111話目 心は手に入らなくても 右子side
「いつか。あんたも大阪に来なさいよね」
「うん!その時は和珠奈さんの飼ってるネコ見せてね」
和珠奈さんとの別れは、意外にも悲しかった。
船上での甲板での訓練の日々が脳裏に浮かぶ。
いつの間にか、私達は自分でも気づかない内に仲良くなっていたのだ。
保くんも徳川公爵の補佐をしないといけないので大阪に同行するらしい。
ずっと一緒にいた二人と分かれるのは、かなり、やっぱり寂しい。
心配そうな保くんの顔が見えた。
「ま、すぐに、用務員に戻るけどな」
来月の卒業までに間に合うとは思えない。
でも、そんな事を言ってくれたのでまた直ぐに会えると信じて、私は前を向いた。
「兄上ーー!用事が終わっだらぜひ東京に、来てくださいねーーー!」
何と、カオン王太子の今の姿は幻影で、本体はコーリア国に置いてきたのだと言う。王太子ともなると、忙しくて外出もままならないらしい。外国へ行くなど到底許されないので、幻影の力を研究し尽くしてこの技の境地へ達したとのこと。
カオン王太子は、あやしい美少女コレクションの趣味の事といい、とことんのめり込むタイプのようだ。
『稀の力』はこちらの『病の力』と比べると種類が一つでシンプルだと思っていたけれど、人それぞれ応用が豊富なのだと知る。
私たちは甲板へ出て、大阪へと向かう一向の船へ手を降った。
帝国学校学生組はこれから東京湾を目指す。
サンタ聖教会の船は次は東京湾から出港する予定があるらしく、返却は東京湾を指定されているらしい。
皆、要人の子供なので随身がついて来ており、生活に不自由することはない。私の随身はそもそも私は攫われてここに来ているのでいないけど、自分で何でも出来るのでその方が楽だ。
と、思ったけど船の使用人達の中に八咫烏の学の姿を確認する。いつから来ていたのだろう?
学くんは正体を隠したいのかそれとも面倒なのか、私に近寄らず遠くから手をヒラヒラした。
「大阪に行きたかった?」
甲板から水平線の向こう小さくなった大阪行きの船を見つめていると。
後ろに不機嫌そうな顔の敦人が立っていた。
「敦人って帝都を出たことある?」
「·········、前世は入れないの?
なら、この前の軽井沢が初めてかも、な」
「私もそうだよ」
「そっか、··········今度落ち着いたら何処かに連れて行ってやるよ」
「ほんと?」
「ああ、だからもう、···········誰にも拐われるな」
私は敦人を見つめた。
二人で旅行なんて、どう考えても無理っぽい。
でも敦人が約束を破るとも思えなくて········きっと安請け合いを今、後悔しているはずだ。
「敦人!お茶が入ったって!右子様も休憩しよう」
「ああ、俺はこれから航海士と話があるから、二人とも先に行ってくれ」
敦人の後ろ姿を見送って、私はつい不満を溢す。
「···········敦人って、変わった。なんか冷たくなった」
「そう、そうかな?
公爵家子息になってから大人との交渉も増えたんだろうし、大人と渡り合う内に雰囲気変わったのかもね」
「なるほど」
納得する。そうか、敦人は大人っぽくなったのだ。
「···········右子様も雰囲気変わったね」
「そう?」
「前は落ち着いた美少女だったけど。
今は、儚げというか、すぐどっかにふわふわ行っちゃいそうな············なんか妖精みたい」
アイン王子はからかうように笑った。
ふわふわ、要は、幼児化しているっていいたいの?
私はかなり鍛えたのに、伝わらないのは残念だ。
「ごめんね。アイン王子も来てくれると思わなかった。攫われて迷惑かけたよね」
「どうして思わないの?」
「えっ?」
「僕は、君の筆頭の婚約者候補者なんだよ。
敦人より心配してるかもって、
··········これからは思ってくれない?」
「そう······?」
アイン王子は切実そうに言った。
そんなこと、どうしたら思えるんだろう?
アイン王子は麻亜沙が好きなはずだ。
私の方は、アイン王子と結婚するのがその時の状況で最適ならもちろん構わないけれど、彼の心まで手に入るなんてずうずうしいことは微塵も思っていない。
政略結婚でも心は自由でいたいと思う。形だけとはいえ夫婦になるのだし、その時はぜひ気を使わないで、どうしたいか言って欲しい。
「ナムグン•チェアは敦人と婚約を結ぶ予定なんだ。それで今回は留学という形式でニホンに来たんだ。僕が君と婚約するために留学したのと同じに」
「えっ」
「やっぱり、敦人から聞いてない?」
「か、駆け落ちは!?」
「かっ駆け落ち!? 誰と、誰が!?」
「アイン王子のお兄様と、チェアさんが、」
「はああああ〜!?」
アイン王子が驚いている。彼も聞いていないみたいだった。
「兄さん、結婚してるよ!?それも18歳の時に。もう4年だ」
「えええっ。でも、確かにカオン王太子がそう言って·······」
私は真っ青になってしまった。
チェアさん、妻帯者と駆け落ち中なの!?
え、しかも、
婚約を結ぶ!?
あ、敦人と!!
「ダ、ダメダメ!!そんなのダメよ!」
「み、右子様落ち着いて。きっと、これは兄さん独特のジョークで、·········よくやるんだあの人。
あっ、どこ行くの右子様!!」
「···········!」
私は、敦人が好きな人と結ばれないのは
自分の事より許せなかった。
敦人が幸せになれない可能性は潰していかないと!
私はチェアさんのいる、
お茶が用意されている食堂へと駆けていった。
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