100話目 ブラコン•バトル!!(4) 右子side
おかげさまで連載100回目に突入です····!
活動報告欄の過去ログに100回目を記念して4コマ漫画が掲載されていますので、お暇があればぜひ探してみて下さい(^○^)
軽井沢での学の様子は96話目に少し記載してあります。分かりにくくてすみません。
「右子」
見ると保くんは目を覚ましていた。兵士にもたれかかってこちらを見ていた。
「保くん!?大丈夫!?」
一時は死んでるかもとまで思ったけれど、彼は無事だった。軽い脳震盪·····といった感じだったのかもしれない。
「右子、こっちに来て?今別れたら当分会えないと思う」
保くんは、こちらに手を差し出した。
確かに·······このまま徳川公爵家に去られたら、
当分会えないどころか最悪の事態になる。
戦闘はずっと続いている。
いつの間にか兵が増えている。
「みっ右子様が二人!?」
焦った声が聞こえた。
二人共に包帯を巻いているので混乱の極みだろう。
どうやら彼らは制服から警察隊と分かる。事情はよく分からないが、近衛師団が戦っている方を敵とみなして応戦しているようだ。
近衛師団と警察隊が二つ巴で学校は守られていると聞いていたのは本当だったようだ。
これは、厳重に守る為というより学校組織内の権力争いが元になっているような噂を聞いたけれど······
徳川公爵家の私兵というのは皆、揃いも揃って強靭な肉体を制服のように纏っていた。この人数で近衛師団と警察隊を楽々と躱しているのだから大したものだ。
このままだと本当に逃げおおせてしまうかもしれない。
さすがに国境を守る徳川家の兵士だと感心してしまう。少数精鋭といった感じだけれど、生徒の制服や教師等の服装に紛れているので全体像が掴めない。
このまま和珠奈さんと保くんを逃したら徳川公爵家と帝都側はどうなるんだろう?
せ、戦争······?
私は保くんに首を振った。
「だめだよ!本当に内乱になるよ。今ここを去ったら戦争になるかもしれない····!」
「そもそも徳川家だしね。右子が来てくれるなら別に戦争になってもいいけど」
徳川家は根底では帝に遵従していないと言いたいのかな?元帝子とは思えない発言だった。
「·········私が来たらなんて、それは関係なさ過ぎるでしょ·······」
「右子、そいつお話にならない。ねえ、そっちに行きかけてるよ?ダメだこっちに来て」
敦人が保くんの方へそろそろ歩みを進ませていた私に気づいて、私が手首からぶら下げていた縄の端を掴んでぐいっと引き寄せた。
私はバランスを失って転んだ。
「敦人!何してるの!そんな風に引っ張ったら転ぶに決まってるよ!」
アイン王子が怒ってくれる。
「·······ごめん。でも右子が悪い······」
何だこれ。
言いたいことを言ってくれる。
敦人、事情を知らないよね?
私は盛大に転んで地面に手をついて、
今世紀最大に困っていた。
このまま和珠奈さんと保くん二人を逃したら、帝都側と徳川公爵家側は最悪の場合は戦争に······
かといって、このまま二人を捕まえられたら、和珠奈さんと保くんは国家転覆罪で裁かれる?
国家転覆罪とはこの国で二番目に重い罪だとされている。無事ですむとは思えない。
じゃあ、詰んでるじゃん。
·········ど、どうしてこんなことに·······
「右子様。何を考えているのですか?」
そこへ奏史様までも戦闘を離れて近づいてきた。私の不穏な雰囲気を察知したのかもしれない。
私の手を取って立ち上がるよう引き上げてくれる。
そして手首に結びついたロープを解いてくれた。
正直、もっと地面に手をついていたい気分だけど。
「まさか、保についていこうとお考えではないですよね?甘言に乗らないでください」
「奏史様········」
私の行動パターンを勝手に読まないで欲しい。
私は、もっとこう、全体の平和について考えている。
この世界の人達は乱暴で自分勝手過ぎる。
自分勝手に生きて、人から自分勝手されても平気な顔をしている。
今だって、私ばっかり空気を読んでいるみたいで嫌だ。
だけど、周りの平穏と平和を望む。
これが、私だ·······
「奏史様、薔薇のお手紙を渡して頂けますか?」
私は奏史様の手を握っている。
即座に奏史様は手を引き抜いて、しまった、という表情に変わる。
「·········大事な証拠です」
奏史様はそう言いつつも、
和珠奈さんからの手紙を懐のポケットから出した。
私は奏史様に『病の力』を使ったのだ。
「私宛の手紙ですからねっ」
後ろめたい私は言い訳しつつ、手紙を受け取った。
元はと言えばこれが発端だった。
そして、二人のブラコン少女が皆を拗れさせた原因。
「警察隊の代表は?」
「金原宮····芽武生です」
奏史様が答える。
あ、金原宮家の次男の人か。
戦闘は止まない。けれど、コレさえ無くなれば二人がどうにかなる最悪の事態は無くなるのでは。
保くんはもう体調を戻して戦闘に加わっている。
ようやくここに来て、数の有利が効いてきたようだ。疲弊してきた徳川公爵家の兵士達は続々と膝を折って戦闘を終え始めていた。
和珠奈さんも既に捕らえられていた。
私を睨む目の疲労の色は濃い。
勝敗はついた。
私は和珠奈さんの目の前に行った。
そして、薔薇の便箋の手紙を勢いよく破った。
儚く紙吹雪を散っていく。
「ああ!!」
「これに加えて、事情をよく知らない警察にあなた達の取り調べを任せます。曖昧にはぐらかせば罪は逃れられると思います」
「くっ!なぜそこまで·········」
「帝女として、これ以上の争いを防ぎたいです」
保くんは、呆れたような顔をして私を眺めながら佇んで居た。
私は保くんに近づいてこっそり耳打ちした。
「今夜、夢の中に来てもらえますか?」
「!」
血塗れの保くんは、大人しく頷いた。
八咫烏の学に聞いた通り、帝のように保くんも人の夢に入れるようになっているというのは本当みたいだ。
でも、保くんが夢に現れたことは無かったけど、大丈夫だろうか?
私はようやく彼と話をできるかもしれないと
はあっと、安堵の溜息をついて寒空を見上げた。
本当に、これだけのことだったのに、
ひどく遠回りをしたわね····
読んでいただきありがとうございます!
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