立ちふさがる強敵
「あともうちょっとで、アルスタリア前線基地跡地内だ」
「ええ、このまま前進よ!」
アドルフによって次々に道が開かれていき、まもなくアルスタリア前線基地跡地の入口付近に。
前線基地は周囲を、三メートルほどの簡易的な防壁に囲まれている。ただかつての大戦のダメージ。さらには老朽化もあわさってかボロボロであり、入口の門の部分に関しては半壊しきっていたという。
このままとくに問題もなく乗り込めると思いきや。
「ッ!?」
突如アドルフが危険を察知し、シンヤたちの方まで飛び引いて来た。
次の瞬間、さきほどまで彼がいたところへ激しい黒い雷が降りそそぎ、破壊をまき散らす。
「ひっ!?」
気づけばトワがシンヤにしがみつき、ブルブル震えていた。
そういえば彼女は雷が苦手だったのを思い出す。
「父さん!? 大丈夫!?」
「――ああ……、だが強敵のお出ましのようだ……」
「こうも早くに攻め込んでくるのはおかしいと思っていたが、やはりキサマらのせいか。勇者どもよ」
アドルフの視線の先には、魔人ガルディアスの姿が。
彼はトワとシンヤをにらみ、殺意を放ってくる。
「あの黒雷、まさかと思ったがやっぱりガルディアスか」
「シンヤ、知ってるの?」
「封印の地で戦ったことのある魔人だ」
「あの場所からどうやって戻ってきたのだ?」
「ははは、通りすがりの魔法使いさんに送ってもらったのさ」
「あの魔女か。まさかきさまらに手を貸すとはな。もはや協定は完全に破棄されたということか」
クラウディアの横やりに、眉をひそめるガルディアス。
「オレたちが来たからには、もうお前たちの好きにはさせないぞ」
「たわけが。きさまらが来たところで、もはや我らを止めることなどできん。見ろ、もう間もなく、ミルゼさまがクリスタルガーゴイルを呼び起こされる」
「なっ!? もしかしてあの中にいるのって、クリスタルガーゴイルなのかよ!?」
「そんな嘘よ!? クリスタルガーゴイルは150年前の大戦で、倒したはず!」
衝撃的事実に驚きを隠せないシンヤたち。
あの禍々(まがまが)しい黒い卵。いったいなにが生まれてくるのかと思いきや、まさかのかつて人類に多大な被害を与えた、災禍の六大魔獣の一匹。クリスタルガーゴイルそのものだったとは。
「確かにすでにやつの肉体は滅び去った。だがミルゼさまはクリスタルガーゴイルの思念体を呼び起こし、再び肉体を与えることに成功しつつあるのだ!」
「おいおい、そんな無茶苦茶な」
「クハハハ! 死した者を復活させるなど、まさに神の御業! ああ……、なんとすばらしきかなミルゼさま! そのあり方だけでも尊く、美しい極みだというのに、あのような奇跡まで体現なされるとは! あなたさまはどれだけこのガルディアスの心を、高鳴らせるつもりなのだろうか!」
ガルディアスがミルゼのことを声高らかに、絶賛しまくる。
普段の常に冷静そうな雰囲気から、想像がつかないほどのテンションの上がりっぷり。やはりこの魔人、心酔するミルゼのことになると少し残念なことになるようだ。
「みんなクリスタルガーゴイルが出てくるなら、なおさら食い止めないと! もしそのままアルスタリアに攻め込まれでもしたら、街は大変なことになっちゃう!」
「させるか! 我みずから出向いてきてやったのだ。この先、誰一人と、進ませぬ! まとめて、ッ!?」
あまりの事態の重さにレティシアも参戦し前へ出ようとするが、ガルディアスが立ちはだかる。
しかしそこへ一陣の風が吹き抜けたと思うと、彼に目掛けて精確無慈悲な銀閃が襲い掛った。
「ええい、黒雷の剣よ!」
だがガルディアスは魔法でほとばしる黒い雷の剣を生成し、ギリギリのところでガードを。
「行ってくれ、みんな。ここはオレが抑える」
「父さん!?」
一早く攻めたのは剣聖アドルフ。彼はガルディアスとつばぜり合い状態になりながら、強敵の相手を引き受けてくれた。
「人間ぶぜいが、たかが一人で我を抑えられるとでも! 黒雷の閃光よ!」
ガルディアスはカタナをはじき、もう片方の手で一直線に標的を貫く黒い雷光を放った。
しかしアドルフは持ち前の俊足でこれを回避。そしてそのまま再び間合いを詰め、目にも止まらぬ斬撃の嵐をお見舞いする。
「ハァ!」
「クッ!? なんという剣さばき。きさまただ者ではないな」
速く鋭い剣閃の応酬に、徐々に押されていくガルディアス。
一撃一撃が必殺クラスの斬撃を防ぐ当たり、敵の技量も相当なものなのがうかがえた。
「いいだろう、その技量に免じて我も本気をだそう!」
ガルディアスの殺意が一気に膨れ上がったと思うと、黒雷が使役者自身に落ちる。そしてほとばしる黒い雷が彼を包み込み、鎧と化した。そんなガルディアスから放たれる重圧は、以前封印の地で戦ったときと比べものにはならない。行使している黒雷の出力も格段に上がっていたという。
この異変にアドルフは距離を取り、カタナを構えながら敵を見さだめようと。
「なんだあのガルディアスから湧き出る力? 前はここまですごくなかったぞ?」
「ふん、あの時は封印の地の結界のせいで、常に弱体化していたにすぎん。あの忌々しい封魔の束縛がなければこの通りだ」
封印の地で戦ったときはすごく苦戦したというのに、あれが本気でなかったとは。もう一度戦うことになったら、果たしてシンヤたちは太刀打ちできるのだろうか。
「だがそこの剣士とやり合うとなれば、さすがにほかにかまっているヒマはないな。魔物ども手を貸せ」
ガルディアスの合図に、後ろで待機していた魔物たちが動き出す。
防衛のため展開していた魔物たちを一か所に集めたのか、かなりの数だ。しかも中級クラスの魔物もけっこう見かけた。
「まだあんなに居やがったのかよ。ここはさすがにオレたちも参戦しないとヤバイか」
「そうね。父さんはあの魔人の相手で手一杯だろうし」
「――い、いよいよ出番だね。が、がんばる!」
トワが不安げながらも、両手で小さくガッツポーズして気合を入れようと。
「いいや、引き続き俺たちが引き受けるぜ!」
みなで武器を構え迎え撃とうとすると、ランドたちやほかの冒険者が駆けつけてくれた。
「ランドさん、そっちはもう大丈夫なの?」
「おうよ! 後ろの方はあらかた片づけた。あとは前進あるのみってな!」
「うっ、ランドたちと一緒に戦うのか……」
ランドたちが戦線に加わったことに、アドルフが顔を青ざめ意気消沈しだす。対人恐怖症のせいか、動きがだんだんガチガチになっていた。
「アドルフ、俺たちのことはすべて無視しやがれ。じゃまはしねーし、援護もいらねー。おまえの相手はあのやべーのただ一人。完全にソロ戦だ。」
「そうは言ってもランド、近くで視線を感じるだけでも緊張してしまうんだけど……」
「ほんとアドルフはめんどくさいな。このさい剣が鈍ってもいいから、あの魔人だけは抑えといてくれ」
「父さん、がんばってね!」
「――うう……、善処するよ……」
しぶしぶうなずくアドルフ。本当にパーティー戦には向いていないようだ。
「いくぞ、野郎ども! 次はあの魔物の群れを、なんとかするぜ!」
ランドの号令に、みな気合を入れ返事を返す。
「ライラ、あの壊れかけの防壁部分を破壊できるかしら? そこからレティシアちゃんたちに、中へ入ってもらいましょう」
ローザが門のところから少し離れた防壁の、もろくなった部分を指さした。
「オッケー! アタイの特大の一撃で吹き飛ばすぜ!」
ライラと呼ばれた若い女性の冒険者は、得物である大砲のような大型魔導銃で砲撃を。
高出力の弾丸が魔物たちを巻き込みながら、一直線に飛翔。そして目標に直撃し轟音とともに破壊をまき散らして、防壁に大きな風穴を開けた。
「ゼノくんとミリーちゃん、つゆ払いしながらレティシアちゃんたちを無事送り届けてちょうだい」
「わかりました」
「しかたないなー。レティシア先輩、後輩たち、ミリーたちにちゃんとついてきてよね」
ローザの指示に、ゼノとミリーが前に出てシンヤたちを先導してくれようと。
「お願いね、ミリー、ゼノ」
あちこちで激しい戦闘が開始される中、シンヤたちはアルスタリア前線基地跡地内部へと乗り込むのであった。




