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補佐役として転生したら、ダメダメ美少女勇者さまのお世話をするはめに!?  作者: 有永 ナギサ
1章1部 異世界転生!?

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旅への誘い

 シンヤたちが逃げてきたのは、森の中の少し開けた場所。ここはゆるやかな傾斜けいしゃになっていて、地面は芝生しばふしげり、花もところどころに咲いている。見上げれば太陽の輝きと、み切った青空が。周辺に魔物などの姿は見当たらず、のどかな景色が広がっていた。もはや日向ぼっこしたり、ピクニックするにはうってつけの場所といっていい。


「はぁ……、はぁ……、ここまで来ればひとまず大丈夫か。フローラ、立てるか?」


 ある程度距離をとれたので一息つきながらも、お姫様抱っこをしてあげているフローラへとたずねる。


「――うぅ……、ごめんなさい。まだ動けそうにないかも……」


 フローラはひたいを押さえ、ぐったりしながら答えた。


「わかった、とりあえず、ここにおろすぞ」

「お願いするわね」


 彼女を芝生しばふの上へと下ろし、とりあえず座らせてあげる。


「――その……、うで大丈夫かしら? 重たくなかった?」

「ははは、女の子一人ぐらい抱えて走るぐらい、どうってことないさ。それより逃げるので必死で、フローラのことあまり考慮できなかったけど、揺れとか大丈夫だったか」


 チラチラと心配そうに聞いてくるフローラへ、やさしく笑いかけた。

 ここまで彼女をお姫様抱っこし走れたのも、すべては用意してもらった身体のおかげ。前世のシンヤだったらすぐにバテていたはずなので、女神には感謝するしかない。


「ええ、あんなふうにお姫様だっこされるなんて初めてだったから、むねがドキドキしちゃってたぐらい。ふふふ、なんだかとても貴重な体験をさせてもらっちゃった!」


 ぎゅっと胸を両手で押さえ、はにかんだ笑みを浮かべるフローラ。


「ははは、お気に召してくれてなによりだよ」


 さすがに疲れたため、彼女の隣へ腰を下ろす。それからぼんやりと青空を見上げた。


「――は、はは、はははは」


 ふとおかしくてたまらなくなり、思わず笑みがこぼれてくる。


(ああ、オレ、今最高に生きてるって感じがする……)


 ウルフから全力で逃げて、滝の上からダイブ。そして美少女にビンタされそうになり、最後には強大な敵に殺されそうになるという、普通ならさんざんな目にあっている事態。しかし今のシンヤの心には、新鮮さと爽快感が満ちていたのだ。今の自分は本気で生きていると。死ぬ前の生では得られなかった、なにかがここにあったのだ。


「どうしたのかしら?」

「いや、ほんと生きがいがある、すばらしい日々だなって思ってさ」

「え? シンヤくん、ウルフに追われたり、殺されかけたりひどいことばっかだったんじゃ……」

「ははは、心躍る冒険には刺激がつきものだろう」

「――あはは……、命の危機を笑って済ませられるのね……」


 得意げに本音を告げるも、フローラにじゃっかん引き気味の反応をされてしまう。


「なんたってこれまで肩苦しい、言ってしまえばわりとつまらない人生を送ってきたからな。だからその分非日常というか、刺激がある自由な生にすごくあこがれていたんだよ。そして今、その夢見た日々が目の前に広がっている。これが胸はずまずにいられるかって話だ! この世界、サイコーってな! ははは!」


 感慨かんがいに浸りながらも、心からはしゃぐシンヤ。そしてどこまでも広がる青空へと腕を伸ばし、手をぐっとにぎった。


「ふふふ、シンヤくんて不思議な人ね。そんなに目を輝かせて、なんだか子供みたい」


 フローラは口元に手を当て、さぞほほえましそうに笑う。


「ははは、だってまだまだ始まったばかりなんだ。これからどんな冒険が待っているか、考えただけでわくわくが止まらない! いろんなところに行って、人々と出会って、うまいものを食べたり、観光したり、満喫まんきつしまくってやるんだからな!」

「そういうのいいわよね。ふふふ、少しうらやましくなってきちゃった」


 自分が冒険している姿を想像しているのか、瞳を閉じ思いをはせるフローラ。

 その興味ありげな反応に、気づけば声をかけてしまっていた。


「それならフローラも一緒に来るか?」

「え? いいの?」


 フローラは目を見開き、どこかうれしそうにたずねてくる。


「フローラみたいなかわいい女の子ならもう大歓迎さ。むしろこちらからお願いしたいほどだよ」


 そんな彼女に手を差し出し、ほほえみかけた。


「――私も冒険に……」


 するとおそるおそる手を伸ばしてくるフローラ。


「っ!?」


 しかし彼女は伸ばした手を、ピタッと止めてしまう。そして手を戻し胸元をぎゅっと押さえた。まるでこらえるかのように。


「ごめんなさい。すごく魅力的な提案だったんだけど……」


 そしてフローラは悲しげに目をふせ、謝ってくる。


「そっか、フローラもフローラでいろいろわけありみたいだな。こっちはいつでも大歓迎だから、また気が向いたら声をかけてくれ」

「ありがとう。また考えておくわ。もしそのときが来たらよろしくね。うん、そろそろ動けそう」


 フローラはお礼を言い、ゆっくりと立ち上がった。


「私はいったん街の方へ戻るけど、シンヤくんはこれからどうするの?」

「オレもついて行っていいか? ちょうど向かおうとしてたところなんだ」

「もちろんよ! じゃあ、助けてもらったお礼もしたいし、少しの間、行動を一緒にさせてもらうわね!」


 快くうなずき、にっこりほほえんでくれるフローラ。

 こうしてシンヤは彼女に案内され、街へと向かうのであった。


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