0話目 (プロローグ) 崖から心中
異世界日本ものが書きたくて始めました!
舞台は明治大正ロマン香るイメージです。
魔法が存在します。
『俺は喉から手が出るほど爆弾が欲しい。』
SNSで幾度となく彼が呟いていた言葉だ。
それで何を爆発させるつもり?
そう聞けば良かったのにね。
私は聞かなかった。
彼の地獄を理解しなかった。
彼と向き合うのから逃げていたのだと思う。
施設で一緒に育った親無し子の姉弟だというのに。
大人達に小さかった私が彼と姉弟だと嘘をついて数年後、
彼は実の親と名乗る夫婦と共に隣国に渡って行った。
結局、嘘はバレるものだ。
それでも彼は私を許してくれて、離れ離れになってからもメールやSNSでのやり取りは細々と続いていた。
後で判明した事だけれど、彼のそこでの新しい生活は酷いものだったらしい。
彼はずっと帰国したがっていたという。
八つ当たりなのか何を思ったのか、彼は私の新しい家族を恫喝し犯罪まがいの嫌がらせをしてくるようになった。
私はただ彼の恐ろしい言葉と行為がイヤでただ避けるしかなかった。
隣国の大金持ちでそこへ行けば幸福に暮らせるからと施設から送り出された彼は、確かに裕福には暮らしていたそうだ。
しかしそこは血と悲鳴と嗚咽に塗れた汚らしい金が渦巻く混沌の住処だった。
彼が自分で手を汚したこともあったという。
彼はその場所を『悪の教団』と呼んでいた。
彼はそこの幹部の息子だった。
······その後、彼は自作の爆弾と殺戮兵器を使って教団の幹部を一網打尽にしたらしい。
彼が日本に戻ってこられたのは、日本で未曾有の大震災があり国内に壊滅的な被害をもたらした後だった。
彼はあらゆる手を使って被災し消息不明の私を探し出した。
そして········もう其処は切り立った崖の上だった。
私の後ろ足元には崖下が遥か霞み口を開いて待ち構えていた。
彼が私をここまで憎んでいたと知ったのは手遅れで。
引きずり込むように突き落とされる私と
彼の体も一緒に奈落へと落ちていくのを見た。
それが最期だ。
『·······えっ······これって心中みたいじゃない?』
二人で絡まって落ちていく中、
戸惑いながら隣の彼の顔を見ると、
彼は悔しそうに目を瞑った。
······お互いに悔いが残る人生ってわけね。
もしも来世があるなら
もう私は裏切らない。
来世をかけて
彼から目を逸らさないと誓う。