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どうしたら会えますか?  作者: 花崎有麻
25/41

4-1

 海へ行くことになり、その計画を立てる。しかしイコと尋人にはまず確認しておかなくてはならないことがあった。

「え、住所……?」

「そっ。だって住所がわからないとどこへ行けばいいか計画しづらくないかな?」

 二人が知っているお互いの情報といえば、本名と連絡先、そして年齢くらいだ。

 年齢はお互いに高校二年の十七歳。海へ行くと口では簡単に言えるが、実際に行くとなるとお金がかかる。しかもこの海へ行く計画は尋人の提案で急遽決まったものだ。そのため、二人にはこれからバイトをして資金を貯める時間はない。互いが互いの貯金だけで実行しなくてはならないのだ。

 そのため、自分たちの貯金額だけで済ませるためには場所も効率よく選ばなくてはいけない。お互いの家から近い、もしくはその中間点にある一番近い海。必然的にそこが二人のこの海計画の目的地になるのだ。

(とくにイコは水着も買わないとだしね。あまり遠いところはいけないよ)

「それもそうだね。えっと僕は上須ってところで」

「かみす?」

 尋人の住んでいる地名を聞いて、イコは小さな引っかかりを覚えた。

 どこかで聞いたことがある。

『かみす』なんて都道府県はもちろん日本には存在しない。ということは、『かみす』とはその都道府県に属する市町村ということになる。『かみす村』なのか『かみす町』なのか、それとも『かみす市』なのか――。

「あっ」

 一つ一つ頭の中で考えて、気づいた。

 イコの住む『茅埜市』の隣に、『上須市』という街がある。もしかして――。

「尋人! あのね、イコは茅埜ってところに住んでるんだけど」

 カメラを見つめてそう言うと、ワイプの中の尋人の顔が驚きに歪んだ。これはきっと、間違いない。

「イコと尋人って、もしかして凄い近くに住んでるってことっ!?」

 まさかという思いが強かった。

 アリスで知り合い仲良くなった相手が、まさかこんなにも近くに住んでいたなんて思いもしなかった。

 茅埜と上須は電車で一駅。自転車でも、なんなら徒歩でも行ける距離だ。

 あまりにも近い。近すぎる。

「これは――運命だねっ!」

 今の時代はネットを通じて世界が繋がっている。だからどんなに遠くにいる人とも話をすることができるし、こうしてカメラを使えば顔を合わせることもできる。

 でも偶然知り合ったその人が、まさか歩いても行ける距離にいる場所にいるなんて、本当に運命的な確率だ。

 なんだかテンションが上がってきた。

今までも運命的だと思う場面はいくつもあった。でもまさか、住んでいる場所までこんなに近かったなんて思いもよらなかった。

「……ねぇ、イコ。僕ら、一度会っておかない?」

 だから、尋人にそんなことを言われたときに、驚きはしたが拒否するなんてことはまったく考えなかった。

 今までは、もしかしたら簡単に会えない場所にいるかもしれないから、気軽に会うなんて言えなかった。でもお互いの住所を知って、簡単に会いに行ける場所だと知って、そんな考えはなくなっていた。

 会いたいと思った。だから尋人の言葉を素直に嬉しく思い、頷いた。

「いいの? じゃあ、いつなら」

「うーん。……あ、そうだっ、今度ね、茅埜に大きなショッピングモールが開店するんだよっ。そのオープニングセールに一緒に行かない? たくさんのテナントが出店するらしいからっ」

「ショッピングモール?」

「そっ。高倉グループって会社が経営してるんだけどね」

 そのショッピングモールは例の高倉青年が経営している会社が造ったものだ。プールの他にもいろいろと手広くやっている。そしてそれがことごとく成功しているのだから、彼の経営の才能は素晴らしい。

 自分を助けてくれた人が建てたショッピングモールに、自分が運命だと感じた人と一緒に行く。なんだかロマンチックな感じがしてイコは胸が高鳴った。


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