107話目 フェイクと攻撃の2日間(2) 敦人side
熱海港から今日中に船を出すと言うと、アインは自分もついて行くという。
内心では、これはニホン国内の争いだからコーリア国の王子であるアインには遠慮してほしいと思う。しかしサンタ聖教会へ船舶を借受ける口添えをしてくれた以上、無下にもできなかった。
ところで、あからさまに海外勢力の助力を得た場合に心配すべき事がある。
『外患誘致罪』という罪は、外国と共謀して国に対し武力を行使させた場合に成立する罪で、あの有名な『国家転覆罪』よりももう一つ重く、ニホン国では最も重い重大犯罪とされている。もしこれで裁かれるなら最も厳しい極刑である絞首刑が縄を綯いつつ待っている。
これが最近では、主に政権争いに破れた側にあれこれ理由をつけて裁くための便利なツールに成り下がっているというから、本当に恐ろしいご時世だ。
例えば今回の場合に当てはめると、徳川公爵家が万が一にもニホン国の政権を握ってしまったとする。
そして俺は右子を助けるためアインの財力だの私兵だのを借り受けて戦って、万が一にも敗北したとする。
その場合、俺は政権側から外国と共謀して国に対し武力を行使させたとして、この『外患誘致罪』という重罪と国賊という汚名を着せられて裁かれる可能性があるわけだ。
なんてまあ、徳川公爵家が政権を握ること自体、万が一にもなさそうな可能性だけどな。
とはいえ、外国と取り引きをする時はそのぐらい背景を精査して細心の注意を払わなくてはいけない。
これは、父にいつか言わなくてはいけない事だ。
「うわあ~潮風が気持ちいいね!」
甲板で佇んでいると、アインのはしゃぐ声が聞える。
と思ったら、カモメに餌をやりだした。どんどん集まってくるカモメに包まれもみくちゃになりながら、
「これってカモメ?ウミネコ?」
と聞いてくる。
「知るか」
遊びに来たんじゃないぞ、全く。
あの顔色が悪い神父が言っていたのと、他からも裏を取るとやはり徳川公爵家の船は大阪を目指していると当たりをつけて、ここで待ち伏せする計画だ。
サンタ聖教会から借りた船舶で、便利なので中で働いていた乗組員もそのまま雇うことになる。
船舶の操縦任務や通信業務をこなす航海士や
船のエンジン部の管理などに携わる機関士など皆エキスパートなので技術は心配いらない。調理師もそのまま雇ったから食事も安心だ。
気づけば船内はみんなコーリア人だった。
というか、第2王子乗ってるしな。
「シウ!あそこ!大きな船舶がある!徳川公爵家の家紋だよー」
アインが双眼鏡片手に大声を上げて知らせてくれる。
あの、日本人なら一目で分かる葵の御紋の艦首旗が船首にはためいているのだろう。
「ようやく追いついたか!待ってろよ、右子·······!」
「待って!様子が変だよ·······」
アインの所へ行って双眼鏡を奪い取る。
もっと向こうの海原を眺めると、遥か彼方から数多の船団がゆっくりと近づいて来るのが見える。
「何だあれは?」
どう見ても、ニホン国へ攻めてきた外国の船団にしか見えない。艦砲のような武装も確認できた。
「どっどうしよう!?徳川公爵家の船が······襲われそうだよ!?」
それは·······?
直ぐに助けないと。
そう思った。
「あ!?」
「ど、どうした?アイン!!」
「あれさ······コーリア国の船だ。国章がはっきり見えるわ······」
あちらの艦首旗にはコーリア国の国章が陽の光を受けて輝いていた。
徐々に船団が近づいて来ると、
乗組員達がざわめき始めた。
それはそうだ、みんなコーリア人だからな。
この船にも多少は武装の用意がある。
「攻撃········用意!」
「シウ!止めて止めて!」
「何だよ、取り敢えず、撃たないと······」
「取り敢えずって、どっちをだよ!」
「え?それは、あの船団、だろ?」
「ダメだよ!俺たちはコーリア人なんだ!しかも、国章を使うのは王族だけなんだ。僕の身内かもしれない」
国章って国旗のように国民ならみんな使うと思ってたぞ。そして、そんなこと俺の知ったことじゃない。
「いや、
右子の乗っている船がコーリア国の攻撃を受けるかもしれないだろ!?」
「そっそれは·····
そうだ!どうせ徳川公爵家の船はコーリア国の船団が撃沈させちゃうだろうから、その前に僕があの船団のリーダーに交渉して、右子様は速やかにこちらへ引き渡すように今から無線で伝えておけばいいよ!
どの道攫われてるんだから、正義はこちらにある」
俺は正直、今まで右子の安否は心配していなかった。徳川公爵家の膝元で、結局はぬくぬく過ごしている構図しか不思議と思い浮かばない。あの和珠奈さんとは喧嘩しているかも知らないけれど。
それでも俺が船舶を用意してまで追うのは、あの保とかいう男だ。
このまま攫われて、年端がいかぬ今のうちから人質にされ最終的には徳川公爵家のあの男の嫁にされてしまう危険があるからだ。
「いや·······そうだな。まずは徳川公爵家を撃って右子を助け出さないと」
徳川公爵はこのままだと数の利で負けるだろう。
同じ国とはいえ、俺は徳川公爵に義理立てする謂われはなかった。
コーリア国の狙いは分からないが、右子の件に関しては関与しないと思える。こちらにはアインもいるし話し合えば済むだろう。
アインが船内の無線室に駆け込んで行った。
俺はもう、右子を助けに来たのか捉えに来たのか分からない立場になっていることには、
悔しいかな、気づかないフリをした。
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