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しかしである。
尋人が実は近いところに住んでいると知って、急激にテンションが上がった。そしてその勢いのままに会う約束までしてしまった。だが、少し冷静になってみるとそれは大事なのだと気づいた。
なにせ尋人とは初めて会うのである。緊張感が体中を支配し、頭の中がぐるぐるする。
「服、なに着てけばいいんだろ。あ、美容院とか行ったほうが……。ああ、でも水着と海代でそんなお金は……」
イコにとって尋人は、もうそこら辺にいる普通の男子とは違う。
これだけ運命的な要素が揃っているのだ。運命を信じるイコにとってはとても特別な存在になっている。だから尋人と会うならちゃんとしたいし、尋人にもよく思われたい。どうせなら楽しい時間を過ごしたい。
でも、なにをどうしたらいいのかわからなかった。
今まで男子と二人で出かけたことなんてなかった。出かけても集団で、男子も女子も複数人いたし、そういう男子の中に自分が運命を感じた人はいなかった。だからその彼らはイコにとっては特別でもなんでもない普通の男子なのだ。
でも尋人は違う。そんな彼らとは違う。
普通の彼らなら服装も髪型も適当で良かった。おかしくない程度のものでよかった。でも相手が尋人なら話は違ってくるのだ。
イコは立ち上がるとクローゼットを空けて持っている服を引っ張り出す。そして一着ずつそれに着替えて姿鏡の前に立ち、ポーズをとっては髪型をいじくる。
しかしいくら髪をいじっても、もともとショーットカットなイコの髪型に長髪ほどのバリエーションはない。こうなったら色を変えてみようかとも思ったが、お金に余裕がないうえ、尋人が黒髪派だったらまったくの無駄になる。
「うぅむ」
唸りながら毛先をいじり、服を着替えてはまた唸る。
そんなことを小一時間繰り返し、ようやく服を選び終える。そしてその姿のまま尋人と二人でモールの中を歩く姿を想像する。
そしてその瞬間、床の上に座り込んだ。
(そういえば、いろいろなことがあって失念してたけど、これってもしかしてデートなんじゃ……?)
今更ながらにそう思った。
もちろん今までデートなんてしたことはない。男子と付き合ったこともない。だから実感なんてなかったが、こうしていざ、自分がその立場に立ってみるとなんだか妙に恥ずかしかった。
ただ二人でモールの中を歩くだけだ。でもそれをデートだと認識すると、ただ歩くだけでも見方が変わってくる。この先、海水浴というさらに大きなイベントが待っているというのに、買い物くらいでこんなに焦ってはいられない。
しかし(尋人がどう思うかはともかく)イコにとっては初デートだ。しかも自分で運命運命と連呼している相手だ。緊張するなというほうが無理である。
もう一度、二人でモールを歩いている場面を想像する。
ごった返す人の中を、知らない人と肩をぶつけながらすれ違う。気遣ってくれる尋人、そして必死についていく自分。でも人の波には抵抗できなくてバランスを崩して、思わずあげた少女らしい声に尋人が振り向いて、さっと手を伸ばして支えてくれて、危ないから手を繋いで行くことになって――。
「うへへ」
そんなことを考えて、気持ち悪い笑みがこぼれた。そして同時に恥ずかしくなる。姿鏡の中の自分の顔は、とてもじゃないが他人には見せられないものだった。
とにかく、二人でモールを歩くのは危険だった。いろいろな意味で。
イコはスマホを手に取る。そして見慣れた番号に電話する。
『もしもし?』
耳元で聞こえた鏡子の声。イコは改まって、言った。
「お願いがあるのですが」
『え?』
「一緒に、今度できるショッピングモールに行ってもらえないでしょうかっ」




