112話目 消し炭少女のヴァカンス チェアside
「ナムグン•チェア様········!」
突然食堂へ人が飛び込んできた。
見ると、例の帝女様と目が合う。
この人は綺麗すぎて、光だの香りだの、キラキラふわふわが過多過ぎて溢れて漏れてるんですけど。
直視出来ないので私は目を逸らす。
逸らすと、めちゃめちゃ回り込んで覗き込んでくる。
「·········あの、帝女様、お茶をいただきませんか?」
私はニヘラと笑いかける。
「あの、落とし前つけさせて頂きたく········!」
帝女様は思いつめたようにそう仰る。
「落とし前·······? 私、ですか?」
落とすって?前に??日本語は分かるけど、直訳では分からない言葉がまだ時々あってもどかしい。
私は下を見た。
「敦人のこと、どうするおつもりですか?」
「ど、どうするとは·········!?」
どうするも何も、
敦人っていう人は権野公爵家の嫡男で、私の婚約者なのよね?
私はその事実を先日突然知らされた。
何で海外よっ!?って感じだった。
私は国内の有力者に嫁ぐものだと思ってたからびっくりした。
私は親の期待通りに有力者に嫁ぐ為には、自分の釣書のレベルを上げなくてはと努力は惜しまなかった。
特に勉強は優劣が分かりやすいから頑張った。
コーリア国の学校は全てにおいて成績順に並ばされる。
私は死にものぐるいで高い順位をキープしていた。
そのお陰で一ヶ月早く卒業する許可はスムーズにおりたけれど。でも私は卒業式ぐらい出たかった。
私の順位は最後には5位まで上がっていた。
並み居る貴族の子女を制して、将来国政を動かすであろう大貴族の跡継ぎもいる中での5位は我ながら凄すぎると思う。
卒業式で5番目に証書を受け取る雄姿をライバル達に見せつけられなかったのが、本当に悔しくて悔しくて今でも気を失いそうだ。
1月に行われた学年末テストの結果には満足している。
小学校時代全てを捧げた勉強の集大成を前に完全に燃え尽きていた私は、それ以降はぼーっとして過ごしていたと思う。
気づくと、粗末なニホン国行きの一隻の船に乗せられていて驚いた。
船で国を出るまでずっと私は何をしていたのだろう?
傍らには心配顔の幻覚を実体化させた王太子。
···············これが一番驚いたっけ。
王太子様とは本当は面識無いはずなんだけど·······彼は私のことをよ〜く知っていた。コワイ。
王太子様は何も知らない私に今回の事の顛末を話してくれた。
聞けば、私の家ナムグンは、今政争で弱い立場に追いやられているという。
事業も鉱山の経営が不振で、ニホン国との貿易に再起をかけて太い人脈を作る為に今回の私のお見合いに応じたとのことだ。
思わぬ実家の弱体化に、私は驚愕した。
一時期はコーリア国筆頭の大貴族だったというのに。
こちらも順位の変動は学校成績順同様に激しいのだ。
我がコーリア国はいつでもシビアだった。
ナムグン家には男も女も子供は多いので安心して私を国外へやるのだろう。
これって、私が学校の成績で5位だろうが何だろうが関係なかったんだろうな。きっと相手の年齢に合うのが私だっただけなのだ。
でも、私も成績を上げるのに夢中で、我家の事情なんて全然知らなかったのであいこかもしれない。
「私の力不足で、貴重な自国の美少女を外に輩出する事になってしまったのは実に遺憾です」
王太子様が何を言ってるのか、意味不明だ。
「あまりに旅の準備が行き届いていないようでしたので、心配で船に乗り込んでしまいました。美少女を守るのは私の使命でもあります」
重ねて意味不明だ。
王太子様の幻影の力は本当にすごいとか、もうどうでもいい。
という訳で王太子は勝手にニホン国まで着いてきてしまった。
「その、カオン王太子と、かっ駆け落ちなんでしょう?」
私はふと我に返る。駆け落ち?
········ああ、まだこの方は王太子様の戯れ言を誤解されているんだな。幻影で駆け落ちってあり得ると思う?
「駆け落ちじゃあないですよ。あれは王太子様独特のジョークです」
「えええっっ!············ほんとう?ですか?」
帝女は、手を握ってくる。
柔らかすぎるから、やめてやめて。色白の小さいお顔にお目めの周りの睫毛がびっしり過ぎる〜!
私もいつも激•美少女だねって褒められるけど、勉強に関係ないし興味なかった。自分では見えないから実感が湧かないよね。鏡って二次元だしね。
もし私も少しでもこんなんだったらヤバすぎるわ。
うん、勉強中止して人生の路線変えた方がいいと思う。
イージーモードってやつ!
ニホン国ってこんな人いっぱいいるのかな?
それで、今度は美を競って順位を決めさせられるとか?
ヤダヤダヤダ
もう私は燃え尽きたの!消し炭なの!
せっかく海外だし、もう人目も気にせずバカンスモード発動していいよね?
いや、ここは正しい発音で
「そう、ヴァカンス········」
「えええっヴァカンス!?お見合いでもないの!?」
誤解は深まった。
私達はお互いを探り合うように見つめ合った。
消し炭残りカスな私はどこか投げやりな気分。
フォローというものがございません。
コ、コホン!
帝女様は白く細い喉を震わせる。
「と、とにかく、これから貴女が敦人に相応しいか見極めさせていただきます!」
ん? 小姑かな?
そういえばさっきから何を仰っているのだろう。
これからヴァカンス決め込むつもりの
イージーモードな私に何言っても無駄ですよ?
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