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どうしたら会えますか?  作者: 花崎有麻
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エピローグ3

 それから、僅かに時は流れた。

 イコと出会ってからちょうど一年。高校三年の夏休み。周りは受験ムード一色で、鬼気迫る形相で勉強に励んでいる。そんな中、尋人はアリスにログインしていた。

 目の前にはもう見慣れた不動産屋。そこで今日、例のマンションの購入権をかけた抽選会が行われている。

 マンションの人気は高く、定員よりも遙かに多い人数が購入権を求めている。この抽選で勝ち残らねば、あの部屋を買い戻すことはできない。その抽選会はまもなく始まる。

「……やる気を出したかと思えば。いいのか、勉強は」

 その様子を後ろから見ていた古山が尋人に声をかける。尋人は少しだけ首を動かしてあきれ顔の古山を見やった。

「勉強はしてるよ。でも、これはこれで重要なの」

 なにせあの部屋はイコとの思い出の部屋だ。誰にも渡すわけにはいかない。

 勉強主体の生活に切り替えたため、部屋を買うために必要な金額を集めるのに苦労してしまった。ようやく貯まったかと思えば希望者が殺到して抽選会が行われることになっていた。

 きっと、ここを逃したらあの部屋は手に入らない。あの部屋を買い戻してもイコと再び会える保証なんてどこにもないが、あの部屋が手がかりであることに変わりはない。早くイコに会うため。そして思い出のためにも、絶対に他人に譲るわけにはいかなかった。

「それに、僕がやる気を出せばできないことなんてなにもないしね」

 自信に満ちた表情を向ける。古山はそれを憎たらしい目で見返した。

「そういえば、前回の全国模試は一位だったな。周りの連中が射殺さんばかりの視線を向けてたぞ」

「知らないよ、そんなこと。周りなんてどうでもいい。僕は僕の目的のために努力してるんだから」

 誰にも譲る気などない。目的のために全国で一番、世界で一番頭が良くならなくてはならないのなら、世界中の誰よりも勉強してやる。そう尋人は決めているのだ。

「それに、簡単に日本で一番をとれないようじゃ、世界の壁を越えることなんてできやしないからね」

 言い終わるのと同時に抽選会が始まった。尋人は画面へと視線を戻す。

「……そんなに好きなわけか」

「当然。だって、運命だからさ。イコのことも、それに、この部屋のことも」

 正直、心配などしていなかった。イコの言うとおり、二人の出会いが運命なら、もう決まっているのなら、そこへ向かう道は続いている。あとは間にある障害を排除して歩くだけだ。

 必ず出会う方法はある。必ず部屋の購入権は手に入る。

 尋人は、そう信じている。

「まあ、なんつーか。幼なじみのようなものとして、俺もなんか嬉しいわ」

「結婚式には呼ぶから。友人代表のスピーチしてよ」

「気の早いやつ」

 なんて言って笑い合った。

 と、そんなことを言い合っていると画面の中で抽選結果が発表され始めた。そして当選者の中に、尋人は――。

「……ほらね、当たったでしょ?」

「運の良いやつ。……いや、運命か?」

 尋人は微笑んで応えた。

 購入権は手に入れた。いくつかある部屋の中から、迷わずあの部屋を選択する。

「それじゃ、ちょっと行ってくるよ」

「おう。行ってこい」

 尋人は購入手続きを済ませ、その足で通い慣れた道を行く。

 マンションのエントランスを通り、部屋へと向かう。

 一年ぶりの景色だった。そこにはあのときと同じで他のアバターの姿はない。自分が一番乗りだ。

 部屋の前にたどり着く。あとは設定したパスワードを入力すれば部屋のドアは開く。

「……。よしっ」

 可能性は低いと、自分でもわかっている。でも緊張せずにはいられなかった。

 もしかしたらこのドアを開けた先、部屋の中にはイコがいるかもしれない。そう思うとパスワードを入力する指先が震えた。

 間違えないように、パスワードを入力する。

 そしてそのパスワードは、もちろん決まっている。

 それは二人の出会ったきっかけ。運命の番号。再会の約束。

 尋人はそのパスワードを入力し、ドアを開いた。

 必ず再会できる。

 そう信じて、その一歩を踏み出した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 電脳世界と言う現実から乖離された場所と、すぐに消えてしまうオープンベータと言う時間の制約。更には交わる事のない並行世界の設定。 そんな限定的な世界だからこそ、尋人とイコが寄り添い、語り合う…
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