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106話目 フェイクと攻撃の2日間(1) 右子side

私と保くんが甲板に出て海原を眺めると、立ち並ぶ船は15隻だった。

でもエネルギーを感じるのは中心の一隻のみ。

後は、······フェイクだと思う。


「おいっ!出てきたらダメだ!」

私達を見て、徳川公爵の怒鳴り声が聞える。


徳川公爵にフェイク船のことを伝えると、暫く考えていたが、

「無線での呼びかけにも応じないし、仕方ないな····!」


「砲撃用意!」

私の教えた一隻に攻撃を加えた。


····ド•ドォン·······!


すると、数多の船は消え失せて、攻撃した一隻のみ煙を上げて残されている。


「ほ、本当に一隻だった······」


「恐るるに足らないな!撃沈させてしまおう!」

徳川公爵が張り切って言い放ったその時、船内から乗組員の声が聞こえた。


「相手が無線の呼びかけに応じました!」


皆で操縦席へと駆け込むと。会話は始まっていた。


戦闘の停止。船舶の故障を受けての救助要請だった。

「後、貴人が乗っているとのことで、それに応じた対応を求めてきています」


「貴人だぁ~!?そっちからゴチャゴチャやっといて、船が壊れたから助けろだあ!?ずうずうしいな!」

と公爵はお怒りだ。

とはいえ、相手に戦闘の意志がなければ、これ以上攻撃を加えては条約違反になるらしい。この世界にも海上における国際条約はあるのだ。

ましてや貴人が乗っているとすれば細心の配慮が必要になってくるだろう。



こちらへ移ってきたのは、

綺羅びやかな美しく若い男女だった。

男は色素がとても薄く白い印象的な容姿で身長がとにかく高い。

女は可愛らしい美少女だった。

他に伴の者を数名連れている。彼らの振る舞いの洗練された様子を見ると、この男女が本当に貴人だというのは嘘ではなさそうだ。


一行は、一様に難しい顔をして船内の一番広い食堂の一角を整えた場所に案内され、食堂用の椅子に腰かけた。


「こちらの要望を受け入れて頂きありがとうございます。とはいえ、突然の一方的な攻撃は条約違反ですね。我々はコーリア国の要人ですよ?壊れた船舶と慰謝料を要求します。払わないなら出るとこ出ましょうか?」


「ここ2日間のそちらの威嚇する行動に問題がある。こっちこそ出るとこ出て正当な所で訴訟して争ってやるぞ」


「威嚇?何のことですか?」


貴人も公爵も、両者とも一歩も引かない。


私は消えた船舶の事ばかりを考えていた。

あの現象には心当たりがあった。アイン王子の顔が思い浮かぶ。

「あの·········あれは『稀の力』ですか?」

「おいっ」

保くんに諫められる。


貴人の一行は驚愕の表情を私に向けてくる。

わたしの事をすっかり忘れていた公爵が慌てて言う。


「しまった!部屋に引っ込めておくつもりが··········保!部屋へお連れしろ」


そうだった。『稀の力』も隠匿するべき力だろうに、あけすけもなく質問してしまった事を後悔する。

私は自室へ連行されそうになっていると、自分は貴人だと宣う男は鷹揚に口を開く。


「『稀の力』を知っておられるとは。拝見したところ、貴女も高位の方とお見受けしましたが·····お名前を伺っても?」


「保!」

早く連れて行けと公爵は急かした。


貴人だと自称する男は早口なのにそれを感じさせないのは、奥行きのある透き通った低音の声のせいかもしれない。

私が到底答えない訳にはいかないオーラと圧迫感を感じていると。


「ああ、こちらから名乗らず失礼しました。

私は、リー•カオン コーリア国の第一王子です」


暫し、静寂が訪れた。

まさか、こちらが正体を明かす事はないと思っていたようなお供の侍従らしき人たちは、一気に顔色を変えて慌てている。


「でっ殿下!?お忍びなのでは!?」


「あっあの、わたくしはナムグン・チェアです。コーリア国の貴族の娘です」


王子の唐突な名乗りに続いて、貴人の少女の方も急いで名乗らなければいけなくなり、慌てている。



「はあああ!?なんで王子がこんな所に来てるんだよ!?しかも、太平洋側だぞこっちは!」


公爵が動揺している。


「はい。訳があり身を窶していますが、ぐるっと東京湾までの船旅の予定でした。

·········入港許可証もきちんと取得したというのに、無線などの通信機器が故障してしまい通信手段が絶たれて東京湾に入港できず困っていたのです。

東京湾は厳重なので無線で連絡を取り承認されるまで中には入れてもらえません。

この海域で、あなた方の船が近づいて来たので湾の管理局と連絡を取ってもらおうと交渉する為に後を付け回してしまいました。それが威嚇と取られたのなら、逆にお詫びするべきかもしれません」


「え·······そうなの?救難信号とか救助の旗は?出した?」

公爵は呆れている。


「もちろんやりました!しかし、それらは外国なので勝手が違ったのです!」

カオン王子は突然立ち上がった。


「しかし、先程になって、発電機が煙を吐いてショートしたと思ったら途端に動き出し、電気系統が正常に動き出し無線に応じることができたのです!」


「あ·······」


もしや、私の『病の力』でかき混ぜたの、ショートさせるつもりが、逆に修理する結果になったのかな?

ま、まあ結果オーライってことで·······


というか、

まさかあの海原にズラリと整列した船団が、よもや通信できない可哀想な一隻の船だと、誰が思うだろうか?

防衛の為仕方なく『稀の力』で周りを船で固めたと主張しているけど、もっと他人の目線で考えるべきだと思う。


保くんも目を丸くしている。

「いや········そもそも、そんな方々がなぜ一隻で船旅なんてしてるんですか?」


第一王子カオンはニヤッと笑った。

チェアという貴族の娘は慌てて発言を止めようとしているようだけれど······


「ここだけの話、···········私達は駆け落ち中なのです。

この国へ亡命しようと貧相な船に身二つのみを預け、こんな所まで流されて来たのです」


爆弾発言が投下された。

王子は、自信満々に身をのけぞった。


読んでいただきありがとうございます!

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