く風は帝都に吹き荒ぶ 右子side
東京湾へ入港して停泊してから、私達のお迎えの到着を待つ為に船内にもう一泊した。
次の日の朝に外を見ると、お迎えの車が船着き場近くの駐車場へズラリと並んでいた。
権野公爵家の車はナムグン•チェアさんを連れて行こうとしていたけれど、宮内省が、彼女は要人なのでこちらの管轄だと主張する。
どうやら、彼女は親善大使として帝妃に招致された形でニホン国へ入国したので要人待遇らしい。入国や中等学校や寮への入学手続き諸々など済ませないと彼女は自由に行動出来ないらしい。
敦人は権野公爵家の家令と宮内省のやり取りを冷静に見守っていたが、決着すると私達に挨拶をして、あっさり船に戻ってしまった。航海士達と話したり船の引き渡しに忙しそうだ。
私も宮内省の車に乗ることを役人に告げられる。
「右子様、帝居に帰られるのですか?阿良々木家ではないのですか?」
「さあ······?」
アイン王子と話していると、近衛兵ががずらりと並んだ。
「え?なぜこんなに近衛兵が·········」
帝の護衛かと思うほどあまりに兵が多いので、帝が迎えに来たのかと一瞬疑ってしまうが、まあそんなはずは無かった。
それより驚いたのは、
「あ、奏史様?」
「お迎えに上がりました。右子様」
奏史様は慇懃に礼をとった。
まさか近衛師団長が直々お迎えに来るとは思わなかった。
豪華すぎるお迎えに私は目を白黒させたけれど、チェアさんという要人もいるしこれが普通なのかもしれないと気づく。
奏史様は相変わらず美しい青年だった。
いつも通り私はうっとり見上げていると、隣で同じような気配を感じる。見ると、ナムグン•チェアさんだ。
奏史様からは、成熟した青年特有のあまりに圧倒的なフェロモンが漏れ出ているので女性であれば皆魅力されるのは仕方がないと思う。
奏史様は他の近衛兵と話している。車の配車と護衛の割り振りについてでも確認しているのだろう。
それから、チェアさんが息を呑んで奏史様の行動を目で追っているのを私も目で追っていると、奏史様は私達に近づいて来て車への乗車を促される。
いわれるまま二人で乗り込もうとすると、奏史様がプッと苦しそうに笑いを噛み殺している。
「「!!?」」
「貴女方お二人は別のご乗車ですよ。ははっ双子のように揃って行動されるので可笑しくて······失礼しました。」
チェアさんは笑った奏史様を見て口をポカンと開けて唖然としている。そんなチェアさんを見て唖然とする私。確かに今、双子のような表情をしているかもしれない。
「ずいぶん仲良くなられたのですね。安心しました」
「!はい!とっても仲良くなりました!」
チェアさんは両手に拳を作って同意している。
どこが仲良いのよ···········私は小姑だという事実は奏史様に伝えられずも、顔が真っ赤のチェアさんを引き続き呆れて見つめる。
これからは、チェアさんが敦人以外の人に靡かないように見張らないといけないのかと思うと、
小姑とは本当に大変だ。
ちょっと意見したいので、いっその事本当に同乗しようかとタイミングを伺っていると奏史様に止められる。
「右子様には帝居に到着するまでにお話がありますので、こちらへ」
と後続車への乗車を促されてしまう。
「ちょっと待ってください。近衛師団長とはいえ、公爵令息と帝女との同乗を見過ごす訳にはいきません。加えて貴方には事故の前例があります。右子様は我が家の手配した車で帝居までお送りしたい」
アイン王子が帝女の乗車に異論を唱える。
事故って軽井沢でのホワイトアウトだろうか。確かにあの時は死を意識した大変な一件だ。
でも東京湾から帝居までは直ぐの距離なので心配しないで欲しい。
そしてこんなことでわざわざ睨み合わないで欲しい。
「もうこの御方は立場が違いますので、近衛師団長がお側につくのは当然なのです。」
「!」
アイン王子は眼光を鋭くする。
「立場が違うというのは、もう身代わりもいないし私は帝女に戻らなくてはいけないということですか?
それでも師団長がつくのは通常ではないのでは?」
覚悟していた平民終了のお知らせだ。
でもいままで帝女をやっていて、近衛師団長が護衛についたことは無かったわよね。
「発表は今春になりますが、宮内省で右子様を帝太女に立てることが決定しました。暫く立場が安定するまでは近衛師団長である私がお側につきます」
「へえ···········なるほど?」
アイン王子の目が据わっている。
へ、ウソ!?
あ、ありえない!
「や、やだ···········!」
「さあ、右子様どうぞ」
丁寧に車に乗せられてしまう。
まるでドナドナだ。
私にとんでもない鉢が回ってきてしまった。
これは本当は帝子である保くんと、一旦は養子で帝子になった敦人、彼らが自分勝手に振る舞った結果だ。
こうなる予想はついたはずなのにどうしても理解できない程、私は帝太子、もとい帝太女にはほど遠い下賤の精神の人間なのだ。
「や、やっぱり、私は阿良々木家へ········」
隣に乗り込んで来た奏史様に涙目で縋る。
「大丈夫ですよ。きっとそう仰ると思いまして、帝居内に以前お住まいでした阿良々木家別邸を移設中です。
完成したらそちらへ住まわれるのがよろしいかと」
「〜〜〜!?!?」
「帝太女となりますと、下りる予算額も破格に増えますので、費用についてもご安心下さい」
さすがに奏史様は庶民派である私の思考回路を読んでくれたらしく費用について説明してくれるのだが、
私の心中についてはどこ吹く風で、
どこまでも察してくれないのだった。
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