添い寝のお願い
小鳥のさえずりを聞きながら、宿屋のベッドで目を覚ます。カーテンの隙間からやさしい陽の光が差し込んでおり、そろそろ起きる時間のようだ。
クリスタルガーゴイル討伐から一週間ほど過ぎ、シンヤたちは今だアルスタリアの方で滞在していた。
「朝か、ははは……、清々しい目覚めっていいたいところだが」
シンヤはさっそく違和感に気づき、ため息をつく。
それはなにかというと、すぐ隣から誰かのぬくもりと気持ちよさそうな寝息を感じるのだ。そしてシンヤの腕は抱き枕のようにつかまれており、むにっとすごくやわらかい感触が襲ってきていたという。
「やっぱり、イオか……」
おそるおそる視線を横に移すと、真横には熟睡しているイオの姿が。
もちろんここはシンヤの一人用の部屋であり、寝るときも彼女はいなかった。だというのになぜイオがここにいるのだろうか。きっとまたシンヤが寝ている隙に部屋へ忍び込み、ベッドにもぐりこんできたのだろう。ちなみにこれで四回目であった。
かわいい女の子と添い寝するという、男にとってまさに夢のようなシチュエーション。だが実際に経験すると嬉しさ半面、湧き上がる煩悩との戦いが起こり精神衛生上とてもよろしくなかった。
「おい、イオ、起きろ」
上体を起こし、イオを起こす。
すると彼女は目をこすりながら、目を覚ました。
「むにゃ? しんやー、おはよー」
「やめてくれってあれだけ注意したのに、また忍びこんできたな」
この部屋には鍵をかけている。だがイオは魔法で干渉し、ロックを解除してくるのだ。
シンヤが起きているときだと怒られるため、こちらが寝静まったときを見計らって。
「だってしんやが、一緒の部屋で寝かせてくれないもんー。同じ宿なら一緒に寝放題と思ってついて来たのに、これだとあんまりだよー。改善を強く要求するー」
イオはジト目で文句を言ってくる。
「あのな、若い男女が同じ部屋で夜を過ごすのは、いろいろと問題があるだろ。これはイオのためを思って、別の部屋にしてるんだぞ」
「むー、そんなのしらないー。いおはしんやと一緒がいい」
「そんなにオレと一緒がいいのか?」
「うん、しんやといると心がなんかやすらぐから、一緒に寝るとすごく安眠できるー。もう、手放せなくなるほどやみつきだよー」
イオはシンヤに抱き着き、ほおをスリスリしてきた。
「ああ、抱き枕的な意味な。――も、もちろん知ってたさ……」
少しドキッとしてしまっていたが、彼女の言っている意味を理解し少し残念な気持ちに。
「ほら、もう起きるぞ。朝の身支度を済ませてくれ」
「はーい」
イオはぐぐっと腕を上方向へと伸ばし、起きる準備を。
「ごく」
そこで思わず息を飲んでしまう。イオが身体をそらしたことで、彼女の立派な胸が強調される形になったのだ。そもそもイオの寝巻はワイシャツのようなもの一枚だけ。胸元が苦しくないようにか、見えそうなぐらいのところまではだけているのだ。しかもボタンはあちこちとまっておらず、隙間から肌が見えている始末。さらにズボン系は履いていないため、淡い水色のパンツが見えてしまっている。もはや目のやり場に困るどころの話ではない。あまりにも刺激が強すぎた。
「イオ、こっちにくるならせめて服をちゃんと着てくれ。とくに下はなにか履いてこい。見えちゃってるから」
視線をそらし、理性を強く持ちながら注意する。
「えー、外でならまだしも、室内だしー。寝るなら楽なかっこうがいいー。むしろ上も脱ぎたいぐらいー」
「まじでそれだけはやめてくれ。オレの理性が吹っ飛ぶから」
「うゆ? 変なしんやー」
シンヤの動揺っぷりに、ちょこんと小首をかしげ不思議そうにするイオ。
「イオ、頼むからほんとマジで、恥じらいをもってくれ」
もはや懇願する勢いだ。この調子だと、いったいいつまでシンヤはもつだろうか。間違いを起こさないことを祈るばかりである。
「自分の部屋に戻って、着替えてこい」
「じゃあ、おんぶー、連れてってー」
イオは前へ両手を広げながら、おねだりしてくる。
そのあまりの薄着の状態でいろいろ密着するおんぶなど、ある意味拷問だろう。
彼女の頭に軽くチョップし、こわい笑みを浮かべた。
「ははは、しまいに怒るぞ」
「いたいー、もう手ー、だしてるからー」
イオは頭を押さえ、涙目に。
もはや朝からぐっと疲れたといっていい。とにかくイオを部屋まで送ることに。