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102話目 もう後戻りできない甲板の上で 右子side

誰もが思わぬスピードで、その徳川公爵家の復讐の時は近づいて、そしてもう通り過ぎていた。


「これが帝女かあ?ちっこいなぁ」


恐ろしい死神の夢から目が覚めると、近くで成人男性の声がする。私はよく分からない場所にいた。


「···············しまった」


「しまったって何?驚かないの?」


驚いてるでしょ、私。


だってここ、外にざこ寝だもん。

私は寒空を見上げてブルッと震える。

夢で親切な人から掲示を受けていたからもっと警戒すべきだったのか、いや目覚めてこれだし無理でしょ!?

でもお陰で驚きはそこまでじゃなかった。

鷹揚なこの男の声を聞くと、拐かしは既に完了していると分かる。ちょうどどこかに運び込まれた時だったようだ。

私ってずっと寝ていたの?睡眠薬使ったのかな?

リカバリーを頑張ろうかと思ったけれど、それも諦めた。


朝焼けの中、次第に周りの風景が明らかになっていく。


ここは海の上だった。


正確には港から出港しようとしている船の上だ。

潮風がふいている。

うん、これは頑張りようがない·······

私はゆっくり立ち上がって周りを眺めた。

ぼんやりする頭に鞭打って考える。


「徳川公爵家の方ですか?」


「うん、俺、徳川公爵本人ね」


えっ·········嘘か真か俄には信じられない、公爵本人が人攫いとは世も末だ。

ボスが出張ってくるなんて。

とはいえ、あの帝国学校の包囲網を人攫いして逃げおおせたのなら、さすが徳川公爵本人といったところだ。

船はかなり大きいが軍艦というわけではない、交易船のようだ。


朝焼けからすっかり変化した青空の元、ニカっと笑う筋肉隆々の大男は40代ぐらいだろうか、健康的な白い歯が眩しい。

空を飛び交う白いカモメもチカッチカ眩しい。

もっと言うと雲も甲板も白くて眩しい。

こんな青空に白が眩しい港の風景は、前世に施設の皆で横浜に遊びに行った時を思い出す。

そこで特に思い出せるようなエピソードはない。でも港に行ったのはそのぐらい遡らないと記憶にないのだ。


今世では私はこんなに遠出したのは生まれて初めてかもしれないと思った。


そう思えば、昨日さっさと和珠奈さんに捕らわれなかったことさえ悔やまれる。先にはこんなに晴れ晴れとした景色が広がっているとあの時は思いもしなかった。


ここは東京湾だろうか。沢山の大きな交易船が行き交っている。この国で一番大きな港だろう。


「この港はニホンで二番目に大きな港だ。一番はもちろん大阪だな」


「そうなんですか?」

確かに前世でも大阪港は大きな港だったはず。


「これから向かうからな。目を刮目してろよ······」


「あの、私はこれからどうなるのですか?」


「あのさあ、逆に聞きたいんだけど、どうなると思ってたらそんなに落ち着いてられるの?

目がキラッキラに輝いてるのは俺の気の所為?」


「えっと、和珠奈さんの提案でしたら、平民に落ちるのか、このままの身分で幽閉されるのか?ですね」


···········できるなら後者は遠慮したい、とは言わないでおく。嫌な方にワザとされるかもしれないので。


「和珠奈か、あいつ苛烈過ぎて俺すら今回のこの展開についていけてないよ。でも大事な一人娘だからさ、一応救助と報復はしないとね」


「私を攫ったのは報復ですか?」


「あの学校に他に金目のもの無かったからかな。帝女なんて、一番高価なものを盗めば仕返しになると思った。

··········だから君の処遇なんてまだ決まってないの。

しかし、和珠奈が同級生の君にそんな残酷な事を言うなんて〜我が娘ながらコワイ」


私も怖いです。特にあの怪力が。

でも、和珠奈さんも無事でここにいるようで良かった。

揺れる小屋を思い出して、今夜も悪夢を見られる自信がある。

そういえば、昨夜の私の悪夢には誰かゲストがいた気がしてならない。徳川公爵家の報復を示唆する親切な掲示は受けたけど、それってどんな人だったかしら。

·········夢っていつも思い出せない。


「まあ、安心してよ。君は人質だけど賓客扱いだから。ちょっとした旅行だとでも思ってもらえれば。

本当は帝女とこんな話し方なんて、許されないような間柄なんだけど、スマンね。もう癖で丁寧に話せなくて。」


「いえいえ、十分ご丁寧ですよ」


「えっそう?丁寧?どこ基準?」


あ、前世基準なのかしら、そういえば大人のくせに随分砕けた話し方なのかもしれない。

公爵らしくないのは確かだと思い直す。


「お気になさらず······スムーズに会話できる方が大事なので。」


「あははは、本当に君って変わってるね。何歳だよ。和珠奈と違う方向に振り切れすぎだろ」


公爵は笑いを堪えている。


「私は殺されないのなら、他には何が恐ろしいということもありません」

私は前世の絶命の仕方が悪かったせいか、『死』に対して突出した恐ろしさを感じる。死ぬのが一番怖いって、実は普通かもしれないけど。


「なるほどね、その肝の据わり方気に入ったよ。和珠奈とめっちゃ気が合いそうなのに、なんで喧嘩してるの?」


何でって、単なる喧嘩みたいに言わないでよ。

和珠奈さんは私の替玉をやってくれて、でも右子に一生成り代ると謀反を起こして·······

あれ、でも徳川公爵はこんな感じだし。

どうしてあそこまで彼女は右子に拘ったんだろう?

そして、私もどうしてあんなにムキになっていたのかな?


「君の侍女に和珠奈付けたいけど、どうかな?あんな目にあったしやっぱり嫌?」


「嫌ですよ。だって、幽閉とかされるんでしょ?」


「ナイナイ、君って抵抗しないし幽閉しなくて良いみたい。君に和珠奈の友達になって欲しいんだよ·····あっそうだ!あいつに仲裁に入ってもらえばいいのか!」


「あいつ、ですか?」


「お兄さんだよ。呼ぶね!」


えっ、誰?呼んじゃうの?



程なくして、気まずい表情の三人が揃ってしまう。


「ささっ!仲直りして!」


無神経な公爵の仲裁に、和珠奈さんもお兄さんらしき人も、そして私も一同イラつく。


子供同士だから仲良くできるでしょってお気楽な世界観、

止めてもらえませんか?

読んでいただきありがとうございます!


漆あんかのTwitterへもぜひお越しください♪

小説のイラストものせています。

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